昨年のYJS笠松ラウンドに出場した東川慎騎手と深沢杏花騎手。今年の挑戦は厳しくなった

 「笠松の騎手の名前がない」。地方、中央の若手騎手が腕を競う「2021ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)」=7~12月=の出場騎手が発表されたが、今年の笠松勢はゲートインできず除外扱いとなった。笠松競馬場での開催もなく、地元ファンを悲しませている。

 騎手、調教師による馬券購入事件の余波が直撃。レース再開は遅れ、デビューして1、2年の笠松の若手騎手3人は、全国の夢舞台に挑戦するチャンスを奪われてしまった。地方競馬教養センターで一緒に学んだ同期たちとも再会し、磨いた騎乗技術を発揮する貴重な機会だが、かわいそうなことになった。

 ■東川慎騎手、昨年は1ポイント差でファイナル逃す

 YJSは今年で5回目。地方競馬から30人、JRAから19人の騎手が出場予定。西日本地区トライアルラウンドは7月20日の佐賀から高知、金沢、園田と続き、11月18日の名古屋でファイナルラウンド進出者が決まる。ファイナルは12月27日に大井、28日に中山で行われ、過去4回の大会ではいずれも地方騎手が総合Vを飾っている。

 昨年は11月の笠松ラウンドで西日本地区ファイナル進出者が決まり(地方、中央各4人)、大いに盛り上がった。笠松勢では今年、3年目の東川慎騎手(20)、2年目の深沢杏花騎手(19)と長江慶悟騎手(21)が出場予定だった。

 東川騎手は昨年の笠松ラウンドで3着、2着と健闘。上位勢を猛追したが、惜しくも1ポイント差の5位で「夢のファイナリスト」に届かなかった。レース後「来年は頑張りたい。もっと馬を動かせる騎手になって、JRAのコースでも乗りたい」と意欲を示していた。これまでに41勝。今年の出場は絶望的になったが、けがなどに負けない体力強化に努めてレース再開に備えたい。

 ■深沢杏花騎手も成長した姿を見せたかったが

 深沢騎手は、笠松競馬では20年ぶりの女性ジョッキーとして、昨春デビューしたが、無観客レースが続いた。ちょうど1年前の名古屋競馬場。笠松のニュータウンガールが勝った東海ダービーの直後、特別レースに挑んだ深沢騎手。前走逃げ切った馬に再び騎乗したが、この日は終始後方のまま動けず10着に終わった。ダービージョッキーからは、レースぶりについて「全然駄目」と奮起を促され、苦笑いを浮かべていた姿が印象的だった。

 波乱の1年を笠松で過ごし、15勝を飾ったが、お世話になった厩舎の調教師も引退扱いになり、所属先は田口輝彦厩舎に変更となった。昨年のYJS笠松ラウンドでは騎乗馬のくじ運に恵まれず、ともに10着。「また来年頑張ります」と悔しさを胸に、成長した姿を全国の競馬ファンに見せたかったが、受難続きとなった。全国の地方競馬の女性騎手は11人に増え、NARでは「レディースジョッキーズ」のサイトを新設し、活躍ぶりを特集しているが、深沢騎手のレース復帰はいつになるのか。朝の攻め馬では笑顔も見せていたので、まずは一安心。再開後の第1レースでは1着ゴールを目指したい。

1月の笠松競馬で待望の初勝利を飾った長江慶悟騎手

 ■長江慶悟騎手は、落馬負傷した騎乗馬で初勝利
 
 昨年10月にデビューした長江騎手も、波乱含みのジョッキー人生がスタート。初陣から3日目のレース直前、返し馬途中に振り落とされ、肝臓損傷の大けがを負った。約2カ月半の療養生活が続き、昨年末に復帰。年明けのレースではタッチウェーブとの再挑戦で、根性を見せて逃げ切り勝ち。「自分がけがをした自厩舎の馬で初勝利を飾れて、借りを返すことができた」とにっこり。復帰後も乗せてもらえたことに感謝していた。

 ところが「1勝ジョッキー」にまたも大きな試練。「これから頑張ろう」としていたが、レースは半年以上開催されず、攻め馬だけ。それでも、体調を万全にするためのリハビリ期間と前向きに捉えて、騎乗技術を磨く日々。ロッテの佐々木朗希投手に似たルックスでも注目されており、フレッシュな風を笠松競馬場に吹き込んでいる。

 ■「地方競馬ワンチーム」で残り1%の可能性

 地方競馬を統括しているNARの2021年度広報スローガンは「一緒に、次の感動へ。地方競馬ワンチーム」だが、笠松勢だけ仲間外れの状態。YJSの騎乗騎手などの発表ではNAR、JRAともに「笠松」については一切触れず、事実上の「登録抹消」の扱い。笠松競馬が不祥事を起こしたことについては非常に重く受け止めるべきだが、昨秋デビューしたばかりの長江騎手は行政処分もなく、真っ白な存在。「地方競馬ワンチーム」とアピールするのなら、将来を背負う若手騎手への救済策として、1レースだけでも騎乗機会を与えてほしいが、やはり無理なのか。

 NAR広報では「今シリーズは出場できない予定」と笠松勢の途中参加は「厳しい」との見通し。理由としては、まず(笠松での)JRAとの交流レースの再開予定がないこと。次にYJSでは、年間の騎乗予定の回数が決められていて、途中参加はできないとのこと。他場の騎手にけが人が出たとしても厳しいようだ。

 「特例として救済策はないのか」と聞くと、「99%無理でしょうが、もしJRAとの交流レースが再開されれば、わずかに可能性がある」とのこと。また最終の名古屋ラウンドはフルゲート12頭のところ、10頭立てになっており、2頭分の余裕がある。同じ東海公営で1レースだけでも騎乗のチャンスを与えてほしいものだ。「残り1%」の可能性はあるというが、笠松のレースが再開されることが先決。若手騎手の夢はこのまましぼんでしまうのか。

 2017年に笠松でデビューした渡辺竜也騎手(21)は、2年連続でYJSファイナルラウンドに進出。中山の芝コースで2着に入るなど、存在感を示した。JRAのファンからも熱い声援を受けて、レース後には長い時間、サインにペンを走らせて交流を深めていた姿は素晴らしかった。ファイナル進出の経験は大きく、NARの優秀新人騎手賞にも輝いた。地元にどっしりと腰を据えて2年連続でリーディング2位。笠松を代表する騎手へと成長した。

騎乗馬とパドックを周回する関本玲花騎手=岩手・水沢競馬場

 ■華麗な逃げ切りで「玲花ちゃん、来ちゃったよ」

 昨冬、笠松での期間限定騎乗で5勝を挙げたのは、岩手の関本玲花騎手(21)。今冬も約束通り笠松に来てくれたが、レースには騎乗できずに、攻め馬のみで帰らせてしまった。地元・水沢開催では好調で、オグリキャップの孫・ミンナノヒーローが初勝利を挙げた5月9日、関本騎手の元気な騎乗を見ることができた。第8R、1番枠から好スタートを決めて華麗な逃げ切り勝ち。ゴール前では興奮した若者が「玲花ちゃん、(1着で)来ちゃったよ」と驚きの声。今年は既に14勝を挙げており、着実に成長。5月16日にはバースデー勝利も飾った。

 関本騎手にとって2度目になるYJS挑戦。昨年は惜しくもファイナル進出を逃したが、今年は盛岡、船橋、浦和で計5レースに騎乗予定。昨冬、笠松ではセレモニーが3回も開かれるなどフィーバーぶりはすごかった。来年以降チャンスがあれば、また笠松で騎乗してほしい。

 ミンナノヒーローは水沢で2連勝後、次走は予定を繰り上げ、6月15日の水沢に参戦。これまで先行策から押し切る競馬で1着ゴール(大差、5馬身差)を続けたが、村上忍騎手とのコンビで3連勝を飾れば、JRAへ復帰できることになる。

ライデンリーダー記念で逃げ切りVを飾ったフーククリスタル

 ■東海ダービー、元笠松勢のフーククリスタル参戦

 今年の東海ダービーは6月15日に開催される。昨年、ニュータウンガールが勝った笠松からの出走馬はいないが、活躍の場を求めて名古屋に移籍した重賞勝ち馬がいる。昨年末のライデンリーダー記念優勝のフーククリスタル(牡3歳)で、笠松のレースがないため、名古屋・錦見勇夫厩舎に転厩。今年は未勝利だが、5月の駿蹄賞は7番人気で4着(丹羽克輝騎手)、前走の古馬との一戦は3着と復調気配だ。

 岐阜県馬主会による2歳馬の抽選馬事業で購入した1頭で、オーナーは「KIZUNA組合」。東海ダービーでは駿蹄賞1、2着のトミケンシャイリ(牡3歳、竹下直人厩舎)、ブンブンマル(牡3歳、川西毅厩舎)が上位人気を集めそうだ。フーククリスタルには、ライデンリーダー記念のような積極的な競馬で波乱を演出し、再開後の笠松に復帰してもらいたい。名古屋競馬のホームページでは「東海ダービー優勝馬を当てよう」(6月15日まで)のキャンペーンも実施。賞品は東海ダービーエコバッグや優勝馬缶バッジ。

 また、中京競馬のイベント(オンライン)では、限定グッズが当たる「わくわく抽選会」を実施(6月13日まで)。「マンガ王決定戦」の特別冊子もプレゼント対象で、笠松競馬場で出会った愛馬の追っかけストーリーを描いたグランプリ作品「これからも、ずっと。」(作者:chikaさん)など受賞作品を収録。トートバッグやJRAオリジナルグッズもプレゼントされる。

 名古屋競馬場は来年4月、弥富市に移転するため、現競馬場での東海ダービー開催は今年がラスト。昨年に続いて無観客レースとなるが、コロナ禍にあって、競馬を開催できるだけでもうらやましいことだ。ダービーシーズン真っ盛りのこの暑い夏も、強い逆風が吹く笠松競馬。ジョッキーは精鋭10人。午前1時15分からの調教タイムでは1人30頭前後にまたがり、レースがなくても所属してくれている馬たちの運動不足解消に努めている。

 1周1100メートルのダートコースでは、機械的な「メリーゴーランド」のようにグルグルと回るだけ。レースに向けた目標は立てづらく、半年以上も続く長くて単調な道のりだが、今は耐えるしかない。レース再開を信じて黙々と攻め馬に励んでいる。