1000人までの入場が可能となった笠松競馬場。スタンド前でレースを観戦するファン

 ゴール前、ファンの声援がジョッキーに届いたことだろう。10月20日から中央、西スタンドでも観戦可能になった笠松競馬場。好天に恵まれて、ぶらりと出掛けてみた。入場は正門のみで、スタッフによるコロナ対策のチェックを受けて、残り2レース。スタンド前でも熱い視線を注ぐファンの姿があった。

 第5Rでは、調教師の家族らでつくる「愛馬会」の協賛レース「好きです笠松競馬」が行われた。このためオープンを期待して、東門近くにある愛馬会のグッズ販売店に寄ってみたが閉店状態だった。東門からはまだ入場できないが、ユーホールも入場エリアに加わり、ファンの動きは活発化。オグリキャップのバッグや蹄鉄グッズの縁起物などを販売。売上金による協賛レースで騎手らを支援している人気店がオープンしないと、笠松競馬場らしさが戻ってこない。11月の次回開催では東門からの入場、愛馬会売店のオープン、利用者が多い第7駐車場(コンビニ店近く)の開放もお願いしたい。

 入場者の上限は1000人になった。コロナ前には800人前後だったから、来場すればほぼ入場可能になった。初日608人、2日目は711人で制限内の数字。3月から無観客開催が半年以上続いて、電話・インターネット投票が定着した影響もあるのか。競馬場まで足を運ばなくても「おうちで競馬」をマスターしたオールドファンもいるだろう。年内は笠松グランプリ開催日や年末シリーズ以外は1000人を超えないかも。

 第10R、パドック前で観戦しているとゴール直後、「2着は1番だった?」と声を掛けてきたファンがいた。3連複が的中したそうだが、遠くからの来場者のようだったので、話を聞いてみた。滋賀県長浜市から車で来たという男性。安藤勝己元騎手と同世代で、普段は中央競馬のファン。京都競馬場などJRAでも有観客レースが始まったが入場者枠は少なく、笠松競馬のスタンド開放を知って来場したという。

 年に1回程度訪れるという笠松競馬場の印象を聞くと「いい感じですよ。昭和の時代の雰囲気があってね。(コース西側では)電車も走っているしね」とうれしい言葉が返ってきた。内馬場にあるパドックについては「見づらいですね」との声を受けて、移動せずに返し馬やレースを観戦できる利点をアピール。ダートコースで「逃げ馬が有利」だと伝えると、「配当は安いが、(当てやすくて)年金生活者向けの遊びにはいいのでは」とも。

初日メインレースは藤原幹生騎手が騎乗したオルオル(1番)が差し切りVを決めた

■期待したオルオルが鮮やかに差し切り勝ち

 「第1Rから来ると負けちゃうんで」と、終盤のレースを狙って来場したそうだ。競馬新聞などは持たずに、場内で配布される出走表を手にパドックをチェック。メイン「カシオペア特別」では、周回する各馬を見て「1番の馬がキビキビしていて良く見える」と診断。藤原幹生騎手騎乗のオルオル(牝4歳)で、前走は園田重賞の姫山菊花賞にも挑んだ実績馬。A級からの降級馬でもあり、5番人気だが有力な1頭。何となく意見が一致し、1番を軸馬にした。

 レースは、期待したオルオルが大外から勢いよく追い込んできた。残り100メートルを切って、男性が「1番、差せー」と声援を送ると、鮮やかに差し切り勝ち。ゴールインでは、人馬と応援したファンの思いが一つに重なって歓喜の瞬間となった。男性は複勝が的中したそうで、パドック診断に乗ったおかげで、こちらも馬連をゲット。ライブ観戦ならでは、見知らぬ人ともすぐに親しくなれるのが競馬場での楽しみの一つ。その場限りではあったが、はるばる遠くから笠松競馬場に来たファンには「少しでも良い印象を持ってもらい、また来場してもらえれば」と思った。

 オグリキャップの活躍とともに「地方競馬の聖地」として注目を集めてきた笠松競馬場には、全国からファンが駆け付けてくれる。7年前、場内で行われた安藤勝己元騎手の引退セレモニー。スタンド前には「震災直後、アンカツさんとライデンリーダーの笠松に勇気をもらった」という神戸市の女性や、福島県からサイン会に駆け付けた男性の姿もあった。女性は阪神大震災被災者。家屋倒壊で近所の人が犠牲になり、自らも家を失った。生活に困窮していた1995年3月、4歳牝馬特別(京都・GⅡ)を圧勝した笠松の人馬をテレビで見て「地方から乗り込んできて勝つ姿に感動した。自分もどん底からはい上がる元気が出た」と感謝していた。「笠松から中央に挑む強い馬が出て、みんなで応援できると一番いいね」と地方競馬の生きる道を語っていたのはアンカツさんだった。

秋風ジュニアを制した筒井勇介騎手。笠松代表として「ジョッキーズチャンピオンシップ」(盛岡)に初挑戦した

■筒井騎手が2戦目3着、「ジョッキーズチャンピオンシップ」総合6位

 今年も笠松リーディングのトップをひた走る筒井勇介騎手が10月19日、各地方競馬場のリーディング12人が腕を競う「ジョッキーズチャンピオンシップ」(盛岡)に初挑戦。1戦目がヤマニンレガリーノで10着、2戦目がカフジリブラで3着。総合6位と健闘した。

 「地方競馬最強ジョッキー」の座を争う頂上決戦。今年は新型コロナ対策のため、複数競馬場での開催を取りやめ。優勝者らが進出できる札幌での「ワールドオールスタージョッキーズ」は中止になった。

 筒井騎手はリーディング2位騎手による「予選」を昨年までに2度経験し、佐賀で総合4位、金沢で総合7位。上位2人には残れず、本戦進出を逃していた。今年は晴れて出場を果たし、闘志満々。2戦目はキズナ産駒で1番人気になったカフジリブラに騎乗。2番手で最終コーナーを回り、先行馬をかわす勢いだったが伸び切れず。総合Vは地元・岩手の村上忍騎手、2位は高知の赤岡修次騎手でともに43歳。3位は船橋の森泰斗騎手。愛知の岡部誠騎手は7位だった。ベテラン勢の背中を追って、浦和・福原杏騎手は19歳でのチャレンジ(12位)。デビュー2年目での夢舞台参戦は、リーディングを狙う笠松の渡辺竜也騎手(20)ら若手に刺激を与えたことだろう。

オータムカップをシャドウチェイサーで制した向山牧騎手(左)と川嶋弘吉調教師

■オータムカップ、向山騎手騎乗のシャドウチェイサーV

 10月9日の笠松・オータムカップ(SPⅡ、1900メートル)では、55歳の向山牧騎手の好騎乗が光った。1番人気シャドウチェイサー(セン馬8歳、川嶋弘吉厩舎)でスイスイと逃げ切り勝ち。2着にも水野翔騎手騎乗のシゲルグリンダイヤ(牡4歳、後藤佑耶厩舎)が突っ込み、笠松勢が痛快なワンツー。兵庫のオオエフォーチュンなど遠征馬を圧倒した。雨の中、表彰式はファンの前でできなかったが、向山騎手は「マイペースで行けたのが良かった。強さを発揮してくれた」とスローペースに持ち込んでの勝利に、にこやかな表情。昨年末、ニュータウンガールに騎乗してライデンリーダー記念を圧勝して以来の重賞V。シャドウチェイサーとのコンビでは、逃げて4連勝と好相性。次走は未定だが、名古屋・東海菊花賞や笠松グランプリに向けて、活躍が楽しみな一頭だ。