読み込んだ記事を他のグループの生徒に発表するポスターセッション型の授業=東京都目黒区、都立国際高校
一つの記事を読み、新聞社の事実の伝え方や書きぶりについて意見を交わす生徒たち=同

日本公民教育学会常任理事・都立国際高校主任教諭 宮崎三喜男

 児童・生徒が主体的に授業に参加する、いわゆる「アクティブ・ラーニング型の授業」が強く求められている。しかしながら、アクティブ・ラーニング型の授業では、「活動あって学びなし」という言葉に象徴されるように、活動自体が目的となってしまっている事例が多く見られる。アクティブ・ラーニングは「主体的、対話的で深い学び」と定義されるが、この「深い学び」をいかに育んでいくのかが今後、重要なポイントとなってくる。

 深い学びとするためには、多面的・多角的な視点を児童・生徒に持たせることが欠かせない。そのために新聞記事は最も適した教材であろう。複数紙を読み比べることで、多面的・多角的な視点を育むことが可能になるからである。

 主権者教育の充実を図るためという意図もあり、東京都は2016年度よりすべての都立高校に在京6紙の新聞(朝日、毎日、読売、日経、東京、産経)を配置した。しかし、6紙を使用した授業はそう簡単なことではない。そこで学校図書館と連携した「新聞読み比べの授業実践」について紹介したい。

 使用した新聞記事は、経団連が現行の就職活動の日程廃止を正式決定したニュース記事である。1面トップは「経団連 就活ルール撤廃」「就活ルール 政府主導へ」といった文字が並ぶ一方、トップ記事ではない新聞や特集を組んでいる新聞などがあり、生徒たちも新聞名を挙げながら「決定に批判的で大学側の戸惑い、混乱などを書いている」と読み解いたり、「多くの新聞は意見より事実を述べていた」といった声もあがった。

 個人や1グループだけで6紙を読み比べるのは時間的に難しいのが実際であるが、ポスターセッションという形の授業形態であれば、効率的かつ協働的な学習となり、情報共有の工夫次第で、実りのある学びになると考えられる。また、学校図書館で授業を実施することで、関連した本や資料をすぐに探し出すことができたり、翌日の新聞で日々刻々と更新されるその記事の動きがわかるなど、点ではなく線で社会事象を捉えることができるという利点がある。

 新学習指導要領においては、「何を学ぶか」から「何ができるようになるのか」という教育、いわゆるキー・コンピテンシーベースに変革しつつあり、新しい時代に必要となる資質や能力の育成が重要視されている。しかし、何も新しいことにチャレンジするだけが求められているのではない。資質や能力の基礎となるのは、多面的・多角的な視点であり、それは新聞の読み比べの授業にて育むことができるのである。

【新聞読み比べの授業実践】

科目:現代社会

単元:情報化社会(情報リテラシー)

手法:ポスターセッション型授業

【授業の流れ】

①六つのグループに、異なる新聞を配布する。

②教員が指示した記事についてグループで読み込み、その後発表する。

③一つのグループを前半・後半に分ける。前半組は見学に来た他のグループに発表し、後半組は他のグループの発表を聞きに行く。

④自分が読み込んだ記事と他のグループが発表した記事を比べ、伝え方や書きぶりの違いを発表し合い、グループ内で意見共有する。

⑤新聞社で立場や切り口が異なることを教員から説明し、まとめとする。