水、電気、ガスなどの生活インフラ業界の現状や課題を伝える記事。県内企業の動きも紹介する=美濃加茂市蜂屋町、県国際たくみアカデミー
管工作実習に取り組む設備システム科の生徒たち。どの作業台からも確認できるホワイトボードの一角に記事が掲示してある

 岐阜県国際たくみアカデミー(美濃加茂市蜂屋町)の設備システム科では、配管資材メーカーの知的財産活用の取り組みや水道事業の今後を伝える新聞記事を使い、生徒の探究心を培う授業を展開する。日々の学びと社会とのつながりや技術・施工面の課題を知り、ライフラインを支える仕事への意欲向上に役立てている。

 同アカデミーはものづくりの実践的な技能・技術、専門の知識を学ぶ職業能力開発施設。設備システム科は履修期間1年で、2級管工事施工管理技士(学科)や第二種電気工事士の資格を取得できる。老朽化した学校やビル、住宅設備の修繕工事や災害時の生活基盤を守る作業を行う設備工を養成する。

 人工知能(AI)技術が人間のあらゆる仕事を奪うと言われる一方、自動化するには複雑すぎるエネルギー、水、電気、ガスなどのインフラ整備の担い手が不足し、業界の高齢化が危惧されている。担当の森一夫指導員(55)は、業界や職場理解を目的に訓練棟のホワイトボードにラミネート加工した記事を掲示し、作業実習の指導で活用。座学では日本のエネルギー問題から省エネ住宅建築事情まで幅広く教えるが、「インフラ環境は大規模な自然災害や地震、少子化や過疎化など、社会そのものに密接に関わっている。新聞で身近な生きた情報に触れることができるのは重要」と話す。

 地元紙や建設専門紙「建設通信新聞」に目を通し、生徒が興味を持ちそうな記事や卒業生の活躍を伝える記事を切り抜きする。2020年8月14日付の岐阜新聞紙面からは、同年の7月豪雨で水道復旧に当たった下呂市の今井設備工業の記事を取り上げた。復旧作業に尽力した思いなどについて女性社長が語った内容を読んだ生徒らは、水の安全と安定供給を守る企業努力、女性が活躍できる職場づくりの大切さに気付いたという。県内業界に精通する指導員歴31年の森指導員は、女性の卒業生が施工時や民間住宅への水回り点検の際、物腰の柔らかさや丁寧な説明で重宝される現場の事情も合わせて伝える。「記事をきっかけに自分の知見や業界の"今"を知ってもらいたい」

 また、21年3月13日付の同紙からは、県管設備工業協同組合が練習資材を同アカデミーに寄付しているという話題をピックアップし、蛍光ペンでラインを引いて強調。企業の下支えで、充実した実習ができることを紹介した。

 同科では企業との連携も進めており、配管資材メーカーのオンダ製作所(山県市)の商品開発を通じ、授業で商品がどのように役立つのかを考え、議論を交わす。同社の省エネ新技術や商品開発を報じる記事に影響を受けた生徒らから、アイデアが飛び出すことも少なくない。新聞活用について、渡辺孝之教務・開発援助課長(47)は「記事から業界の未来を見据えると、訓練に臨む姿勢も変わる。教えられたことを身に付けるだけでなく、修了後に目指す職人像を描きながら学んでほしい」と期待を込める。