実践校9校が活動報告を行ったセミナー=岐阜市柳津町高桑西、岐阜聖徳学園大学
主体的な学びを実現するための新聞活用について意見を交わす参加者=同

 「主体的に学ぶ」をテーマに、岐阜市柳津町高桑西の岐阜聖徳学園大学で開かれたNIEセミナー(県NIE推進協議会主催)では、県内小中高校計9校が取り組む独自の実践内容が紹介され、参加した教員、新聞・通信社代表ら約30人が熱心に意見交換、新聞を学校教育に盛り込む具体策を探った。

 継続校3校は実践を報告。▽児童自らが興味を持った記事を廊下に掲示して発信、異学年で意見交流(白川郷学園)▽衆院選関連記事を読み、若者の投票率を上げる方法を考えた(岐阜西中)▽授業(公民、商業、家庭科、理科)の教材やホームルームで新聞を活用(飛騨高山高)など-特色ある実践内容を発表、新規校6校も現況を報告した。

 各校の活動について県NIEアドバイザー3人が助言。奥田宣子教諭(山県市立富岡小)は、「人間関係が固定化され、自分らしさが表現しづらい」という小規模校の活動報告を受けて、「記事を手がかりに自分の思いが言える子もいる。新聞は社会に目を向けるきっかけであり、自分の思いを確かにしていくもの。新聞活用の良さを子どもたちが自ら実感できる取り組みにしたい。そのためには教師・家庭の連携は欠かせない」と話した。

 また、新聞スペースが確保できない。新聞を読んだことが一度もない生徒もいるという新規校の現状報告に、細江隆一教諭(美濃加茂市立西中)は、「移動図書館のように新聞をワゴンに乗せて運んではどうか。読んだことがないからこそ新聞に新鮮味を感じるのではないか」と話し、「図書館の文庫本の貸し出し是非(ぜひ)」や「茶髪への対応」などの身近な記事から対話を深め、新聞に親しむ具体的な取り組み例を紹介した。

 さらに、原田結花教諭(山県市立高富中)は、教科化される道徳の新聞活用にも触れ、説話に用いる記事を子どもと一緒に集める「いい話ポスト」作りを提案。「読者の生の声である投稿記事や小さなコーナーからも社会を知ることができる。多世代の考えを知ることで自分の生き方を問い、継続して社会を見つめるきっかけ作りにしては」と呼び掛けた。

 報告後は、「主体的な学び」を実現するための新聞活用についてのグループ討議も行った。「多様な情報が得られるようになったが、フェイク(偽)ニュースやうわさに流されがち」「情報の取捨選択能力を身に付けるには新聞は欠かせないが、字面を見ただけで背景が分からなければ知識につながらない」「記事の疑問を大人(教師や親)と共に考えられれば子どもの関心度は高まる。教師・家族も主体的にNIEを捉えなければ」など、今後の課題も浮き彫りにした。

 セミナー全体を振り返り、山田高秀県教育委員会学校支援課長補佐は「無理なく、無駄なく、むらなくできることは何かを考え、カリキュラム化していくことが大切」、高木俊明県高校長協会副会長(岐阜北高校長)は「NIEの意義は、新聞をツールとして使うことで学校の学びを社会につなぎ、当事者意識を持って考えるようにすること」と提示。新聞社側は「教科書には載っていない今を伝える新聞は現代史の一端にもなり、責任は重い。間違いのない報道をしていきたい」と話した。

【実践校(継続校)の発表】

◆白川郷学園(大野郡白川村) 亀原修一教諭

 5年生が廊下の壁に「新聞宝さがしコーナー」をつくり、「世の中の話題」「わくわくする出来事」をテーマに記事のスクラップを掲示。読んだ感想、意見が書ける付箋を用意し、学園の誰もが参加できるようにした。主体性を高めるために、クラスの「財産新聞」を作成した。児童が記事をもとに「先生はどう思いますか」と聞いてくるように。新聞を身近に感じ、社会の事象を自分のことと捉えられるようになってきた。(実践代表者 横山成子教諭)

◆飛騨高山高(高山市) 櫛田尚人教諭

 新聞記事の切り抜きを貼り、書き込みもした生徒の作品、自身が指導で使ったワークシートなどを披露。実践を紹介しながら、表現力と読解力の向上を成果に挙げた。読解力のために取り組んだのは、実際の記事で見出しを考える実践。Jリーグの記事に比べ共謀罪の記事では出来がそれほどだったのは「内容が理解できていないためだった」。知識不足が気になるが、実践や新聞を読むことを積み重ねていけば、生徒の考えも変わってくるのでは。「継続は力なり」

◆岐阜西中(岐阜市) 大畑祐司教頭

 火曜から金曜までの朝活動で5分間、全校生徒が新聞のコラムの書き写しをしている。2年目は、感想まで書けるようになった生徒が多くなり、「コラムの内容と自分の意見とが比べられるようになった」という声が聞かれるようになった。教科の授業では、3年生の社会科・公民分野で選挙制度の授業が10月の衆院選と時期が合い、政党の公約の記事などを活用。近い将来、自分たちが有権者になることを意識して読むように指導した。(実践代表者 脇原直人教諭)

【実践校(新規校)の報告】

◆常磐小(岐阜市) 矢吹恵美教諭

 低学年での新聞活用が課題になったが、新聞に載った写真を使った実践を考案。1年生は生活科ですごろく、2年生は国語科で「夏がいっぱい」と題したかるたの読み札を作った。「子どもたちの言葉の広がりにつながった」。今後、全学年へと実践を展開していく。来年度は朝活動でも新聞を取り入れたいし、他教科でもチャレンジしていきたい。

◆羽島中(羽島市) 渡邉秀樹主幹教諭

 琵琶湖研修に向け、春休みの宿題で「環境」(防災含む)をテーマに関する記事を切り抜き、内容ごとに班で意見を交わした。生徒らは環境問題への意識が高まり、夏休みにも同テーマで記事を集め、「第8回いっしょに読もう!新聞コンクール」(日本新聞協会主催)への参加に。178人の生徒が作品を仕上げた。(実践代表者 宇野早織教諭)

◆県岐阜商業高(岐阜市) 丹羽沙也子教諭

 国語表現の授業で自分の進路に関する記事を集め、意見を書く実践を継続。新聞社の出前授業で「見出しだけでも記事の内容が分かる」と教わり、記事への抵抗感が減った。新聞から人工知能(AI)を調べる生徒がいる。知識を付け、自分の将来への夢と絡めている。が、これはまだ一部の生徒。広げていきたい。(実践代表者 加藤美津子教諭)

◆岩野田北小(岐阜市) 林和也教諭

 3~6学年で、新聞写真の切り抜きでスピーチ、壁新聞づくりなどを実践。NIEの効果を感じたのが4年生の環境学習。2004年に発覚した、同市椿洞の山林に大量の産業廃棄物が不法投棄された事件を地域住民から聞き、当時の新聞記事を読んで何が起きたのかを詳しく知った。現場も見たが、新聞で興味・関心が高まり「実感の伴った学習ができた」。

◆岐阜大付属中(岐阜市) 野々村琢磨教諭

 3年生の社会科・公民分野「マスメディアと世論」で新聞を活用。4紙を比較し、見出しによる"伝わり方"の違いに気付いた。事実、データ、見解の区別、情報を慎重に読み取りながら解釈していくことの必要性を実感した。今後は国語科で実践を予定。意見文で、自分の考えを構築するためにどんな情報が要るのかを新聞で探したい。 (実践代表者 前田佳洋教諭)

◆城南高校(岐阜市) 小川直輝教諭

 1年生が夏休みの課題で「第8回いっしょに読もう!新聞コンクール」に取り組み、90作品を応募した。ロングホームルームや世界史・現代社会の授業で新聞を活用。テーマ別に記事を切り抜いて要約し、自分の感想も書き、発表した。新聞が日常的に生徒の目に触れられる環境をつくっていきたい。(実践担当は他に、中川陽介教諭、長谷部将也教諭)