初めて無観客で行われた笠松競馬のレース。スタンドは無人だが、インターネット越しからファンの声援を受けながら、人馬は熱戦を繰り広げた

 笠松競馬場でも4~6日の3日間、新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、初めてとなる無観客レースが行われた。場内の一般スタンドをはじめ、有料席の特別観覧席、ユーホールは全て無人。ファンの声援はなく、ジョッキーたちはそれぞれに「寂しさ」を感じながらも、ゴールを目指して熱い戦いを繰り広げた。

 平日開催が定着した笠松競馬場では、1日の入場者は800人前後。スタンドでのファンの姿はそれほど多くないが、「無人」となるとやはり殺風景で、早朝の調教などを見ているような雰囲気だ。

 無観客レース初日は雨天となった。この日、2勝を飾った佐藤友則騎手。「競馬への影響はないです。祝日開催だと、ファンは多いですが、平日で雨も降っていますからね。パドックとスタンドが近くないから、馬の状態も普段通り。でも、重賞や協賛レースなどで表彰式がなくなるのが寂しい。勝利すれば、ファンと交流できるからね」と、無観客の味気なさを残念がった。

「表彰式でファンと交流できないのが寂しいですね」と話す佐藤友則騎手

 次回開催ではマーチカップ(SPⅢ)も行われ、ウイナーズサークルでの表彰式やサインなどを楽しみにしているファンは多い。4月1日からの新年度開催では、笠松競馬場で半年間実習に励んだ深澤杏花騎手候補生(18)が、晴れて笠松所属騎手としてデビュー戦を迎える予定。佐藤騎手は「杏花が笠松に帰ってきたら、歓迎セレモニーを開けるといいけどね...」とも。岩手に戻った関本玲花騎手の期間限定騎乗では、広報さんもあれだけ盛り上げてくれたのだから、ファンの期待も高まるだろうが...。

 佐藤騎手はまた、笠松競馬の現状について「こういう時期だから、馬券販売など場内で働いている人の仕事がなくなって心配だし、踏ん張りどころだね。笠松、名古屋のジョッキーから(新型コロナウイルスの)感染者が1人でも出たら、東海地区での開催がアウトになる」と憂慮。テレビやインターネット越しのライブ映像観戦者に対しては「期待に応えられるレースをして、また本場に来て、見てもらえるといいね」とファンへの思いを伝えてくれた。インパクトのある丸刈りの頭については、「いいでしょう。昨年12月からで、2回目です」とにやり。さっぱりと気合がこもった様子で、観客がいっぱい入ったレースの早期復活を願っていた。

 「無観客」に対する各ジョッキーの声。

ファンの歓声もなく、ひっそりとしたゴール前を駆け抜ける競走馬たち

 吉井友彦騎手 「しょうがないですね。乗っている方は、そんなに違和感はないです。いつも能力審査でも、同じように
(無人で)やっているんでね。12レースずつの3日間開催ですが、臨場感ある熱戦を見に来てもらえなくて寂しいです。(ネット越しのファンには)いつも通り、熱いレースをするだけです。見てもらって馬券も買ってもらえるといいです」

 筒井勇介騎手 「笠松では、あまり変わらないですね。パドックが内馬場にあって、(他の競馬場のように)ファンが並んでいないんでね...。レースで騎手がやるべきことは一緒なんで、集中して頑張るだけです」

 水野翔騎手 「レースではメンタル的なものがあるんで、ファンの歓声などで盛り上がった方が、騎手もやる気が出ます。ファンがいた方が気持ちいいです」

 渡辺竜也騎手 「やっぱりファンがいないと寂しいです。歓声が聞こえてこないんで。いつもは声を掛けてもらったりしますが...。馬は落ち着いている印象です」

  岡部誠騎手 「笠松は馬場内にパドックがあるので、名古屋とは違った寂しさがある。観客が入っていて、歓声とかで僕らのモチベーションにもなりますが...。競馬が開催できるだけでもいいですが、騎手も健康管理が大切で、関係者からも感染者を出さないように万全の態勢にしなければ。一日も早く終息してほしい。今はみんな我慢の時期ですね」

誘導馬ウイニーもどこか寂しそう。騎乗した塚本幸典さんもマスク姿だった

 無人のスタンド前にあるパドックでは、各馬がゆっくりと周回していたが、雨の中、先頭を歩く誘導馬ウイニーもどこか寂しそう。この日は装鞍所とパドックを12回も往復。マスク姿で騎乗していた塚本幸典さんは、誘導馬を30歳まで務めた「パクじぃ」ことハクリュウボーイの時代から、この道30年。「(外らち沿いでの)誘導馬の帰りには、いつもファンサービスをしていますが、きょうは寂しいですね」と残念がった。競馬場で働く一人として、無観客での売り上げも心配の一つ。馬券販売は電話、インターネットのみになったが、初日は約2億4300万円。前開催の数字に比べて大きな落ち込みはなく、関係者も一安心といったところか。

3コーナー付近を走る競走馬。後方には、場外からレースを眺めるファンの姿もあった

 無観客レースではあるが、木曽川沿いの立地条件から、堤防など場外からの観戦も可能な笠松競馬場。かつて、オグリキャップの引退式では場内が満員御礼で、入場できなかった大勢のファンが向正面の堤防沿いや東門近くの土手をびっしりと埋め尽くして見物。場内を含めて3万人以上がオグリの雄姿を見守った。騎乗した安藤勝己さんはコースを2周するサービスぶりで、場外ファンの声援にも応えていた。

 今回は全く違う形になったが、電車で来たり、堤防沿いに車を止めて「無観客レース」を楽しんだ笠松ファンの姿もちらほら。返し馬やレースを垣間見ることができ、初日の午前中は、雨が降りだす前で、十数人が訪れていたそうだ。最終レース前の東門付近では、無観客と知りながら遠くから来た若者の姿もあり、「もう1レースあるから」と土手からの眺めを楽しんだようだ。

ドバイ遠征で健闘した水野翔騎手

 世界の競馬場に視野を広げて活躍する水野騎手には、ファスバに騎乗して5着だったドバイ遠征についても聞いてみた。

 「ファスバのレースとしては、あれがベストでした」と先頭を奪って逃げた内容に満足そう。武豊騎手も3RのUAEオークスで騎乗しており、前日には一緒にワインやビールを飲み、食事もした。「武さんからはプロテクターを借りていたので、僕のレースが終わるまで待っていてくれました。レース後には、『速かったし、見せ場があったね。(レース映像的には)長く映っていたから良かったね』と声を掛けてもらった」そうだ。

 ドバイ・メイダン競馬場の印象については「でかくて、きれいでした。あの舞台にもう1回立ちたいです。『異世界感』がすごかったし、向こうのグレードレースにも乗りたいです」と夢を語っていた。

 全国の地方競馬、中央競馬とも当面は無観客での開催が続きそうで、17~19日予定の笠松競馬・弥生シリーズ(後半)も引き続き無観客となるのか。新型コロナウイルスの感染拡大で、社会全体に先行き不透明な不安感が増幅しているが、笠松競馬の本年度経営状況は改善傾向で明るさもある。2月末現在、前年度比17.2%増の255億8000万円と好調な売り上げを維持。7年連続での黒字を確保できる見通しとなっている。夏場には馬場改修も行われるが、ライブ観戦を待ち望んでいるファンのためにも、笠松競馬の新たな魅力をアピールできるといい。