ワグネリアンで悲願の日本ダービーを制覇した福永祐一騎手。5年前、笠松ではラブミーチャンで優勝した

 平成最後の日本ダービーは、福永祐一騎手がワグネリアン(友道康夫厩舎)で制覇した。41歳、19度目の挑戦で悲願を達成。ついに「ダービージョッキー」の称号をつかんで歴史に名前を刻んだ。戸崎圭太騎手騎乗の皐月賞馬エポカドーロを差し切り、「最後は気合だけでした。馬が応えてくれた」と、うれし涙をにじませた。

 今年はダノンプレミアムとブラストワンピースの無敗馬対決が注目を集めたが、やはり皐月賞出走組が強かった。上位3頭の結果を見て驚いた。1着の福永騎手と2着の戸崎騎手は、ともに5年前、笠松のラブミーチャンに騎乗して勝利を飾っていたのだ。ラブミーチャンが引退するまでに騎乗したのは5人。地方では、笠松の主戦・浜口楠彦騎手、北海道遠征時に乗った五十嵐冬樹騎手、船橋の森泰斗騎手。JRAでは、福永騎手と戸崎騎手の2人だけだった。

 当時、ラブミーチャンは6歳で充実期。福永騎手は笠松で行われた「オッズパークグランプリ」で華麗な逃げ切りV。戸崎騎手は大井・東京スプリント(GⅢ)と、ラストランとなった盛岡・クラスターカップ(GⅢ)を好位から差し切りV。そして、日本ダービーでは両騎手がワンツーフィニッシュを決めてくれた。

笠松競馬場でラブミーチャンに騎乗。オッズパークグランプリを勝った福永騎手(左)と関係者=2013年2月

 ダービー前には、ラブミーチャンの長男がJRAで、次男が北海道でデビューしたばかりだった。笠松から中央への人馬の挑戦を応援する「オグリの里」としては、「笠松つながりで、日本ダービーに何らかのサインを送っていたのかも」との思いもした。メジャーリーグでは、二刀流で活躍する大谷翔平選手が背番号「17」だが、ワグネリアンの馬番も「17」で注目していた。ダービーでは不利とされる外枠から、思い切って好位につけて末脚に懸けた福永騎手の好判断で勝利に輝いた。ワグネリアンが5番人気、エポカドーロは4番人気で馬単は万馬券となった。

日本ダービーゴール前、1着ワグネリアン、2着エポカドーロ、3着コズミックフォースで決着した(競馬ブック提供)

 そして、16番人気で3着に食い込んだコズミックフォース(石橋脩騎手)は、岐阜県出身の国枝栄調教師の管理馬。オークスも制覇しクラシック2冠牝馬となったアーモンドアイは、日本ダービー挑戦の夢はかなわなかったが、同じ国枝厩舎からコズミックフォースとオウケンムーンの2頭出し。ともに全く人気はなかったが、コズミックフォースは残り400メートルから先頭に立とうかという勢いで、まさかの激走。63歳・国枝調教師も一瞬、悲願の日本ダービー制覇の夢を見たことだろう。安藤勝己元騎手がダービージョッキーに輝いたキングカメハメハ産駒。単勝223倍の超大穴で馬券圏内に絡み、3連単は285万円6300円。ダービー史上最高配当となる大波乱を呼んだ。

 桜花賞1番人気・ラッキーライラックに騎乗して2着に終わった石橋騎手。オークスでもアーモンドアイを倒せず3着と悔しい思いをしたが、ダービーではコズミックフォースで「あわや大金星」の好騎乗。馬券的には、国枝厩舎の2頭から3連複で手広く流して、幸運をゲットできた。

日本ダービーを制したワグネリアンと福永騎手(競馬ブック提供)

 馬主や調教師らと抱き合い、騎手たちの祝福の嵐の中で福永騎手は「ふわふわした感じ。こういう気持ちになったのは初めて。このまま、ダービーを勝てないじゃないかと思うときもあったが」と夢心地。ダービー制覇はならず、落馬事故で騎手の世界を去った父・洋一さんへの思いは強く、「これがダービーを勝ったジョッキーの景色かと。父に代わって目に焼き付けました。ようやく福永洋一の息子として誇れる仕事ができた。福永家の悲願でしたから、良かったです」と親子2代で目指した頂点に立ち、感激に浸った。2日後、父に直接報告し喜んでもらえたという。

 ところで、昭和最後の日本ダービー馬をご存じだろうか。1988年、オグリキャップがJRAで鮮烈デビューした年だったが、クラシック登録がなかったためにダービー挑戦は断念。小島太騎手のサクラチヨノオーが、メジロアルダンを差し返して勝利した。生産は北海道の谷岡牧場。現在、ラブミーチャンもこの牧場で繁殖馬生活を送っており、不思議な巡り合わせを感じる。オグリキャップは「幻のダービー馬」と呼ばれ、翌週のニュージーランド4歳S(東京、GⅡ)では7馬身差で圧勝する衝撃のパフォーマンスを見せた。あれから30年である。
 
 2013年2月末、笠松でラブミーチャンを勝利に導いた福永騎手はレース後も奮闘。ファンとの集いを控えていたこともあって「勝てて良かったです」と一安心。馬主の小林祥晃さんとのトークショーで、日本ダービーを含めたGⅠレースVへの熱い思いなどを披露。サイン会では女性の姿も多く、ファン一人一人と握手する姿が印象的だった。

笠松競馬場でのサイン会でファンと握手する福永騎手

 ラブミーチャンの次男で2歳のラブミージュニア(桑村真明騎手)は、日本ダービーの3日後、門別で待望の初勝利を飾った。JRA認定アタックチャレンジの1000メートル戦で4馬身差の圧勝。直線でフラフラする遊び癖解消のため装着したブリンカーの効果があって、先頭に立っても気を抜かずにゴールへ一直線。ゴールドアリュール産駒でもあり、スピードを備えた、1600メートル前後のマイラータイプのようだ。2歳重賞・栄冠賞(6月28日)に向け成長が楽しみで、将来はJRAのレースに挑戦できるといい。

 地方競馬のダービーシリーズ2018もスタート。名古屋、笠松所属馬の3歳王者を決める東海ダービー(SPⅠ、1900メートル)が6月5日、名古屋競馬で開催される。昨年はドリームズラインが制覇し、秋の岐阜金賞も勝って東海3冠馬に輝いた。今年はデビューから圧勝続きで10連勝中の名古屋・サムライドライブ(角田輝也厩舎)の1強ムード。1986年のミナミマドンナ以来32年ぶりとなる無敗の東海ダービー馬を目指す。

10連勝中のサムライドライブ。東海ダービー制覇を目指す(名古屋競馬提供)

 笠松勢では、サムライドライブ相手に駿蹄賞などで2着3回のドリームスイーブルや、新緑賞勝ちのビップレイジングが有力。ともに笹野博司厩舎で、打倒サムライドライブへの包囲網を形成したい。3歳馬同士であり、当日の気配次第では「名古屋の新怪物」にも死角がありそうだが...。笠松から、エレーヌ(筒井勇介騎手)以来8年ぶりとなる東海ダービー奪取へ意地を見せたい。