豚コレラ 発生9カ月
(3)衛生管理 基準「順守」しても...

2019年07月05日 10:58

シャワールームに張り紙をし、防疫を徹底している養豚場=中津川市落合、吉野ジーピーファーム中津川農場(同社提供)

シャワールームに張り紙をし、防疫を徹底している養豚場=中津川市落合、吉野ジーピーファーム中津川農場(同社提供)

◆続く感染、国と農家かみ合わず

 「もはや飼養衛生管理基準のみで防ぎきれるものではない」。日本養豚開業獣医師協会(JASV)代表理事の呉克昌氏(62)は今月6日、東京都内で開いた記者会見で指摘した。農林水産省や県とともに、県内農家の防疫を指導してきた専門家集団。期間限定・地域限定の豚へのワクチン接種を国に求めているが、農林水産省は「基準の順守で感染を防ぐ」との姿勢を崩していない。本来、基準の順守とワクチン接種は対立する方策ではないが、養豚業界と国との間でかみ合わない意見の応酬が続いている。

 飼養衛生管理基準は、家畜の所有者が最低限守るべき衛生管理の方法をまとめたもの。2010年に宮崎県の畜産業界に甚大な被害をもたらした口蹄疫(こうていえき)の発生を機に、従来の基準を大幅に改正して11年にまとめられた。

 農水省が基準の順守を求める背景には、さらに感染力が強く致死率が高いアフリカ豚コレラの存在がある。有効なワクチンがないため、国内への侵入を許せば甚大な被害をもたらす恐れがある。今年4月には、中国から中部国際空港に持ち込まれた豚肉製品から、感染力のあるアフリカ豚コレラのウイルスが初めて見つかった。農水省は「わが国の水際まで到達している」と危機感を強める。

 農水省に限らず、JASVや県、農家も基準の順守が最重要との認識は一致している。一方で、基準には「必要な措置を講じている」「定期的にしている」などと漠然とした表現も多く、どの程度の対策が「順守」に当たるのか、判断の難しさがある。感染豚が見つかった県内農家は基準に基づく防疫が「足りなかった」「甘かった」と指摘を受けることになった。

 JASVは今年2月6日から3月15日にかけ、会員獣医師12人を派遣して農水省や県とともに県内の全33養豚場を訪問。防疫設備や衛生管理について指導や助言をし、養豚場の衛生水準を底上げしてきた。現場を直接知る立場から「基準を守っていない農家はない」と呉氏は言い切る。「基準にあることは皆守っている。ただ、感染を防ぐためには足りない部分もあり、改善の指導をした」と言い表す。

 基準の順守に向けては、農家や県も力を注いできた。県は養豚場への立ち入り検査で使うチェックシートを昨年12月に一新。従来は基準に照らして可否をチェックするだけだったが、より細かく状況を記入し、達成度を2~3段階で示すようにした。農家は豚舎ごとに専用の長靴を使うなど、基準を上回る対策にも乗り出し、必死の防疫を続けている。

 今年5、6月に豚コレラが発生した山県市内の2養豚場は、いずれも国やJASV、県の指導で防疫体制を改善し、確認検査でも基準を満たすと認められていた。呉氏は人為的なミスの可能性を認めた上で「野生イノシシに感染が広がる中、ウイルスの侵入をパーフェクトに防ぐのは不可能だ。安心して経営を再開するためにも、一刻も早く豚にワクチンを打つべきだ」と訴えている。


  • 1