【準々決勝 帝京大可児11―10中京】
 壮絶なタイブレークを制し、帝京大可児が昨夏の準決勝に続いて強豪中京を撃破した。第1の勝因は県内屈指の左腕菅沢宙の攻略にあるが、そこに導いた深奥の勝因がある。左右二枚看板で夢舞台にあと一歩だった昨夏とは打って変わった個性豊かな複数投手陣を駆使した田口聖記監督の〝継投策〟。準々決勝では延べ5人が継投。プロ注目の先発左腕加藤大和、初戦のシード校益田清風を完封した2年生右腕山田隆太をそれぞれ再登板した。「明日、野手グラブを持ってこいよ」。加藤大和は前日かけられた、田口監督の言葉の真意を知ることになる。

帝京大可児×中京=3回表帝京大可児1死一、二塁、左中間三塁打で2点を先制する山本=長良川

◇実った第1の勝因〝菅沢攻略〟

 「菅沢は内外角にきっちり投げ分けてくる。外か内、各打者がそれぞれに的を絞ってきっちり打ち砕く」。九回までの5得点のうちの4打点を挙げた3番山本裕翔は〝菅沢攻略〟を語る。三回1死一、二塁からの先制2点三塁打は内角低めのストレートを狙い打った。五回表の中前同点打は「前打席でインコースを打ったので、外にくると思った」と張っていた通りにやや中寄り外角のストレートをはじき返した。

帝京大可児×中京=7回裏、力投する帝京大可児の加藤大和=長良川

◇2投手の再登板は「前日からのイメージ」

 山本が同点打を放つ直前の四回裏、2死三塁。田口監督の前日の言葉通りに準備した野手グラブに換え、継投の山田と交代に左翼に入っていた加藤大和。五回裏2死二、三塁で、田口監督は再び投手と左翼の入れ替えを指示した。

 マウンドに舞い戻った加藤大和が対峙(たいじ)する相手は中京エース菅沢。ギアを上げ、今大会自己最速の140キロもマーク。だが、勝ち越しの2点右前打を浴び「甘く入ってしまった」と反省するが、後続を断つと六、七回はスライダーもさえ、加点を許さなかった。加藤大和に代打が出た後の八回からは再び、山田がマウンド。1四球のみで無失点に抑え切り、2人で3回無失点。九回の再登板の同点、タイブレークの十回の大量点による菅沢撃破につなげた。

 加藤大和は「外野に入って再登板することは練習試合でもなかった」と言うが「2人のリズムを変えたくなかった」と起用法を語る田口監督。実は野手グラブを指示したように再登板は「前日からイメージしていた」と打ち明ける。

帝京大可児×中京=8回裏から再登板した帝京大可児の山田=長良川

◇多彩な継投策で昨夏、果たせなかった夢実現へ

 2度目の登板の山田は、タイブレークで6点リードした後は連打され、「厳しい球を投げようとして押し出し四球になってしまった」と最後はマウンドを先輩の背番号1小林叶愛に譲り、逃げ切れた。

 「昨夏の決勝で県岐阜商に八回で4点リードをひっくり返されて負けた。きょうは選手たちの気持ちの勝利に尽きる」と最後の場面を振り返る田口監督。九回に同点打を放った昨夏のレギュラーで主将の美野田琉輝も「こういう試合で勝ち切れたことは大きい」と声を弾ませる。

 いよいよ準決勝。「いい投手がたくさんいるので、思いっきり投げられる」と山田が語る今チームの強み、多彩な投手陣による継投という新たな武器で、昨夏果たせなかった夢の実現に挑む。

 森嶋哲也(もりしま・てつや) 高校野球取材歴35年。昭和の終わりから平成、令和にわたって岐阜県高校野球の甲子園での日本一をテーマに、取材を続けている。