急性胃潰瘍(AGML)。黒く見える部分は出血
胃潰瘍。白い部分は胃粘膜が傷つき、浸出液などで覆われた状態

消化器内科医 加藤則廣氏

 胃潰瘍は何らかの原因で胃の壁が傷つく病気で、主な症状は上腹部痛や背部痛などです。胃の壁は図のように5層構造になっています。粘膜下層より深いところには血管があり、潰瘍が深くなると血管が傷害されて出血します。出血が徐々に進行すると貧血を来してふらついたり、また便が黒くなります。一方、急な大量の出血では、吐血や下血を来します。さらに深く傷つくと、胃に穴が開く穿通(せんつう)や穿孔に至り、腹膜炎症状を発症します。

 胃潰瘍の発症には、①ピロリ菌による感染②鎮痛剤やアスピリン製剤などの抗血栓薬(血液をサラサラにする薬)の内服(NSAIDs潰瘍と呼ばれる)③精神的なストレスの三つが関与しています。最近は、若年者のピロリ菌感染率の低下や健康保険でピロリ菌胃炎が除菌治療できるようになり、ピロリ菌感染による胃潰瘍は減少しています。

 一方、整形外科疾患や心・脳血管疾患で鎮痛剤や抗血栓薬を服用する高齢者で、NSAIDs潰瘍の患者数が増加しています。同時にピロリ菌感染があると、発生率が高くなります。

 胃潰瘍は内視鏡検査で診断しますが、胃潰瘍の一部にがんが併存していることもあります。そのため胃潰瘍の確定診断には、潰瘍の辺縁の一部を採取する生検で病理診断を行うことが必要です。

 潰瘍の数で単発性潰瘍と多発性潰瘍があり、NSAIDs潰瘍では多発性が多くみられます。また発症様式には急性胃潰瘍と慢性胃潰瘍があります=画像=。急性胃潰瘍は急性胃粘膜病変(AGML)とも呼ばれ、慢性胃潰瘍に比べて発病がより突然で激痛です。なお、一般的に胃潰瘍は慢性胃潰瘍のことです。

 胃潰瘍の治療は、制酸剤であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)や新薬のカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)およびH2ブロッカー(H2RA)と合わせて粘膜防御剤を投薬します。約2カ月の治療で潰瘍はほぼ消失・治癒しますが、急性胃潰瘍は慢性胃潰瘍より早く治癒します。なおH2RAは腎機能障害のある人には、投与量を減らすことが必要です。

 ピロリ菌の除菌治療は胃潰瘍の再発を低下させます。治療薬剤は制酸剤と2種類の抗生剤を1週間内服します。制酸剤にP-CABを用いると除菌率は90%以上です。またピロリ菌の除菌は将来の胃がん発生を抑制します。

 鎮痛剤や抗血栓薬を長期に服用する人はPPIやP-CABなどの制酸剤を一緒に服用することや、ピロリ菌感染が陽性であれば除菌治療が推奨されています。

(岐阜市民病院消化器内科部長)