消化器内科医 加藤則廣氏

 食道や胃、十二指腸、大腸では、がんなどの進行した悪性腫瘍によって狭窄(きょうさく)を来すことがあります。食道や胃、十二指腸の狭窄では食事や飲水ができなくなり、大腸では排便が困難となり腸閉塞(へいそく)(イレウス)を来します。今回はこうした症状に対して、主として緩和医療で行われている消化管の狭窄を解除する消化管ステントの留置術について説明します。

 現在、使用されている主な消化管ステントを図1に示します。留置方法は図2のように、まず狭窄部位まで内視鏡を挿入します。次にレントゲン透視下で、狭窄部位にガイドワイヤーを通過させて、細く折り畳まれた消化管ステントを特別なデリバリーシステムを用いて狭窄部位に留置します。

 ステントは金属製で徐々に拡張して狭窄を解除するので、自己拡張型メタリックステント(SEMS)と呼ばれます。現在、使用されているステントはほとんどがSEMSで、以前のステントに比べて柔らかく伸縮性があって患者さんの受容性も高く、出血や穿孔(せんこう)などの合併症が少なくなっています。なお消化管ステント留置後の抗がん剤治療は消化管の穿孔の危険性があるために行われません。また消化管ステントは留置後に取り除くことは困難で、原則として良性疾患による狭窄には適応はありません。

 SEMSは1995年に食道がんに対して保険適応となり、また2010年に胃がんや十二指腸のがんによる狭窄を解除するためのステントも開発され、経口摂取が可能となりました。さらに12年には大腸がんに保険適応となりました。大腸ステントの留置によって肛門から自然に排便できることは患者さんのQOL(生活の質)を著明に改善させます。消化管ステント留置はいずれも身体への負担が軽く、緩和医療における選択すべき有用な治療法の一つといえます。

 また最近、大腸ステントは緩和医療以外に、腸閉塞を来した大腸がんで、外科切除までの一時的な腸閉塞の解除の目的にも留置が行われます。イレウスを来した大腸がん患者に大腸ステントを留置して全身状態を改善させてから、2週間程度をめどにステントとともに大腸がんを外科的に切除します。外科手術までの一時的な橋渡しの意味を含めてBridge to Surgery (BTS)と呼ばれます。緊急手術を回避し、また一時的な人工肛門を設定せずに一回で大腸がんの外科切除が可能となり、当院でも積極的に行われています。

(岐阜市民病院消化器内科部長)