ラブミーチャン記念を制覇した金沢のエムティアンジェと栗原大河騎手ら喜びの関係者

 ここは「不祥事の嵐」が過ぎ去って、爽やかな秋晴れとなった笠松競馬場。28日には全国交流のラブミーチャン記念(SPⅠ、1600メートル)が開催され、フレッシュな2歳牝馬たちが熱いレースを繰り広げた。
 
 不祥事のおわびとして、年末まで実施している「入場料無料」の効果もあったのか、この日の入場者は久しぶりに1000人を超え、コロナ禍にあって盛況となった。オグリキャップ像の前で記念撮影を楽しむ「ウマ娘」ファンら若い人の姿も目立った。

 ■栗原騎手が好騎乗、金沢・エムティアンジェ制覇

 8回目を迎えたラブミーチャン記念。今年も門別出身、在籍の遠征馬が強かった。23歳の若武者・栗原大河騎手が好騎乗し、金沢・エムティアンジェ(佐藤茂厩舎)が中団から差し切りVを決めた。逃げたグラーツィア(北海道、田中淳司厩舎)が2着、笠松勢はドミニク(後藤正義厩舎)が3着だった。栗原騎手は笠松重賞初V。金沢勢の優勝は、ヤマミダンス=青柳正義騎手=以来で5年ぶり。

 ラブミーチャン記念はオグリキャップ、ライデンリーダーに続く、笠松競馬が生んだ名馬をたたえた記念レース。「笠松の看板娘」からスーパースプリントシリーズ(SSS)3連覇を達成。JRA交流のダートグレードを5勝するなど「地方競馬の最速女王」に君臨した名牝で、笠松存続も先頭に立って支え続けた。グランダム・ジャパン2歳シーズンの一戦として、1着賞金は500万円に倍増された。

ラブミーチャン記念のゴール前、エムティアンジェ(金沢)=栗原騎手=が圧勝。3馬身差でグラーツィア(北海道)=田中学騎手=。笠松勢のドミニク=向山牧騎手=とシャローナ=岡部誠騎手=が続いた

 レースは、重賞勝ちがある遠征馬2頭の一騎打ちムード。2番人気・エムティアンジェは、向正面から追い上げを開始。3コーナー手前で1番人気・グラーツィアに並びかけ、マッチレースの様相。4コーナーを回ると勢いの差は明らかで、最後は3馬身突き放して完勝した。門別から転入初戦の金沢プリンセスCに続いて重賞2勝目をゲットした。

 デビュー7年目の栗原騎手は今年、金沢で53勝を挙げてリーディング5位(10月30日現在)。これまでも期間限定騎乗で笠松に参戦。2018年には6勝を挙げ、通算15勝目が笠松重賞初Vとなった。一昨年2月には笠松で騎乗停止処分(最後の直線で闘志の欠如)を受ける苦い経験もあったが、当時のもやもやを一掃するような会心の勝利となった。毎年、全国のリーディング経験者がラブミーチャン記念を勝ってきたが、今年は若手の栗原騎手が強烈なゴールを決めた。

 勝利騎手インタビューでは「強い競馬ができました。1番の馬(グラーツィア)も強いことが分かっていて、スローペースになったんで、早くからプレッシャーをかけた。すごく乗りやすい馬で、スピードの乗りも早くて素直です」と愛馬に感謝。「金沢競馬を背負って立つ馬だと思うんで、僕もそれに恥じないようにしていきたい。全国でもトップクラスの馬です」と歓喜に浸った。

 ■名手3人を従えて、価値ある1着ゴール

 4000勝超えの田中学騎手と岡部誠騎手、3600勝超えの向山牧騎手という名手3人を従えての価値ある1着ゴール。栗原騎手の勝因の一つとして、笠松での期間限定騎乗の経験を生かしたことが挙げられる。好仕上がりだったこの馬の力を信じて、笠松の勝負どころである向正面から3コーナーへの下り坂でロングスパート気味にペースアップ。4コーナーを回ったところで、勝負を決してしまったことだ。これまでの騎乗で笠松のコース形態をつかんでおり、早めに逃げ馬を追い掛け、競り落とした。笠松時代に3コーナーから仕掛けて、よく突き抜けていたアンカツさんのレースを見ているようだった。

「笠松で重賞を勝てるとは」とラブミーチャン記念Vの喜びに浸る栗原騎手

 優勝セレモニー後、最終11Rの返し馬が始まってしまい、栗原騎手はウイナーズサークル横でしばらく待機。笠松での重賞初Vの味は格別のようで、全馬初めての1600メートル戦だったが「距離が延びても大丈夫ですね。強い馬と戦って、この馬も成長できた。(初コースでも)いつもと変わりなくすごく落ち着いていて、安心して乗れました。ちょっとのことでは驚かないし、強い馬の独特の雰囲気で走ってくれた」とたたえた。

 ポジション取りについては「もうちょっと前で、1番の馬の外側につけられたら良かった。ゲートで少しうるさい面を見せて、2列目からの競馬になったが、本当に馬が強かったですね。それしかないです」。直線ラストの手応えは「早めから飛ばして行ったんで、最後は脚が上がってしまったが、強い競馬を見せられました」。勝利を確信したのは「3~4コーナーの手応えが良く、1番の馬には大丈夫だと。あとは後ろの馬だけでした」とレースを振り返り、ガッツポーズで応えてくれた。

 笠松ではこれまで「冬場に2勝とか3勝しかしてなかったですが、重賞を勝てるなんて思っていなかったですね」。笠松でのヤングジョッキーズシリーズは「勝っていなくて(最高は)2着でした」。2017年、渡辺竜也騎手が勝ったレースでもあり、共にファイナルラウンドに進出した。

 「全国交流でもやれる力があり、挑戦した。追い切りも順調で、血統的に距離をこなす」と感じていた佐藤茂調教師は「ゴールの瞬間はやってくれた」と喜びをかみしめた。次走については地元の金沢ヤングチャンピオン(11月28日)か、ラブミーチャンも勝った川崎の全日本2歳優駿(12月15日)への挑戦も視野に入れている。

 笠松勢では秋風ジュニア2、3着のドミニク=向山騎手=、シャローナ(田口輝彦厩舎)=岡部騎手=が、2強にどこまで迫れるか注目された。ドミニクは笠松生え抜き馬で、陣営では「攻め馬の動きが良く、スタミナもあり、距離延長もプラス」と豪快な一発への期待感も充満。中団からいい脚で追い上げたが、2着グラーツィアからも4馬身届かなかった。門別で好走し、移籍2戦目のシャローナはさらに3馬身差の4着。11月11日のジュニアクラウンでは、秋風ジュニアVのシルバを含めた地元若駒たちによるハイレベルな戦いが期待される。

 ■元笠松のニュータウンガール復活V、JBCスプリント挑戦

 再開後の笠松競馬に「スターホース」と呼べる馬はまだいない。2歳馬ならシルバがスター候補の一頭だが、指名できるのは重賞を連勝してからのこと。自粛前のスターホースといえば、東海ダービー馬・ニュータウンガールの名が思い浮かぶ。勝ちっぷりが鮮やかで、ファンが多い馬でもあった。

 一昨年のラブミーチャン記念を勝ったのは、川原正一騎手騎乗のテーオーブルベリー(北海道)。このレースの2着馬がニュータウンガールで、その後の重賞を勝ちまくった。一時は低迷していたが、笠松自粛とともに名古屋の角田輝也厩舎に移籍し、復活Vも果たした。「笠松に戻ってきてほしい」と願うファンも多いが、現状では厳しいか。一連の不祥事で、前にいた厩舎はなくなっており、時の流れを痛感させられる。

金沢重賞・お松の方賞をクビ差で制覇した元笠松のニュータウンガールと丸野勝虎騎手(金沢競馬提供)

 笠松時代のニュータウンガールは、ライデンリーダー記念から東海ダービーまで重賞5連勝。その後、1年間勝利がなかったが、今夏の日本海スプリントで豪脚を発揮して復活V(岡部騎手騎乗)。前走・お松の方賞ではクビ差で重賞7勝目を飾った(丸野勝虎騎手騎乗)。今年は金沢で開催される地方競馬最大の祭典「JBC」(11月3日)。ニュータウンガールはJBCスプリント(GⅠ、1400メートル)に参戦。岡部騎手が騎乗し、ダートグレードでJRA勢への挑戦の夢がかなうことになった。2007年に笠松出身のフジノウェーブが制覇(大井に移籍後)。11年にはラブミーチャンが4着に食い込んだレースで、地方馬にもチャンスはある。

 ニュータウンガールは、抜け出すと遊ぶ癖があり、2、3番手からゴール手前で差し切る競馬がベスト。金沢では重賞2勝、2着1回と相性抜群だが、JRA勢とは差があるだろうから、まずは地方馬最先着を目指したい。笠松出身のカツゲキキトキトと同じように、全国区で戦える東海公営馬として応援していきたい。

 ■渡辺騎手、左腕骨折で戦線離脱

 笠松の新エース・渡辺竜也騎手が10月23日の攻め馬で落馬し、左腕を骨折。しばらくの間、戦線離脱となった。本人は「時間がかかると思いますが、しっかりと治して、また全力で馬に乗りたいです」とツイッターでコメント。騎手リーディングのトップを快走していただけに残念だ。岡部騎手、藤原幹生騎手らの追撃を受けることになるが、焦らずに療養に専念したい。

 本番レースが始まり、渡辺騎手には有力馬の騎乗依頼も多かった。攻め馬は午前1時台から9時ごろまでで、30頭以上に騎乗していた。1頭につき15分刻みで、休む間もほとんどなく乗りっぱなし。みんなハードなスケジュールで、体力的に厳しいものがある。騎乗は地元騎手が主体で、騎手候補生やインド人の厩務員たちの力も借りているが、乗り役不足は深刻だ。

 騎乗できる騎手の減少は止まらない。昨秋デビューした長江慶悟騎手も、9月のレース中に落馬負傷し療養中。このため、笠松所属騎手9人のうち2人が欠場。本番レースに参戦可能な騎手は7人に減ってしまった。フルゲート12人で、名古屋の騎手の力を借りながら、何とかこのピンチを乗り切っていくしかない。

 激減していた所属馬は徐々に増え、465頭ほどになった。今後は北海道、岩手、金沢など冬季休業となる地区から、期間限定騎乗の騎手を多く迎えて、攻め馬を常時できる騎手を確保していくべきだ。

 久々の実戦レースがスタートして4開催が経過した。ほとんどの馬が長期休養明けだし、レース慣れが必要な2歳馬や故障明けの馬もいるから、厩舎スタッフによる愛馬のコンディションづくりは大変だ。今後も苦労は多いだろうが、落馬事故などにつながらないよう、入念に仕上げていただき、万全な状態でレースに臨めるといい。

 ラブミーチャン記念開催日の売り上げは4億8200万円。4日間では16億7400万円で、1日平均でも4億円を超えた。開催リーディングは8勝を挙げた藤原騎手が獲得。11月開催では、今年最大のレースで笠松グランプリ(SPⅠ、1400メートル)が行われる。よりクリーンになった「新生・笠松」の熱いレースを、ライブで、ネット越しから観戦し、お気に入りの騎手や馬を応援していただきたい。