自由度のある題材で深く考える訓練を…

◆アメリカ映画2本を見て 視点、解釈は人それぞれ

 新年度となり、新しい辞令のもと、多くの方がスタートを切られたことでしょう。今日、新元号も発表され、1カ月もすれば、次の時代の幕開けです。そしてオリンピック、万博へ。社会全体が大きな過渡期を迎えています。教育界においても社会に対応できる子どもたちの育成のために、新しい学習指導要領が始動していきます。

 さて、春休みに見た2本の映画を比較しながら、これからの教育の方向性を考えてみましょう。1本目は、「運び屋」という映画です。名優クリント・イーストウッドが、ダンスを踊り、アメリカを車で横断し、荷物の搬送で得たお金を粋に使う90歳を小気味よく演じていました。彼自身も十分高齢者でしょうが、演じた役は90歳の優秀な麻薬の運び屋という設定です。ふざけたような内容ですが、「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」に掲載された実話です。この「ニューヨーク・タイムズ・マガジン」は、新聞の日曜版についている付録雑誌のようなものです。驚くべきは、雑誌の小ネタに共感し、人を感動させる映画を仕立て演じた、イーストウッドの映画人としての創造力です。ちなみに本作では、監督も彼が行っております。

 同時期に「グリーンブック」という映画も公開されていました。この映画も実話であり、アカデミー賞も取った話題作です。公民権運動前のアメリカにおいて、北部では十分に著名な黒人ピアノ奏者が、南部への演奏旅行を目指します。これだけで映画の骨格は、十分にできています。そこにエッセンスとして、1人の男性を登場させ、作品に厚みを与えています。作品の醍醐味(だいごみ)は、旅行中の2人の会話に忍び込ませてあります。作品のテーマは、会話を聴いた観客の考えに委ねられるという構成です。

 2本の映画はともに優れた作品でありながら、鑑賞後の作品のテイストは当然ですが異なります。どちらが好きかと言われても、人それぞれでしょう。ただ、映画もエンターテイメントである以上、鑑賞した人が「あの映画面白いよ」と他者に伝えたくなるのは、観客一人一人が自分の視点で捉えた解釈と同じ人や、異なる人との対話が楽しめる自由度があるからです。語り合う内容も、映画から派生した当時の時代背景や、主要キャストの生きざまなどに至るまで自由です。逆に、映画の展開が主人公への共感を誘えば、面白さは主人公の行動に執着してしまい、語れる自由度も限定的になってしまいます。

 これまでの学校の学習は、面白いテーマを先生が持ち込み、主人公の気持ちを読み解き、先生によって一つのテーマへの共感に導かれるような授業がなされてきたところがあります。しかし、新しい学習指導要領は、自分自身の解釈のために必要な情報を集め、考え、判断していくことが求められています。教師にとっては、扱う題材も、その取り扱いも難しいのですが、学習者にとっては自由に学ぶ実感が持てるはずです。

 主体的に意欲を持って学ぶには、教師も子どもも、映画を見たり、本や新聞を読んだりする時、さまざまな見方を使って深く考え、絡んだ糸のひもときを面白がれるように日頃から考える訓練をしておきたいものです。