【武並駅】駅前で営業38年の喫茶店 なじみの顔を求めて

2018年08月30日 08:57

「いい思い出ばかり」と語る田中勝美さん(左)。次男宏明さんと店を守る=恵那市武並町、たけとんぼ

「いい思い出ばかり」と語る田中勝美さん(左)。次男宏明さんと店を守る=恵那市武並町、たけとんぼ

 田舎の風景にぽつんとたたずむ武並駅は、木造のかわいらしい駅舎が印象的だった。物好きのファンが年に数人かは訪ねてきて、何枚も写真に収めていった。その駅舎も数年前、どこか無機的で武骨な現代風の建物に建て替えられた。

 駅前にある喫茶店「たけとんぼ」は今年でオープンから38年を迎えた。この間、数多くの通勤客や通学の学生、旅行者たちを送り出し、出迎えてきた。今年の元日、店主の田中宣實さんが病気で76歳で亡くなった。妻勝美さん(70)と38年分の思い出が詰まった店を残していった。

 「なにせコンビニも自動販売機もなかった時代。通勤、通学の途中に皆さん寄ってくれた。今では考えられないぐらいよ」

 遠い親戚の縁で美濃加茂市から嫁いできたという勝美さんは開店当時を懐かしむ。宣實さんがホール、都会の学校に通い調理師免許を持っていた勝美さんがもっぱらキッチンに立った。16年前には、恵那市内で調理師をしていた次男宏明さん(44)が店に入ってくれた。

 喫茶店を始めるのは、宣實さんたっての希望だった。オープン当時は、田舎まちだからか、洋風の建物がひときわ目を引いた。古い駅舎とは対照的だった。内装こそ変わったが、外の姿はほぼ開店当初のままだ。JRの元運転士、ここ10年間ほぼ毎日顔を出す建設作業員、大きな声で現れる作業所通いの男性ら常連たちが足しげく通う。なじみの顔を求めて。

 岐阜新聞社は「地方創生~チカラは地から~」をテーマに、県内各地で移動編集局を展開している。第4弾は東濃5市の魅力を伝える。

 美濃焼、地歌舞伎、山城、地酒、そして近未来のリニア中央新幹線―。山々に囲まれた東濃地域は、豊かな自然が育んだ歴史や伝統、ものづくり、食が多彩な輝きを放ち、多様な文化が交差する「宝箱」だ。