正常のPCL(左)と損傷し腫れたPCL(右)

整形外科医 今泉佳宣氏

 スポーツ選手のけがでよく聞くものの一つに「膝の前十字靭帯(ぜんじゅうじじんたい)(ACL)損傷」があります。実は膝の十字靭帯は二つあり、ACLに加えて後(こう)十字靭帯(PCL)というものがあります。ACLと同じようにPCLも損傷を生じることがあります。

 PCL損傷の頻度はACL損傷の約6分の1程度と少なく、あまり知られていない外傷です。膝関節の前面を強打することにより脛骨(けいこつ)が後方へ押され、その後方移動を抑えているPCLが損傷されます。スポーツにおいてはラグビーやアメリカンフットボールなどの接触プレーで生じることが多く、そのほか交通事故や転倒でも生じることがあります。

 急性期の症状は膝の痛みと腫れです。痛みは膝の裏にあり、脛骨を後ろに押すと痛みが増強します。しばらくすると出血により関節内に血液がたまり関節全体が腫れてきます。これらの症状は受傷後3週間くらい経過すると軽減しますが、慢性期になると歩行やスポーツ活動での膝の不安定感が起こります。そして不安定感が強い状態を放置しておくと、半月板損傷や軟骨損傷を生じ、慢性的な痛みや膝に水がたまることがあります。

 診察ですが、PCL損傷の特徴の一つとしてあおむきで直角に膝立てをしたときに脛骨が落ち込むという現象が見られます。これをサギング徴候といいます。そして脛骨を前後に動かすことで不安定性の有無を調べます。次にエックス線写真を撮影して、関節内骨折の有無を確認した後、磁気共鳴画像装置(MRI)検査を行います。MRIにおいて、損傷したPCLはACLと異なり靱帯の連続性が保たれていることが多いのですが、腫れを認め正常と異なる像を呈します=写真=。

 PCL損傷の治療はACL損傷とやや異なります。ACL損傷ではほとんどの場合で靭帯再建手術を行いますが、PCL損傷ではまず保存治療が選択されます。大腿(だいたい)四頭筋の筋力トレーニングを行い、膝関節の動揺性を増悪させないようにします。また、動揺性を抑えるためにギプス固定を行うことやサポーターを装着することもあります。こうした保存治療により、多少の動揺性が存在してもスポーツ活動をはじめとした日常生活に支障を来すことは、ACL損傷に比べて少ないとされています。ただし不安定感が強くスポーツ活動に支障を来す場合には、ACL損傷と同様に靭帯再建手術を行うことがあります。