豚コレラ 発生9カ月
(4)清浄国認定 豚にワクチン「最終手段」

2019年07月05日 10:58

牛豚等疾病小委員会で豚へのワクチン接種について意見を交わす委員ら=7日、農林水産省

牛豚等疾病小委員会で豚へのワクチン接種について意見を交わす委員ら=7日、農林水産省

◆輸出入に打撃、国は方針変えず

 「野生イノシシへの経口ワクチン散布に加え、早期出荷により農場の衛生管理を一層強化していく」

 6月に入っても終息の兆しが見えない豚(とん)コレラの被害。吉川貴盛農相は記者会見で、衛生管理を徹底する重要性を繰り返し強調している。野生イノシシの感染が拡大し、抜本的な対策として豚へのワクチン接種を求める農家の声は多い。だが、国は「最後の手段」として慎重な姿勢を貫いている。

 今月7日、農林水産省で開かれた食料・農業・農村政策審議会の牛豚等疾病小委員会は、豚へのワクチン接種を行う段階にないことを改めて確認した。接種すべきタイミングとして、野生イノシシ対策の効果が十分でないなど、感染経路や感染源の対策が困難な場合を想定。「現在の発生や防疫措置の状況はこれらの場合に当たらない」とした。

 農水省によると、ワクチンを使っても全ての豚に抗体ができるとは限らず、およそ10%は免疫がないままという。感染のリスクが残る上、野外ウイルスとワクチンの区別がつきにくく、ウイルスの発見を遅らせる恐れがある。そのため、ワクチンを接種した場合でも個体の識別や流通範囲を限定するための移動制限が必要となる。農家の安心感につながる一方、デメリットもあるとの見解だ。

 豚へのワクチンはかつて「接種すべきもの」として使用されていた。1992年、熊本県での発生を最後に豚コレラが確認されなくなり、2006年にワクチンの接種を全面的に中止。15年には動物衛生の国際基準を定める国際獣疫事務局(OIE)から豚コレラの「清浄国」と認められた。

 畜産物の取引では、清浄国は非清浄国からの輸入を制限したり、他の清浄国に輸出したりできる。現在、日本の清浄国認定は保留状態にあり、2年以内に、新たな発生が3カ月間なければ復帰できる。ワクチンを接種すると、清浄国への復帰が遠のくことになる。

 そのため、他の清浄国が日本からの豚肉の輸入を拒んだり、非清浄国から輸入解禁の圧力が強まったりする可能性がある。農水省の担当者は「国全体に影響が及ぶ。公平性を考えなければいけない」と理解を求める。ワクチンに頼ることで、農家の衛生管理に対する意欲がそがれることも心配する。

 10年に宮崎県南部を襲った家畜伝染病「口蹄疫(こうていえき)」で、約8千頭の豚の殺処分を強いられた養豚業男性(39)は「岐阜の豚コレラを受けて宮崎県内でも、ワクチンを打つべきかという議論がある。賛成の声も多いが、私は反対。輸出入や国内市場への影響が大きく、風評被害も免れない」と言う。

 畜産県である宮崎県の口蹄疫被害では、観光や飲食、運輸などにも影響が広がり、県経済は大打撃を受けた。男性は「口蹄疫の時は行政との関係を大切にして立ち向かった。不満はあると思うが、けんかをしては病気と闘えない。厳しい指摘も受け止め、一つ一つ対処し、力を合わせて乗り越えてほしい」と願う。

 豚へのワクチンをめぐり、生産者側と国との溝が埋まらない中、23日には関市内の養豚場で新たに豚コレラの発生が確認された。国の衛生検査も受けていた農場。別の養豚業者は「全く無駄な殺処分だ。もう我慢の限界をはるかに超えている」と憤った。


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