エスラインの中期経営計画の最終年となる2022年が明けた1月5日。社長の山口嘉彦は、中核事業会社エスラインギフの会長として、取引が長く続く刃物メーカー・フェザー安全剃刀の日ノ出事業所(関市)で製品の「初荷式」に臨んでいた。

 第2代社長の二代目山口軍治は「昔から日本には書き初めや初釜、初荷など事始めの習慣があり、これが勤勉な国民性をつくり出す要因になっていたと思う」と初荷を大事にした。

 時代は変わり、初荷式を催す会社が減る中、嘉彦は軍治の頃から続いている初荷式にトラック3台を持ち込んで出席した。新型コロナウイルスのオミクロン株の感染拡大を踏まえ、「われわれの生活は今後も発展しなければならない。デジタルトランスフォーメーション、SDGs、カーボンニュートラルといった言葉もよく聞く。デジタル技術を使い、安全、安心で速く荷物をお届けしたい」と荷主に決意を示し、初荷旗を掲げたトラックの出発を見送った。

 コロナ禍の初荷式で荷主に決意を語る社長の山口嘉彦=今年1月5日、関市日ノ出町、フェザー安全剃刀日ノ出事業所

 嘉彦があいさつで触れたように、近年の事業のキーワードであるデジタル技術は物流の効率化に貢献している。その例がエスラインギフが本社敷地内で19年に稼働させた飲料保管自動倉庫だ。最新の自動化設備を備え、1500万本もの飲料ボトルが保管できる中部地区最大級の倉庫で、出入庫の手間を大幅に減らして省人化につなげている。自動ラックシステムで、1万624枚の自動パレットを収容。ラック内は無人台車がフォークリフトに代わって製品を自動搬送する。嘉彦が「東京の人口全員に飲料が行きわたるだけの収容量がある」と胸を張るハイテク倉庫だ。

 車両には、衛星利用測位システム(GPS)を内蔵したドライブレコーダーとデジタルタコグラフの複合器を設置。通信型機器で現在地を映像でも把握できるほか、走行データを活用して的確な作業指示と配車の効率化を図っている。

デジタル技術を導入した中部地区最大級の飲料保管自動ラック倉庫=2021年12月22日、羽島郡岐南町平成

 初荷式でも触れた国連の持続可能な開発目標「SDGs」について、嘉彦は「できるものからやる」と、17項目のうち「クリーンなエネルギーの普及」「情報技術による安全確保」「地域貢献」など7項目で取り組みを始めている。その一つ、環境への配慮を目的にした電気小型トラックは、19年にエスラインギフとエスライン各務原に、三菱ふそうトラック・バスの「eキャンター」6台を導入した。中部地区で初めての導入だった。岐阜、各務原市などで小口雑貨の集荷、配送に活用し、21年12月には東京都内に3台を配備して計9台に増やした。

 フル充電で100キロ走行でき、振動が少なく静かな走行でドライバーへの負担も少ない。燃料費は従来の半分程度だ。嘉彦は「排ガスを出さない車両としてアピールし、女性や高齢ドライバーの労働環境の改善につなげる」と強調。「採用や社員の定着につながれば」と期待を込める。今後、長距離用が開発されれば導入する考えだ。

 エスラインギフが導入している電気小型トラックの前で環境への配慮を語る山口嘉彦=2021年12月22日、羽島郡岐南町平成

 嘉彦は社長就任後、2008年のリーマン・ショックから2年がかりで、11年の東日本大震災からは3年がかりで業績を回復させた。そして、現行の中期経営計画の3年間はコロナ禍に見舞われた。コロナの影響で衣料、食料品、感染症対策品の物流需要が増えたものの全体量は減り、業績に響いた。回復基調にはあるが、22年3月期決算で目標の一つだった営業収益500億円の達成は難しくなった。策定を進める次期計画で500億円の達成を目指す。嘉彦は「皆でよく話し合い堅実な経営」を進めてきた。「この先は物流に関連したものづくりの業務にも取り組みたい」と業績拡大の道筋を思い描く。

 嘉彦にとって「時代が変わっても変わらないもの」は、二代目軍治が定めた社是「和」。この経営精神で時代の変化を敏感に感じ取って着実に成長させ、27年の80周年、その先の「百年企業」に向けて轍(わだち)をつなぐ。(敬称略)
 

 【参考文献】エスラインギフ「50年の歩み~そして未来へ~」、岐阜トラック運輸・エスラインギフ社内報「緑風」、県トラック協会「岐ト協ニュース」、県経済同友会「10周年記念誌」ほか。