豚コレラ 発生9カ月
(6)未発生農場 「毎日怖くて仕方ない」

2019年07月05日 10:58

新たな養豚場を整備している吉野ジーピーファームの吉野毅社長=大野郡白川村飯島

新たな養豚場を整備している吉野ジーピーファームの吉野毅社長=大野郡白川村飯島

◆「感染」北上、懸命の防疫

 合掌家屋で知られる大野郡白川村。集落を貫く庄川沿いを車で走ると、山あいに建設が進む養豚場が姿を見せた。吉野ジーピーファーム(高山市)の第3農場。「もうすぐ日本一の施設ができる。村の名物になる豚を育てたい」。吉野毅社長(58)は、疲れた顔に笑みを浮かべた。

 県養豚協会の会長として昨年来、豚(とん)コレラ対策の陳情や情報収集のため奔走する日々が続く。1人の農場主としては、高山市と中津川市で2施設を経営し、必死の防疫を続けている。

 吉野さんは、出生から出荷まで抗生物質など薬剤を一切使わない「無薬(むやく)豚」の生産を追求。独自の衛生管理を徹底し、疾病を防いできた。一連の取り組みが認められ、昨年6月、最も優秀な養豚農家に贈られる日本養豚協会長賞を受賞した。

 集大成とも言うべき白川村の養豚場は、2020年春の完成予定。約2・6ヘクタールの敷地に最新設備を入れた施設を整備し、総事業費は15億円ほど。「うちの規模から言えば、まさに生き死にを懸けた事業」と力を込める。

 今月、徐々に北上していた感染イノシシがついに高山市でも見つかった。「とうとう来た。毎日怖くて仕方ない。電話が鳴ると、何かあったんじゃないかと不安になる。今は運も味方してくれているが、ヒューマンエラーを100パーセント消せというのは人間には不可能だ」と嘆く。

 いま頭が痛いのは、農林水産省が求める「早期出荷」の問題だ。農家が生産を止めれば、と畜や流通、食肉、残さ処理などあらゆる関連業界に影響が及ぶ。「取引先を失い、市場を奪われ、信頼をなくす。県内の業界全体が干上がってしまう」

 早期出荷に応じた農家は岐阜、愛知の両県で2軒ずつ。中津川市内で繁殖農場を営む武川聖一さん(59)は提案に応じた一人だ。出荷先への子豚の移動が制限され、自社で肥育せざるを得なくなったからだ。

 従来は愛知県の農場に子豚を卸してきたが、防疫のため県をまたぐ豚の移動が制限された。本来は生後4カ月で出荷する豚を6カ月まで育て、食肉市場に回すしかなくなった。豚舎や堆肥舎の規模が合わないまま、無理な肥育を強いられている。

 追い打ちをかけるように感染したイノシシも農場のすぐそばで見つかった。内憂外患の毎日は「感染を待っているようなものだ」と自嘲気味に笑う。

 「早期出荷が最善の策とは思っていない。ワクチンを打てるならそれが一番だ」と考える。しかし国はワクチン接種に否定的で、議論が進む気配がない。「うちは皆さんほど設備がしっかりしていないし、ワクチンを待つ余裕もないから」と理解を求める。

 ただ、早期出荷しても再開のめどは立たない。豚舎の改修も「設備が整った農場でも発生した。うちが2、3カ所を強化しても太刀打ちできない」と首を振る。ワクチンが効いて感染イノシシが出なくなるか、捕獲していなくなるか。「それなりの環境が整わないと再開できない。1年は無理だろう」と見通す。

 補償はあるが、日々の収入は途絶え、再開のめども立たない。「不安だけど、それでも今の状況から脱出したい。毎日、今日は大丈夫だろうかと冷や冷やしながら豚舎を見る生活に疲れた」


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