豚コレラ 発生9カ月
(1)早期出荷 急場しのぎ、安心できず

2019年07月05日 10:58

母豚の乳を飲む子豚。養豚農家は愛情を持って豚を育て出荷している=6月、県内の養豚場(農家提供)

母豚の乳を飲む子豚。養豚農家は愛情を持って豚を育て出荷している=6月、県内の養豚場(農家提供)

 家畜伝染病「豚(とん)コレラ」の感染が止まらない中、国は次の一手を打った。飼育されている豚を全て出荷して豚舎を空にし、施設を改修して衛生管理体制を強化する「早期出荷」だ。県によると、稼働中で対象の21農場のうち、国の要請に応じた農家は二つにとどまる。感染した野生イノシシは増え、発見地域は広がり続けているだけに「早期出荷しても安心して再開できない」と農家の不安の声はやまない。

 「早期出荷の一点張りだった」。ある養豚場の男性経営者は農林水産省の担当者から説明を受けたときのことを振り返った。

 昨年9月に岐阜市内で感染が確認されて以降、男性は毎日必死だった。熟睡できず、徹底した消毒作業に疲労はたまった。農場の近くに感染した野生イノシシが見つかるとおびえた。6月上旬、国と県から指導された衛生管理の問題点を改善し、防疫体制は万全なはずの山県市の養豚場に感染が判明した。急場しのぎにみえる早期出荷に疑問を投げ掛ける。「100%防ぐなんて不可能だ」

◆早期出荷募る不信 農家「いつ再開できるのか...」

 豚(とん)コレラに感染した野生イノシシは北は高山市、東は長野県と接する中津川市、西は養老郡養老町の三重県境近くで発見されている。養豚場の30代の男性経営者は「早期出荷すれば一時的に恐怖から逃れられるだろうが、いつ、何をすれば安心して再開できるのか分からない」と話し、受け入れないことを決めた。

 感染の拡大防止には豚にワクチンを接種することが特効薬だが、国は否定的な姿勢を崩さない。ワクチンを打って安心した農家がかえって油断し、アジアで猛威を振るうアフリカ豚コレラの侵入を許すのではないか-。そのような懸念が背景の一つにある。アフリカ豚コレラのワクチンはない。県養豚協会、県議会や県市長会なども接種を要望したが国は揺るがなかった。
 早期出荷を受け入れた場合の支援も不十分と考える農家は多い。再開までの期間にかかる固定費は飼育頭数に応じて補助されるが補助率は2分の1にすぎず、その期間に本来得られるはずの利益は補償されない。

 と畜や流通などの業者にも影響は及ぶが、国の支援策は示されていない。関市食肉センターを運営する中濃ミート事業協同組合の早瀬敦史理事長(59)は「川上から川下まで支援してほしい。生産者のみが生き残っても立ち行かなくなる」と語る。養豚場の30代の男性経営者は「関連事業者への補償がないことが最大の問題点。支えてくれる多くの業者に配慮がない」と批判する。

 県内の養豚場は38農場あったが、13農場で豚コレラが確認された。殺処分された豚は約5万1千頭に上り、県内の飼育頭数の4割を超える。「仲間がどんどん減っていく。ワクチンを打てばまだ間に合う」。ある男性経営者は嘆く。

   ◇    ◇

 昨年9月、国内で26年ぶりとなる豚コレラの感染が岐阜市内で確認された。いっときは5府県に広がり、現在も岐阜と愛知の両県内の養豚場で発生する。ウイルスを媒介しているとされる野生イノシシの感染の拡大にも歯止めがかからない。豚コレラが発生し、どん底に落とされた農家、感染を防ぐために神経をすり減らす未発生の農家、手探りの対策が続く行政の現状を取材し、課題とあるべき道筋を探った。


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