放射線治療医 田中修氏

 今日は9月30日です。1999年9月30日の茨城県東海村JCO臨界事故からもう21年になります。放射線は原発で使われている一方、がん治療に関しては非常に重要な役割を果たしています。今回は放射線治療が最も効果を発揮する頭頸(けい)部(ぶ)がんについて書きたいと思います。

 頭頸部がんとは顔面から首にかけてできるがんの総称で、比較的症状が早く出やすく早期で発見できる場合が多々あります。頭頸部は呼吸、摂食、発声などに関わっている器官が多く、特に喉頭がんは声がかすれるなどの症状で、早期に発見されることが多いがんとして知られています。頭頸部がんの治療は治すことが第一目的ですが、機能を温存することも生活の質に大きく関わってくるため非常に大事です。

 そのため治療方法もいろいろ組み合わせて行うのが標準的です。具体的には手術、放射線治療、抗がん剤の治療があります。今回は放射線治療について書きたいと思います。昨今の放射線治療の進歩により、正常組織に照射される量を以前より減らせるようになりました。

 図解は咽頭がんの例を示した頸部の断面です。白縁の黒線で囲った部分のがんに対して、強く放射線が当たる範囲を濃いグレー、弱い範囲を薄いグレーとしてあります。左は従来の方法で、左右対向で広範囲にしか照射できませんでした。右は近年の方法「強度変調放射線治療(IMRT)」で、唾液腺や脊髄を外してがんにピンポイントに照射できます。

 このIMRTを用いることで唾液腺障害による味覚異常や口(こう)腔(くう)内乾燥を防ぐことができ、嚥下(えんげ)する力も温存することができます。欠点としては治療期間が7週間程度かかります。毎日少しずつ照射することで、正常細胞に回復不可能なダメージを与えないようにするためです。副作用として口内炎や嚥下痛がありますが、治療を終了して1カ月たてば元通りの生活ができるようになります。

 また、喉頭がんも放射線治療だけで完治できます。IMRTで動脈を外して照射します。こちらも7週間ほどの通院が必要になりますが、生活はいつも通りで、毎日10分の放射線治療で通院することが煩わしいくらいです。

 このように機械の進歩によって正常組織への照射がかなり軽減されるようになりました。当院、朝日大学病院は岐阜県で唯一、大学歯学部を有しており県内随一の歯科・頭頸部外科の治療機関だと思います。喉頭がんはさまざまな治療方法があるので、気軽に当院を受診してください。セカンドオピニオンも行っております。

(朝日大学病院放射線治療科准教授)