泌尿器科医 三輪好生氏

 泌尿器科というと、男性が受診する科というイメージが強いかもしれません。しかし、尿に関するトラブルで困っているのは、男性だけではありません。特に頻尿、尿漏れは、多くの女性が抱えている悩みです。
 咳や運動で漏れる「腹圧性尿失禁」、膀胱(ぼうこう)や子宮が下がって尿が出にくくなる「骨盤臓器脱」は、骨盤底が緩むことによって起こる、女性ならではの病気です。女性泌尿器科(ウロギネ)は、このような女性特有の病気を専門に扱う診療科で、時代のニーズから専門外来を設置する病院も増えてきています。
 女性の尿トラブルで、最も多い悩みは尿漏れです。日本では40歳以上の女性の約4割にあると言われています。そのうちで最も多いのが、おなかに力が入った時に漏れる腹圧性尿失禁です。咳やくしゃみ、重いものを持った時、運動などで腹圧がかかった時に漏れます。
 腹圧性尿失禁の主な原因は尿道にあります。膀胱や尿道を支えている骨盤底が緩むと、尿道がグラつき、腹圧がかかった時に開きやすくなります。骨盤底が緩む要因としては出産、体重増加、長時間の立ち仕事や力仕事、女性ホルモンの低下、加齢による筋力低下が挙げられます。
 治療は軽症の場合には、骨盤底筋を鍛えるトレーニングが有効です。重症の場合は手術で治すことができます。最近は、体への負担が少ない手術が普及しています。一般的に薬は効きにくいです。
 女性に多いもう一つの尿漏れは、突然に強い尿意を感じ、間に合わずに漏れてしまう「切迫性尿失禁」です。普通は尿意を感じてもしばらくは我慢できるものですが、膀胱が言うことを聞かず、勝手に収縮して漏れてしまいます。炊事や歯磨きなど水に触れることが誘因となる場合もあります。漏れるのが心配で、早めにトイレへ行く習慣になってしまいます。切迫性尿失禁の主な原因は膀胱にあります。加齢や骨盤底の緩みなどが影響し、年齢とともに増える傾向にあります。
 治療には薬が使われることが多いですが、合わせて行動療法を行うことが重要です。水分やカフェインの摂りすぎなどの生活習慣を見直すことで改善します。膀胱訓練といって、少しずつトイレを我慢する練習も有効です。強い尿意を感じても慌てず、しばらく我慢して落ち着くのを待ちます。この時、骨盤底筋を収縮させることで、尿意が遠のきます。
 骨盤底筋は体の表面にある筋肉ではないため、自身で収縮を実感するのはなかなか難しいです。また、継続してトレーニングしないと、効果が実感できないと言われています。最近は専門外来で指導を受けられる病院もあるので、悩んでいる人は受診してみるとよいでしょう。
 このように女性に多い尿漏れは2種類ありますが、原因も治療方法も異なります。また尿漏れがある女性の3人に1人は、両方のタイプの尿漏れを持っていると言われています(混合性尿失禁)。このため正しい診断を受け、適切な治療を受けないと、なかなか改善しません。尿漏れは直接命に関わる病気ではなく、恥ずかしくて相談しにくいので1人で悩んでいることが多いですが、気分が落ち込み、外出を控えたり趣味を諦めてしまったりすることで、生活の質を落とす原因となります。毎日を気持ちよく過ごすためにも、尿トラブルの解決は重要と言えます。

(岐阜赤十字病院泌尿器科部長、ウロギネセンター長)