笠松移籍2年目、好騎乗が目立つ水野翔騎手

 笠松競馬のジョッキーが17人に増えて喜んでいたら、リーディング上位の2人が約3カ月間、笠松から抜けることになった。若手の水野翔(かける)騎手がマカオのタイパ競馬場へ短期免許で遠征(~8月26日)。ベテランの東川公則(まさのり)騎手は高知競馬での期間限定騎乗(6月15日~9月16日)にチャレンジする。真夏に向かう暑いシーズンではあるが、新天地で大きく羽ばたいてほしい。

 北海道から笠松に移籍して2年目の水野騎手(22)は、昨年の45勝に迫る44勝(5月末まで)を挙げてリーディング3位に躍進。トップを走る佐藤友則騎手が、今年も南関東での期間限定騎乗に挑むことになれば、水野騎手がリーディング1位に躍り出るチャンスもあるだけに、もったいない感じはある。

 マカオは、笠松時代の安藤勝己さんが「芝のレースに慣れよう」と、チャレンジした舞台。東川騎手や名古屋の岡部誠騎手、丸野勝虎騎手も経験。競走馬のレベルは、日本の地方競馬クラスという。現在は、元船橋の中野省吾騎手(27)がマカオに在籍。南関東のトップジョッキーとして活躍していた中野騎手は、2017年度の制裁数とその内容を理由に騎手免許失効となったが、1年前からマカオに騎乗機会を求めて挑戦している。

 中野騎手といえば、笠松にも期間限定騎乗(2013年)で在籍したことがあり、4勝を飾っている。地方通算505勝を挙げ、一昨年にはJRA主催のワールドオールスタージョッキーズに地方代表騎手として出場。水野騎手とも仲が良く、最近の笠松、名古屋での躍進ぶりを注目し、今回の遠征をサポートしてくれている。この夏、マカオでは日本人コンビの活躍が期待できそうで、家族らを中心に私設応援団のツアーなどもありそうだ。6月は7、9、15、22、29、30日の開催が予定されている。水野騎手のデビューは9日(第9A、10R芝)で、中野騎手とも10Rで一緒に騎乗する。

短期免許でマカオに遠征。新天地での活躍が期待されている水野騎手

 マカオ遠征前、水野騎手は笠松での最終レースでアーツレイジング(笹野博司厩舎)に騎乗。長良川特別を圧勝し、同馬で3連勝を飾った。この日は、アーツレイジングの応援で来場した格闘家のピーター・アーツさんからも激励を受け、闘魂を注入されたが、騎乗技術の向上ぶりは目を見張るものがある。

 今年は佐賀でも騎乗し「未体験ゾーンの競馬場でいっぱい乗りたい」という水野騎手。マカオ挑戦についても「いろいろな経験をして、腕を磨きたい」と前向き。笠松での壮行セレモニーでは「海外で騎乗してみたかったし、挑戦できるチャンス。まず1勝したいですね」と、世界を渡り歩くジョッキーたちと競い合って騎乗技術を磨く覚悟だ。
 
 ただ、タイパ競馬場では月に5~7日間しか開催がなく、ナイターでは1日6レース程度という。笠松・名古屋でバンバン乗るようになった水野騎手は、物足りなく感じるかもしれない。かつて岡部騎手も「時間が余り過ぎて、競馬場の周りを走ったりしてましたね」と、かなり暇だったようだ。レースの賞金面では、ジョッキーの手取りは日本より恵まれているそうで、南米からも多くのジョッキーが参戦している。マカオで勝利を挙げている中野騎手は「1着賞金100万円のレースなら、日本だと税金などで引かれて騎手の手取りは2万5000円ぐらいだが、マカオでは9万円ほど」という。

 海外武者修行に挑む水野騎手。咋秋、けがで休養していた頃に、中野騎手の案内でマカオの競馬を見学したとはいえ、最初は環境や文化の違いに戸惑うかもしれない。カジノなどがある国際観光地でもあり、思わぬ誘惑や健康管理には十分気を付けて頑張ってほしい。笠松の「おしゃれ番長」でもあり、マカオでもカラフルな髪の色などで注目されることだろう。まずは初勝利の報告を気長に待ちたい。そして、けがなどなく無事に笠松に帰ってからは、一回り成長した姿を見せてほしいものだ。

高知で期間限定騎乗にチャレンジする東川公則騎手

 笠松競馬を長年引っ張ってきた東川騎手は、50歳を前に高知での騎乗にチャレンジする。基本的に土曜、日曜のナイター開催で、笠松場外での馬券販売はないが、スカパーの「地方競馬ナイン」やネット配信のライブ中継でも応援できる。

 馬券販売のV字回復が著しい高知競馬。連敗記録で人気を呼んだハルウララ、心温まる「福永洋一記念」の開催など、存続への一丸となった取り組みが実を結んでいる。地方の競馬場は、全場で騎乗経験がある公則騎手。高知の西川敏弘騎手や嬉勝則騎手とは同期で、今回の期間限定騎乗の決め手にもなった。かつて笠松所属だった目迫大輔元騎手(現調教師)も高知で奮闘中で、笠松時代には、後藤保厩舎で東川騎手の後輩でもあった。
 

デビューした東川慎騎手の初勝利を祝福する父・公則騎手(左)

 笠松と高知。存続のサバイバルレースで勝ち残った地方競馬場同士のつながりや、騎手・調教師らの縁も後押しとなって、今回の挑戦になったのだろう。笠松では息子の東川慎騎手が4月にデビュー。いきなりの初勝利に涙を流した父の姿があったが、同じ後藤正義厩舎に所属し、親子ならではの気遣いも多いという。笠松リーディングに6回も輝き、JRAのレースでも5勝を挙げている偉大な父。今回の高知騎乗は、慎騎手の成長を願っての親心であり、自らの「子離れ」もあっての素晴らしい決断といえよう。

 高知への期間限定騎乗で、ファンも楽しみにしていた東川親子の「ワンツーフィニッシュ」はしばらくお預けになった。園田ではJRAの岩田康誠・望来(みらい)親子が2着、1着でお先に達成。先行していた父・康誠騎手だったが、ゴール近くでは、望来騎手に先頭を譲るような形で実現した。笠松の5月開催では東川親子の2、3着はあった。いつかファンの前でワンツーをカッコ良く決めてもらいたい。

 ところでちょっと前、うちの近所に意外な店がオープンしていた。その名も「公(まさ)のり」という居酒屋(本巣郡北方町)。町内から移転してきたのだが、道路際などに店の看板など全くなくて、一見民家風。まさか公則騎手とは関係ないだろうが、入り口に小さく書かれていた店名には驚かされた。笠松町からは離れているが、隠れ家風の店である。高知へ旅立つ公則騎手には、地方競馬通算3000勝を突破して末永く頑張ってもらいたいが、いつか引退したら調教師を目指すのかな。それとも、明るいキャラクターで、どこかで居酒屋の店主になっていたら笑えるし、意外と似合いそうだが...。

ぎふ清流カップVでファンと交流する佐藤友則騎手。地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップでも勝利を挙げており、総合優勝を目指している

 笠松勢の明るいニュースといえば、各地のリーディングジョッキーが勢ぞろいして腕を競う「2019地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップ」に出場した佐藤騎手が、ファーストステージ(盛岡)でいきなり勝利を飾ってくれたことだ。初戦は騎乗馬にも恵まれ、「これは勝てるな」と思っていたが、直線で抜け出して突き放すスーパー騎乗。「笠松の佐藤」を強烈にアピールできた。2戦目は9着だったが、計32ポイントで堂々の2位。第2戦を勝った永森大智騎手(高知)が36ポイントでトップに立った。

 笠松は日本のほぼ真ん中にある競馬場ということで、出場騎手の紹介写真でも14人中の「センター」に収まっている佐藤騎手。これは縁起がいいと感じていたら、1番人気馬を引き当てての圧勝劇。上位12人が6月20日のファイナルステージ(園田)に進出し、残り2レースで地方競馬ナンバーワンジョッキーが決まる。優勝者は8月24、25日に札幌で行われる「2019ワールドオールスタージョッキーズ」(国際招待競走)の地方競馬代表騎手に選定され、世界各国やJRAのトップジョッキーと腕を競う。園田競馬場の表彰台の真ん中で、佐藤騎手の笑顔と決めポーズが見られるといい。