オータムカップ優勝馬ウインハピネスと尾島徹調教師(中央)、岡部誠騎手ら

 「前の馬が止まって見えた」とは、豪快な差し切り勝ちが決まった瞬間だ。笠松のライデンリーダーが、JRAの報知杯4歳牝馬特別(GⅡ)を圧勝したレースがそうだった。華麗な逃げ切りもいいが、後方一気の大まくりは、ジョッキーも、応援したファンも最高に気持ちがいいものだ。

 笠松競馬では、不良馬場での「行った、行った」のレース展開も多い。オールドファンや関係者の間では皮肉を込めて「ああ、また『笠松ボート』だな」などと呼ばれていた時代もあった。先行した3、4頭で決まるパターンがよくあり、後続の数頭は、「付いて回りの出走手当稼ぎ」ともいわれたものだ。1周1100メートルで、コーナーがきつい小回りコース。差し脚が決まるかどうかは、当日の天候次第。良なのか重馬場なのか、砂の補充によるコースの内と外の脚抜きの状況も重要なポイントで、レース展開が大きく変わってくる。

 全国の地方競馬は力の要るダートコースで行われており、JRAの芝コースでよく見られる派手な差し切りは少ないように感じる。笠松でもやはり、先行馬が圧倒的に有利だが、たまには最後方からすごい末脚がズバッと決まることがある。

9月の東海クラウンでは、外から追い込んだスムーズジャズ(2)の豪脚にハナ差負けしたウインハピネス(笠松競馬提供)

 9月26日の東海クラウン(オープン)でのこと。前走はストーミーワンダーに2馬身及ばず2着だったウインハピネス(牡4歳、尾島徹厩舎)が、この日は断トツ1番人気。リーディングを狙う筒井勇介騎手が騎乗し、3~4コーナーで先頭に立ち、そのまま押し切りそうだったが、すごい勢いで1頭が飛んできた。名古屋のスムーズジャズ(牡5歳、川西毅厩舎)だった。しんがりを進んでいたが、向正面から追撃開始。4コーナーを回って、まだ5馬身ほど離されていたが、大外から直線一気。ラスト3ハロン(600メートル)を36秒4で追い込み。最後もグイッと伸びて、ゴールではハナ差の差し切り勝ちとなった。

 ウインハピネスも37秒2(3ハロン)でまとめており、息切れした訳ではなかった。後続馬の気配を感じた筒井騎手は、慌ててもう一追いしたが無念。佐藤騎手が前日に落馬負傷したため、急きょ騎乗変更の影響もあったのか。「早めに動き過ぎたが、内容は悪くなかった」と尾島調教師。ここを勝って、南関東に移籍するプランもあったが、負けたことから、笠松での滞在が延長となった。

オータムカップで重賞初Vを飾ったウインハピネス。岡部騎手が騎乗した

 まさかの2着に敗れたウインハピネスだったが、次走の東海クラウンでは、きっちりとオープン初勝利。24日の笠松重賞・オータムカップ(SPⅡ、1900メートル)でも1番人気で、名古屋のコウエイワンマンに4馬身差をつけて圧勝。3度目の手綱を取った岡部誠騎手は「馬がすごく良くなっていた。返し馬から活気があって、これなら正攻法でいこうと。最後まで脚取りがしっかりしていて完勝でした」と手応え十分。初タイトル奪取にも「今後、大きなレースがあり、笠松にいる間は負けられない。1番人気に応えられて良かったです」と。尾島厩舎に来て10戦して5勝、2着5回と堅実駆け。ストーミーワンダーに続く「笠松ナンバー2」の存在になった。

 オータムカップは、尾島調教師がジョッキー時代の6年前、ドリームマジシャンで優勝を飾った相性の良いレース。笠松での重賞勝ちは4月にサウスグラストップで制した新緑賞以来2勝目となった。

ウインハピネスでオータムカップを制した尾島調教師。ジョッキー時代に続く栄冠を射止めた

 JRA在籍時には地方交流で2勝を挙げているウインハピネス。「涼しくなって夏負けも取れていた。この距離(1900メートル)は合いますね」と尾島調教師。前々走で勝っていれば、南関東に移籍していただろうが、「勇介のハナ差負けのおかげかな」と、ウインハピネスの転出が延びたことを歓迎。前走Vで権利が取れた笠松グランプリ(11月21日)に参戦できることになったのだ。何が幸いするか分からないもので、有力馬を少しでも長く預かってビッグレースに挑めることになり、陣営としては「大きなハナ差負け」だったようだ。

 毎年、笠松グランプリには全国から強豪が集結。東海地区の主役となったストーミーワンダーとともに、ウインハピネスも頂点を狙える1頭になりそうだ。7年前にはエーシンクールディとラブミーチャンが1、2着となったマッチレースもあった。それ以来となる笠松勢Vも十分にチャンスがあり、フルゲート12頭立てでの熱戦が楽しみだ。