杉江瞬、長南幸安:日本科学教育学会研究会研究報告、35(2):1-4,2020より引用

小児科医 福富悌氏

 「子どもは風の子 元気な子」という江戸時代からのことわざがあります。気象に関する文献には、江戸時代は、14世紀から19世紀半ばまで続いた世界的に寒冷な「小氷期」といわれる時期とされ、東京でも川が凍った記載があります。昭和の時代もまだ寒く、冬はよく雪が降っていました。平成から令和にかけて地球の温暖化が進み、川が凍ることは想像すらできなくなり、雪も少なくなり10センチも積もるようであれば大雪警報が出されるようになりました。

 江戸時代には長靴もなく、子どもたちは雪の中をわらじや下駄(げた)を履いて外で遊んでいたことでしょう。昭和の時代も冬の寒い中、半袖半ズボンで走り回っている子どもがいました。令和の時代の子どもはどうでしょう。ボコボコしたジャケットやズボンを着て、さらにその下には保温性の高い服やシャツを着ています。そして外を走り回ることなく、エアコンで暖かくなった家の中で、ゲームをしていることでしょう。このような傾向は新型コロナウイルス感染拡大によって急速に進んだと思います。

 外遊びをしなくなった子どもたちは、身体的には体が大きくなり成長はあるものの、以前の外遊びをしていた子どもと比べて同じように発達するとは考えられません。最近の研究で外遊びの減少は子どもの発達に大きく影響することが分かってきました。

 こころの面においては「ストレスの増加」「意欲の欠如」「判断力の低下」「工夫ができないこと」「情緒の欠如」「社会性の欠如」などが考えられ、からだの面においては「体力・運動能力の低下」「動作の未発達」「運動量の減少」「けがの増加」「生活習慣病の増加」などが挙げられます。

 米国の医学者スキャモンによると、人間の発育パターンは、神経型、リンパ型、身体型、生殖型の四つに分類され=図=、各器官の発育が著しい時期に、その発達を高めるような身体活動を行うことが効果的であると考えられています。中でも神経型は6歳ごろまでに急速に発達し、10歳前後ですでに成人の90%程度に達すると考えられています。そのため子どもは体の基本的動作の習得に適した時期であると考えられます。

 成人になってから運動やスポーツを始めることは、技術の習得に時間と努力が必要となってきます。よって、成人になってからは、無理せずにウオーキングなどの緩やかな動きのスポーツから始めるのがよいでしょう。生涯を通じて健康であるためには、子ども時代に外遊びをすることが大切です。運動は健康や体力づくりだけでなく、創造性を高めるためにも外での遊びや運動の機会を増やしましょう。