西郷隆盛が好んで読んだ佐藤一斎の言葉を町内で探す児童たち=2018年10月、恵那市岩村町、岩村本通り
「今週の一斎先生」を放送する放送委員の児童たち=恵那市岩村町、岩邑小学校

◆城下町で木版や石碑探しも

 恵那市岩村町の岩邑小学校では、岩村藩出身の江戸時代の儒学者佐藤一斎について、6年間を通じて学ぶ。日本が近代化を遂げた明治維新の主役の一人である西郷隆盛や実業家渋沢栄一、後の政治家らに思想面で大きな影響を与えた一斎を、児童たちは「一斎先生」と親しみを込めて呼ぶ。

 一斎の金言集「言志四録(げんししろく)」を読みふけり、お気に入りの言葉を選び出す活動が大きな柱だ。毎日、給食中に流れる校内放送の「今週の一斎先生」コーナー。放送委員の一人が「言志四録」から事前に選んだ言葉を、現代語に直して読み、低学年にも分かりやすいよう、さらに意訳する。

 放送委員の一人、6年生吉村世莉奈(せりな)さん(12)は「昨の非を悔ゆる者は之(これ)あり。今の過ちを改むる者は鮮(すく)なし」とお気に入りの言葉をすらすらと読み上げる。意訳すると「終わったことはいつまでも引きずらない」。卒業前に選ぶ言葉にこの言葉を挙げるという。

 男子児童はその多くが「一燈(とう)を提(さ)げて暗夜を行く。暗夜を憂うること勿(なか)れ。只(た)だ一燈を頼め」を選ぶという。「大丈夫、あなたの信じた道を真っすぐに進みなさい」という意味だ。吉村良校長は「佐藤一斎の言葉を人生のいろいろな場面でかみしめてもらえたら」と語る。

 本年度は、NHK大河ドラマ「西郷(せご)どん」にちなみ、西郷隆盛が好んだ一斎の言葉を岩村城下町で探し出す活動を行った。同町では旧岩村町時代の2002年ごろから、NPO法人いわむら一斎塾や岩村町商工会(現恵南商工会)が一斎の言葉を広めようと岩村城下町に木版や石碑などの形で設置。「言志四録」の1133条のうち300条弱が書かれた木板や石碑などがあり、うち西郷の好んだ101条を探す取り組みだ。

 昨年10月に全児童256人がグループ別に分かれ、岩村城下町をくまなく散策。101条のうち31条の場所を突き止めた。

 児童らはいわむら一斎塾などの監修の下、意訳を作り、パソコンなどで入力。QRコードでアクセスする仕組み作りに貢献した。近く、紙のマップも作り、観光施設などへ配布される予定だ。

 1年生途中に配布される副読本「家族で楽しむ言志四録」(同法人編著)を基に、児童の誰もが一斎の考え、思い、思想に触れる。吉村校長は「恵那市が重点を入れているのが『志教育』。児童たちが地域を大切に思い、目標を持ち、自ら生まれた郷土を誇りに思えるよう、取り組みを続けていきたい」と話す。