顔を近づけてカイコをつぶさに観察する児童たち
「まぶし」に移されて、カイコが作った繭玉=いずれも安八郡安八町大明神、名森小学校

800匹成長、糸吐く姿に驚き

 安八郡安八町大明神の名森小学校では、かつて地元で営まれていた養蚕業を学ぶ授業を実施している。4年生を対象に、体長2センチほどのカイコを育て、繭から糸などを作る一連の作業を体験させる県内でも珍しい学校。2015年には取り組みが評価され、大日本蚕糸会から「蚕を学ぶ奨励賞」を受賞している。

 県蚕糸協会によると、養蚕は主に農家の副業として営まれた。県内で戦後最多だったのは1949年で、約4万戸が養蚕を行っていたという。しかし、農家の減少や農業の専業化などが要因で減少の一途をたどり、現在では8戸に。「安八町史」には、名森村に養蚕農家が44年に420戸あったという記述がある。同町には現在1戸もない。

 授業は約25年前から始まり、現在は総合的な学習の時間で行われている。校内には専用の飼育部屋が設けられており、温度や湿度を管理できる。始まった頃から作業にも携わる高御堂憲子さん=同町北今ケ渕=が、ずっと児童の指導に当たっている。

 カイコの受け渡しがあったのは6月。同協会から約800匹を譲り受けた児童たちは「命を預かるので、気を引き締めて育てる」と誓った。怖がるかと思いきや、「かわいい」と目を輝かせながら観察する児童がほとんどだった。

 ここから3週間をかけて、繭を作るまでに育てる。カイコはクワの葉を勢いよく食べ、部屋に音が響き渡るほど。見る見るうちに大きくなる。クワの木は校内にあり、葉を昼休みの時間にほぼ毎日のように与え、ふんを掃除する。児童たちは「まぶし」という仕切りの中で、カイコが糸を吐いて繭を作る様子も観察した。

 堀江璃衣(りこ)さん(10)は「あんなに大きくなるとは思わなかった」と目を丸くし、金森有香さん(9)も「どんどん大きくなる様子を見るのが面白かった」と成長の過程に興味を膨らませた。

 繭を作ってさなぎになったカイコは、いったん業者へ預けられ、蒸される。10月には、繭から糸を取ったり真綿を作ったりするという。

 4年生を担任する中原真奈美教諭(37)と安田千夏教諭(28)も、「日に日に大きくなる。カイコの成長の早さに驚いている。いい経験になった」と、児童と一緒になって楽しみながら携わっている。中原教諭は「一歩引いてカイコを観察するかと思いきや、自ら進んで近寄っていた」と児童たちの様子に目を細める。

 「地場産業だった養蚕を体験し、昔の人々の暮らしを地元の人と触れ合いながら学べるいい機会」と成瀬岳志校長(53)。「写真ではなく、本物を手のひらに乗せて間近に見たり、感触を得たりする"生きた勉強"。命を頂いて人間は生かされているという、尊さも子どもたちには感じてもらいたい」と願う。