豚コレラ 発生9カ月
(2)イノシシ調査捕獲 防護服に身を包み狩猟

2019年07月05日 10:58

谷筋に仕掛けたわなに掛かった野生イノシシの周辺を消毒する猟友会員。県の検査で豚コレラの感染が確認された=17日、中津川市内

谷筋に仕掛けたわなに掛かった野生イノシシの周辺を消毒する猟友会員。県の検査で豚コレラの感染が確認された=17日、中津川市内

 パーン、パーン-。乾いた銃声が中津川市の山林に響いた。銃口の先には、谷筋のくくりわなに掛かり、さっきまで暴れ回っていたイノシシがぐったりと横たわっていた。豚(とん)コレラの防疫対策のため、普段の猟では着ない白い防護服を着た猟友会員の一人はイノシシの腹部を確認し、斜面で小さな足跡をいくつも見つけると、声を上げた。「雌だ。この春に子どもを6匹ぐらい産んでいる」

 軽トラックにくくり付けたロープで、体長約130センチ、体重約80キロの巨体を引き上げ、シートに包むと、3人がかりで荷台に載せた。捕獲現場や長靴、軽トラのタイヤなどの消毒を終えたときには、顔から汗が吹き出ていた。「趣味の猟と違って面白くはないね」。何度も通って仕掛けたわなを確認し、捕獲の喜びに浸る間もなく、すぐに別のポイントに向かい、計27カ所を見回った。片道2時間半かけて軽トラを運転し、午後3時に間に合うように岐阜市内の検査場に運び入れた。朝早くに猟に出て帰宅したのは夕方になった頃だった。このイノシシは翌日の遺伝子検査で豚コレラの感染が確認された。

◆猟友会、先見えず イノシシ捕獲「限界ある」

 中津川市では、4月22日に豚(とん)コレラに感染した野生イノシシの死骸が初めて確認されたことを受け、5月に始まった2回目の経口ワクチンの散布から調査捕獲が始まった。中津川市猟友会の中川征児会長(81)は「昨年9月に岐阜市で最初の感染が分かってから、いずれは来るだろうと覚悟していた」と厳しい表情で話す。市猟友会には約130人の会員がいるが、調査捕獲に従事できるのは基本的に県猟友会の講習を受けた14人のみ。2人一組で担当地域を回って、捕獲や運搬の際には仲間の協力を得ながら乗り切っている。「夏場はさらに暑くなる。無理だけはしないようにと伝えている」と話す。

 21日時点で検査した県内の1462頭の野生イノシシのうち、豚コレラに感染していたのは645頭。3月に経口ワクチンの散布が始まって以降、抗体陽性率が上昇しているが、ワクチンによる抗体かどうかは多くの場合、分かっていない。北海道大大学院獣医学研究院の迫田義博教授(ウイルス学)は「北に西に東にと、イノシシの感染が広がっており、感染エリア以外でのワクチン戦略を踏まえた計画を練ることが必要だ。岐阜、愛知以外のプラスアルファ(隣県)も一緒になってやっていかないといけない」と指摘する。

 農林水産省の担当者によると、5月下旬にあった国の会議で岐阜県内の発見場所から10キロ圏の三重県と長野県には経口ワクチンの散布の実施に向けた準備を求めた。今月には高山市でも見つかり、対象県を増やすことも視野に入れ、効果的な散布方法や調査捕獲の可否も含め、議論を重ねているという。長野県の担当者は「いつ見つかってもおかしくない状況。散布できるエリアを検討している」と危機感を持つ。

 岐阜県は捕獲による個体数削減を目指して、市町村が担う有害捕獲に対する奨励金を増額するほか、これまでなかった狩猟期における報奨金制度の創設を検討する。岐阜大応用生物科学部の鈴木正嗣教授(野生動物管理学)は「一定の効果はあるだろうが、いずれ頭打ちになる。相手も賢い動物で、限界があることは認識してほしい」と話す。その上で「イノシシ対策はもちろん大事だが、養豚場の周囲の防疫措置を徹底するなど、いかに養豚農家を守るのか考えるべきではないか」と投げ掛ける。


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