豚コレラ 発生9カ月
(5)発生後の苦悩 養豚場再開程遠く

2019年07月05日 10:58

消毒用の石灰が吹き付けられ真っ白になった豚舎=12日、恵那市内

消毒用の石灰が吹き付けられ真っ白になった豚舎=12日、恵那市内

◆農家「感染の危険冒してまで...」

 今年1月、豚コレラの感染が判明し、1700頭余を殺処分した各務原市の養豚場。収入は途絶えたが、阿部浩明社長(52)は7月の営業再開に向け、蓄えを取り崩して豚舎を改修してきた。ところがこの半年、県内の農場で毎月豚コレラが発生。ウイルスを媒介するとみられるイノシシ対策は道半ばで、農林水産省は豚へのワクチン接種に踏み切る気配もない。「危険を冒してまで再開はできない。しばらく様子をみるしかない」。諦めたように深いため息をついた。

 市内ではこの5カ月間、感染したイノシシは見つかっていないが「再開には不安しかない」と明かす。豚を飼えば、また感染におびえる毎日がやって来る。それでも「豚が好きでしょうがないから。豚のいない生活は考えられない」と再開を目指してきた。

 大学を出た阿部さんの長男は、北海道の農場で1年間研修を積み、昨年3月に実家へ戻ってきた。1年もたたず、豚舎が空になるとは夢にも思わなかった。発生後、「申し訳ない」とうなだれる父に「しょうがないよ」と声を掛けた。収入を失った今は、食品工場のアルバイトに汗を流す毎日だ。

 「長男がいてくれなかったら押しつぶされていた」と阿部さんは感謝する。いずれ長男に譲り渡す日まで、養豚をやめるわけにはいかない。再び豚でいっぱいにする日に向けて、がらんどうの豚舎の掃除を続けている。

 昨年9月に岐阜市の養豚場で1例目の豚コレラが発生して以来、県内では民間の14施設で感染が確認され、県内の飼育頭数の43%、約5万2千頭が殺処分された。今年3月末に初めて、4軒の発生農家に殺処分の手当金が国から支払われたが、現在までに事業を再開した農家は1軒もない。

 「見ての通り、豚舎は空っぽ。再開は難しいし、養鶏でも始めようかと考えている」。今年2月に経営する恵那市の養豚場で豚コレラが発生、4300頭余の殺処分の憂き目を見た男性経営者(66)は、消毒用の石灰で真っ白になった豚舎を見やると、投げやりな口調でつぶやいた。

 子豚を購入した愛知県豊田市の養豚場で豚コレラが発生、あおりを受けて感染が見つかった。経営規模を拡大するため、東海地方で適地を探していたところだった。

 殺処分で、開店休業状態となった。政府系金融機関から融資を受け、当面の運転資金は確保したが、いつ再開できるか見通せない現状に焦燥感を募らせる。殺処分した豚の評価額を基にした国の手当金の支払いは「まだ当分先だろう」という。

 事業拡大に向けて設備投資を予定していた。「知り合いの業者は設備投資の直後に発生した。うちはまだ傷が浅かった」。収入は途絶えたが「大切な戦力」として従業員5人を雇い続ける。豚へのワクチン接種を頑なに拒む国の対応に、いら立つように言い放つ。「このままだと県内から養豚業がなくなる」

 別の養豚農家は、付近住民から再開に条件を求める文書を受け取った。臭気問題や埋却地周辺の環境問題について厳しい言葉が並んだ。「先代が養豚を始めた時、周囲に住宅はなかった。でもたくさんの人に迷惑をかけたから、簡単に再開しますとは言えない」


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