トコジラミによる皮膚症状(同)
トコジラミの成虫(日本皮膚科学会ホームページより)

皮膚科医 清島真理子氏

 最近トコジラミのまん延が話題になっています。今回はトコジラミについてお話しします。

 トコジラミは「ナンキンムシ」とも呼ばれます。名前が似ていますが、シラミではなくカメムシの仲間です。日本では戦後、DDTなどの殺虫剤によって激減しましたが、海外からの荷物や輸入品などを介して2005年ごろから増えています。特に昨年夏から海外渡航者の増加により世界中で爆発的に増えて、フランスや韓国での大量発生はニュースにもなりました。岐阜でも増えています。

 トコジラミの成虫は茶色で約5ミリ、幼虫は薄茶色で1~4ミリ、卵は白色で1ミリです。飢餓に強く、吸血しなくても3カ月くらい生存できます。夜行性で、昼間は家具や寝具の隙間や畳の下に潜んでいます。夜、部屋が暗くなると現れて皮膚を刺し吸血します。露出している手足や首などの肌が刺されると赤いぶつぶつができてとてもかゆいです。吸血されてからかゆみや皮膚症状が出るまでに1日から1週間かかることもあります。

 トコジラミは明るい時には隠れていてなかなか見つかりませんが、部屋の明かりを30分くらい消すとぞろぞろ現れるので、再び点灯した時に虫体が見つかるそうです。患者さんが捕まえて持って来られたのを見たことがあります。皮膚の症状は通常の虫刺されと似ていて、塗り薬や飲み薬で治療すると約1週間で良くなります。ちなみに人から人にうつることはありません。

 問題は駆除です。旅行や引っ越しなどの移動に伴って、スーツケース、かばん、衣類などに混入したトコジラミが一般の住宅に持ち込まれてしまいます。いったん持ち込まれると瞬く間に増えて広がります。そこで、宿泊施設ではまずマットレスの継ぎ目、家具の隙間、クッションの縫い目、ベッドのシーツなどをチェックするよう、専門家は勧めています。吸血したトコジラミは「血糞(けっぷん)」という黒いゴマ粒のような点々を落とすのでこれを見つけると目安になるそうです。宿泊先で夜中、開けたままのスーツケースにトコジラミが入り込んでしまうので、就寝時にはスーツケースやカバンは閉めること、また帰宅した際にも荷物に混入していないかチェックするとよいといわれています。

 最近では薬局などでトコジラミ用の殺虫剤が市販されています。家具の隙間などに使用するスプレー式と、部屋中を駆除するくん煙式があります。ただし、通常使用されているピレスロイド系殺虫剤が効かない「スーパートコジラミ」が増えています。そういう場合は他の系統の殺虫剤を使ったり、専門業者に駆除を依頼したりする方法もあります。

 手足や首などに赤いぶつぶつが出てかゆい場合、単なる虫刺されではなく、住居内にトコジラミがまん延していることがあります。気を付けてください。