豚コレラ 発生9カ月
(9)提言 「攻めの防疫」準備を

2019年07月05日 10:58

  • 殺処分され、重機で運ばれる豚の死骸=今年1月、各務原市内

◆地域限定の豚ワクチン検討必要

 昨年9月に岐阜市で、国内では26年ぶりに家畜伝染病「豚(とん)コレラ」が発生して以来、岐阜新聞は長引く問題を伝えてきました。取材現場で記者が何を思い、考え、どう記事を書き、写真を撮ってきたのか―。終息の兆しが見えない現状を踏まえ、取材班の中の2人が提言を交えて報告します。

 港も空港もない内陸県で26年ぶりに発生した豚コレラは、民間農場に加えて県や市の管理施設でも感染が相次ぎ、岐阜県では全飼育頭数の43%を殺処分で失った。農林水産省が検査をした養豚場でも発生しており「飼養衛生管理基準の順守」の限界がうかがえる。豚へのワクチン接種について、議論を前に進めることを考えるべきではないだろうか。

 「まずは飼養衛生管理基準を順守して防疫する」。農水省は昨年来、養豚場の衛生管理を徹底することでウイルスを侵入させまいとしてきた。来県した農水副大臣は「基準さえ守れば発生しない」とまで言ってのけた。

 県内農家は基準を上回る対策にも取り組んだが、農水省の確認を得た農場でも発生が続いた。防疫に神経をすり減らした農家は「人間がやる以上、100パーセントの防疫をずっと続けることは不可能だ」と主張する。

 海外からの旅行客が急増している現代、衛生管理のさらなる徹底は養豚を営む上で欠かせない。豚コレラよりも強毒のアフリカ豚コレラが中国や北朝鮮などすぐ近くまで来ていることも脅威だ。

 国にも豚へのワクチン接種に慎重な理由がある。豚にワクチンを打てば、豚コレラの「清浄国」とは認められず、豚肉や加工品の貿易交渉でより弱い立場に立たされる。非清浄国からの輸入圧力が強まったり、清浄国から取引拒否を受けたりする恐れがあるのだ。

 国家全体を見渡す農水省と、畜産業界の衰退に警鐘を鳴らす生産者。どちらの意見にも理がある。問題は野生イノシシの感染だ。岐阜、愛知両県がイノシシ向けに散布した経口ワクチンの効果検証には、長い年月が必要となる。三重県でも感染イノシシが見つかるなど、感染原因となり得る存在をコントロールできていないのが実態だ。

 検討すべき案の一つに、地域や期間を限定した豚へのワクチン接種がある。ワクチンによる汚染地域を限定できれば、他地域の輸出入には影響しない可能性があるからだ。実行するために越えるべきハードルは少なくないが、それでも具体的な検討をする価値はある。高い水準の防疫は、長引くほど維持が難しい。農家に体力が残されているうちに、早期出荷や「基準の順守」という守り一辺倒ではなく、攻めの防疫の準備を進める必要があるだろう

◆現場に行く意味と葛藤 発生農場を取材したカメラマン

 昨年9月の早朝、携帯電話の立て続けの着信音で目を覚ました。「豚コレラ?」。語感にただならぬ気配を感じ、予定していたスーパーカミオカンデの内部公開の取材をやめて岐阜市内の養豚場に向かった。

 望遠レンズを向けたスレートぶきの豚舎には、出入りする無数の白い防護服姿の人たち。悲鳴にも似た鳴き声が響き、殺処分した豚の脚を持って運び出す様子がシートの隙間からうかがえた。

 発生が続く中で、憔悴(しょうすい)した表情で防疫関係者を案内する養豚業者や、戸惑う家族の姿をたびたび目にした。撮影の合間に県職員や作業員の嘆き、心配する近隣住民の声を聞くこともあった。

 こうした現場取材に対し、県は当初から発表文の中で自粛を求めてきた。「現場での取材は本病のまん延を引き起こす恐れがあることから、厳に慎むよう願います」
 非常に悩ましいが、施設の規模や衛生管理の状態、周辺の環境を含めて養豚場ごとに状況は異なる。発表データの羅列ではなく、独自の視点から事態を報じるためには、現地に赴くことは必須と考えた。

 ただ、当然敷地内には入らず、一般住民が通行や立ち入りできる場所からの撮影にとどめた。到着が早くて取材場所が後から規制区域になった場合は、指示通りに退出した。
 取材後は持参した畜産用の消毒液で長靴と脚立、一脚の接地面を洗浄し、さらに県が設定した消毒ポイントで車両とフロアマットに液剤を噴霧してもらった。清浄な場所での取材ならば矛盾するが、封じ込めに躍起の関係者の心情を思えば、思いつく限りのことはやっておきたいからだ。

 いまのところ、ほぼ全ての発生農場に出向いており、全体像を知るために活用した小型無人機(ドローン)を含め、撮影枚数は1万7千枚に及ぶ。豚という身近な食材が、こうした郊外や山間の地で育まれ、私たちの食を支えていることを思い知ったのも足を運んだからだろう。
 さまざまな苦しみを垣間見た身として、一刻も早い終息を願わずにはいられない。


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