岐阜大学精神科医 塩入俊樹氏

 青年期中期(15~18歳ごろ)の大部分は、高校生時代です。この時期には体の成長の終わり、つまり、腕や大腿(だいたい)部の骨の骨端線(こったんせん)(骨が成長する部分)の閉鎖が起こります。一方、心の発達として、青年期前期(12~15歳ごろ)からの同性同年配の友人との親密な関係は、異性との親密さへと移行し、特定の異性との親密な関係を模索し始め、実際にデートや性交を経験する者も出てきます。

 これまでの同性の仲間との関係が主に精神面でのものだったのに対し、異性との親密な関係では、精神面と身体面(性的側面)、双方のバランスを取ることが必要となります。さらに、「自分とは何者か」「自分らしさとは何か」「自分はどこに行くのか、どのように生きるべきなのか」などといった自分自身に対する哲学的な問い掛けがなされるのも、この時期です。このような自問自答を通じて、揺るぎない自己意識を打ち立てることが、青年期全体の最も大きな課題です。

 これらの行為を「自我同一性の確立」といいます。これができないと、まとまりのある自己または自己認識が十分に発達せず、「同一性拡散(危機)」という状態になります。きちんとした自我同一性を獲得するためには、一般に青年が家族からの独立を自覚し始める青年期前期から、家族が継続して彼らの成熟を支援し、励ましていく姿勢が必要となります。

 青年期後期(18~24歳ごろ)でも引き続き、自我同一性の確立が重要な課題です。多くの青年は、高校を卒業して進学し、大学生や専門学校生などになっています。この時期は、多くの面で自由度が高くなり、アルバイトやクラブ活動など学業以外の活動が日常生活の多くを占めるようになるため、就労に向けた社会への移行期ともいえます。加えてこの時期は、自分自身の生き方や進路をはっきりと決めることができず、悩み迷う時期でもあるため、成人社会に青年が参入することに対して社会が与える「心理社会的猶予期間(モラトリアム)」といわれています。

 この時期の青年は、現実検討能力が高まり、自分の能力や限界が分かるようになると、時に挫折を味わい、葛藤し、動揺します。このような過程を経ることで、他者からも同様に認識されているという感覚と社会の一員として機能しているという自己評価に支えられ、自我同一性が確立されていくのです。

 またこの時期に、自分の本業(例えば、学生ならば勉学)以外のものは普通にできるが、どうしても本業だけができないといった状態に陥ることがあります。これを「スチューデント・アパシー」と呼んでいます。この状態になると、留年を繰り返し、最悪の場合、中退を余儀なくされることもあります。

 このように、青年期までにさまざまな困難や挫折を経験し、克服し、そして心理的に独立を果たした成人が、今度は社会を支える側に回れるのです。

(岐阜大学医学部付属病院教授)