岐阜大学皮膚科医 藤井麻美氏

 脇の下やお尻にニキビのような"おでき"が何度もぶり返し、赤く腫れ上がって痛みを伴う「慢性膿皮(のうひ)症」という病気をご存じでしょうか。何らかの原因で毛穴が詰まってしまい、皮膚中の毛を包む組織の膜が破れ、皮脂やあかなどが漏れ出し、炎症や感染を起こす病気です。ニキビとよく似ていますが、顔よりも脇や陰部周辺に多く見られるのが特徴です。

 ニキビは皮脂の分泌が盛んな思春期頃をピークに終息していきますが、この病気は慢性化しやすく、中年期以降も続きます。性別でも違いがあり、女性では脇に多く、化膿性汗腺炎と呼ばれます。一方、男性ではお尻にできることが多く、臀部(でんぶ)慢性膿皮症と呼ばれます。

 病変部は炎症を起こして赤くブツブツになり、炎症が落ち着いた後も皮膚が硬く、分厚くなったり、皮下にクモの巣状に膿(うみ)がたまったりします。長期間放置すると、皮膚がんを発生するリスクが上がることも分かっています。

 治療方法は抗生物質の内服により、炎症を抑えるのが中心です。

 重症の場合は外科手術で病変部の皮膚を完全に切除し、太ももから採取した皮膚を移植します。移植した皮膚が生着するまでおよそ2週間の入院が必要となりますが、範囲も大きいことから、皮膚を移植しても、まったく元のように戻ることは期待できません。

 既にお話ししましたが、炎症や感染を繰り返して慢性化することも多く、時間の経過とともにできもの同士がトンネルのようにつながり、モグラの巣さながら複雑になることもあります。こうした悪循環に陥ると、抗生物質の内服では限界があり、手術以外に治療法がありませんでした。

 ところが今年2月、脇に多い化膿性汗腺炎の重症例で画期的な薬が使用できるようになりました。長年にわたり有効な治療法がなかった「関節リウマチ」において、切り札的な治療法として一足早く使われるようになった薬「ヒュミラ」ですが、化膿性汗腺炎にも保険適応が拡大されました。

 海外では既に使用されており、週1回の皮下注射で症状がかなり改善されることが分かっています。ただし使用中は重篤な感染症などに注意が必要で、専門医により慎重な投与が求められることから、新薬を使用できるのは現時点で、県内では岐阜大学病院などの一部の医療機関に限定されています。

 長期的な投与が必要な上に、金銭的な負担もあることから決してバラ色の治療法ではありませんが、これまでメスを入れる以外に根本的な治療法がなかった頃から考えると、皮膚科医の中では大きな一歩だと評価されています。

 この病気自体、一般の方にはあまり知られておらず、人知れず悩んでいらっしゃる人も多いと思います。まずは気軽に皮膚科専門医にご相談ください。

(岐阜大学医学部皮膚病態学医員)