コロナ病棟に立つ加藤達雄医師。廊下は「グリーン」なので、個人防護具はマスクにとどまる=13日、岐阜市長良、長良医療センター

 肺の下の方の背中側に、いくつもの、すりガラスのような影が写っていた。新型コロナウイルス感染症患者のCT画像。「今まで見たものと違う」

 クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス(DP)号の患者受け入れから一夜明けた2020年2月19日。国立病院機構長良医療センター副院長の呼吸器内科医、加藤達雄(59)は肺炎の画像に見入った。

 「すりガラス影」は新型コロナ患者の特徴の一つ。画像から、受け入れ患者8人中5人が肺炎と診断された。インフルエンザならば合併症の時以外は起こりにくい肺炎が、新型コロナでは頻発した。

 前身の岐阜病院時代から肺がんや肺炎、結核などの治療を長年手がけた。09年の新型インフルエンザ発生時には中部国際空港へ検疫の応援に出向くなど経験豊かな肺のエキスパート。感染症専門医でもある加藤は、「怖い病気」という印象を持った。

 当時は治療薬もワクチンもなく、酸素吸入で様子を見るぐらいと処置は限られた一方で、肺炎の影があっても見た目は元気な「サイレント・ニューモニア」(沈黙の肺炎)などの特異な病態が見えてきた。

 「クルーズ船患者を受け入れたことで、先駆けて臨床像を知ることができた」。こうした症例は、県内の病院関係者や保健所の会議でいち早く報告、共有され、続く市中感染の対応の礎になった。

 加藤は当時、院内の感染管理チームリーダー。感染力はクルーズ船内の広がりから「インフルエンザよりは高いが、やみくもにうつるものでもない」と見立てたが、当初打診された患者20人の受け入れは「慣れていないのに受け入れたら、制御できなくなる」と10人程度に絞ってもらった。

 コロナ病棟の感染管理の基になる受け入れ手順のマニュアルは、受け入れ前夜に副看護師長の安江亜由美(44)が書き上げた。感染管理認定看護師で、16年から専従。「どうすれば患者とスタッフを守れるかを考え、文字に起こしていった」と振り返る。

 個人防護具の着脱の仕方、一方通行の誘導ルート、ウイルス汚染エリア「レッド」と清潔な「グリーン」を分けるゾーニング、感染対策を互いに確認しながら2人が作業を補い合う「ペアリング」……。

 その中で、マスクや手袋、防護衣など感染対策の個人防護具は「シンプルにいきたい」と考えた。全身を包む防護服の着用訓練は1月末に済ませていたが、患者に接する時も威圧感の少ないガウンの着用にとどめた。

 「個人防護具で完全に守れば、自分は守られるが、(脱ぐ際などに)周囲を汚染する可能性がある。『不安だから着たい』は感染対策ではない」

 長良医療センターの場合、病室が「レッド」で、廊下は「グリーン」のやはりシンプルなゾーン分け。スタッフには「廊下はマスクなしで過ごせるぐらいきれい」と理解を求めた。だが、受け入れ4日後、関連業者の1人が発熱する。

 幸い、翌日のPCR検査の結果は、陰性だった。「ヒヤッとした。でも、今の対策で大丈夫という確信につながった」と安江。マニュアルは一部の改訂を重ねながらも、ゾーニングとともに、3年を経ても踏襲されている。(敬称略)