阪神ジュベナイルフィリーズでGⅠ初騎乗の田口貫太騎手。ニュージェネラルとのコンビで挑んだ

 「GⅠの舞台は、パドックからいい景色でした」とJRAルーキーの田口貫太騎手(大橋勇樹厩舎)。中学生の頃には父の管理馬重賞V(笠松競馬場)で口取りや表彰式に参加し、喜びを共有してきた。その少年が20歳の誕生日にGⅠレース初挑戦。愛馬と懸命にゴールを駆け抜けた。

 2歳女王決定戦の阪神ジュベナイルフィリーズ(10日・阪神)。貫太騎手はニュージェネラル(牝2歳、武英智厩舎)とのコンビで参戦。単勝万馬券の人気薄で17着に終わったが、夢に見た最高のステージで大きな経験となった。

 レースは北村宏司騎手が騎乗したアスコリピチャーノ(黒岩陽一厩舎)が直線で抜け出し、ルメール騎手騎乗のステレンボッシュ(国枝栄厩舎)の猛追をかわして1着ゴール。北村騎手はキタサンブラック(2015年・菊花賞)以来となるGⅠ4勝目を飾った。

優勝したアスコリピチャーノ(左端)から大きく引き離されて17着のニュージェネラル(右端)と田口騎手

 ■デビュー9カ月でビッグチャンス

 貫太騎手騎乗のニュージェネラルは、18頭中で唯一のキャリア1戦馬。10月の新馬1400メートル戦を2番手から差し切り。運良く抽選を突破しゲートイン。12月好調の貫太騎手に、デビュー9カ月でGⅠ参戦のビッグチャンスが巡ってきた。父の輝彦さん(笠松競馬調教師)も「出るだけでもすごいこと」と喜んでいたが、20歳の節目に素晴らしい挑戦となった。

 「内枠を引いたので、ロスのない競馬を心掛けたい」と意欲を見せたが、スタートでやや遅れた。後方からの競馬となり、最後の直線も伸びを欠いてブービーに終わった。前の馬から7馬身、勝ったアスコリピチャーノからは15馬身以上も離されてのゴール。GⅠレースの洗礼を浴びて、ほろ苦さを味わう結果となった。

 それでも1Rでは自厩舎の4番人気ニホンピロカラットでハナ差勝利。バースデーに最高のスタートを切った。そして迎えたGⅠ舞台は長いジョッキー人生に明るい光が差し込むチャレンジとなった。

GⅠ初騎乗直前のパドックで、愛馬ニュージェネラルの鼻をなでながら、闘志を燃やす田口騎手

 ■パドック周回、楽しそうに貫太スマイル

 GⅠ初騎乗を終えた貫太騎手。悔しさをにじませながらも、気持ちを切り替えて前を向いた。

 「GⅠに乗せてもらって、まずはこういう舞台に立たせていただいたオーナーと先生、厩舎の方たちに感謝したいです。パドックやファンファーレなどを馬上から見たり聞いたりするのは、下で見ているのとは違いました。いい景色でした」

 パドックではファンの熱い視線が注がれ、カメラやスマホで勇姿を激写された。「さあ、一緒に頑張ろう」。貫太騎手はニュージェネラルの鼻をなでながら気合を入れ直し、愛馬の背中にまたがった。パドック周回中は楽しそうに貫太スマイルも時折見せながら、これまでと違ったGⅠステージの景色を体感することができた。

パドックを周回する田口騎手。後方にはⅠ、2着の北村宏司騎手とルメール騎手の姿も

 ■もっとレベルアップしてGⅠに乗りたい

 16番人気。一つでも着順を上げたかったが、人馬とも経験不足で17着のゴール。

 「人気はなかったですが、ちょっと出負けして、あまり競馬に参加することができませんでした。もう少し前めにポジションを取ろうと思ったんですが、馬はよく頑張ってくれました」

GⅠ初騎乗で17着に終わり、悔しそうな表情を見せた田口騎手

 「先生からの指示は『ゲートを出て前々に』ということでしたが、あまり指示通りにはいかなかったです。平場のレースとGⅠは違ったので、すごくいい舞台でした。結果としては残念でしたが、もっともっとレベルアップして、まだまだこれからもGⅠに乗り続けて、勝てるようなジョッキーになりたいと強く思いました」

パドックで、愛らしい頭をなでられる田口騎手

 ■4日間連続勝利、高まる信頼度

 12月に入って貫太騎手は、JRAのレースで2、2、2、1勝と4日間連続勝利。オープン勝ちも含まれており、大ブレーク。騎乗数も増え、着実に勝利を積み重ねており、各厩舎からの信頼度も高まっている。14日現在、34勝で全国リーディングも34位まで上昇した。

 GⅠでの最年少記録に注目してみると。騎手デビュー最短でのGⅠ優勝は、江田照男騎手の1年7カ月25日。天皇賞・秋をプレクラスニーで制覇した。また最年少GⅠ制覇は武豊騎手の19歳7カ月21日。菊花賞をスーパークリークで制した。ともにデビュー2年目での快挙だった。JRA所属最速GⅠ制覇は安藤勝己騎手の30日で、高松宮記念のビリーヴであっさりGⅠ制覇の夢を実現させた。

 1年目の貫太騎手に、GⅠ騎乗のチャンスが再び到来すれば、騎手デビュー最短での優勝の可能性もある。まずは依頼を受けてゲートインできるよう、騎乗技術をさらに磨いていきたい。

阪神JFはアスコリピチャーノ(ゼッケン7)が制覇。ルメール騎手騎乗のステレンボッシュ(奥)は2着

 ■国枝厩舎のステレンボッシュ2着、ダービー制覇の夢も

 岐阜県関係の厩舎で注目した3頭。国枝栄調教師(北方町出身)が管理するステレンボッシュにはルメール騎手が騎乗した。

 岐阜新聞電子版の土曜版CLIPにあるGⅠ予想「ヒデの目」でも本命◎に推した。単勝も買っていたが惜しくも2着。3連複、3連単は的中できた。ゴール前の末脚は際立っており、3歳クラシック戦線では「国枝&ルメール」コンビで、アーモンドアイ級に成長する可能性も秘めている。国枝先生は定年まであと2年余り。日本ダービー制覇の悲願達成には、牝馬のステレンボッシュで挑戦する手もあるのでは。牡馬クラシック初Vを成就させていただきたい。

小栗実厩舎のナナオには西村敦也騎手が騎乗し、12着だった

 ■小栗実厩舎のナナオ12着、積極策で見せ場

 今年3月に開業した小栗実調教師(岐阜市出身)はナナオとプシプシーナの2頭出しでGⅠ初挑戦。ナナオは7枠に入り、小栗調教師は「スタートが速いので、徐々に内にもっていければ」と期待。西村淳也騎手の騎乗で好スタートから2番手につけて3~4コーナーを回った。一瞬「これは一発あるかも」と夢を抱かせてくれた。ラスト200メートルを過ぎ、外から各馬が襲いかかり様相一変、最後に力尽きたナナオは12着。西村騎手は「1600メートルは長かったですね。距離短縮で改めてと思います」と。積極的なレースで見せ場をつくってくれた。

 小栗厩舎もう1頭のプシプシーナは浜中俊騎手の騎乗で中団につけていたが、15着に終わった。浜中騎手は「1600はきつかったですが、京都の1200~1400ならもっと走れると思います」とやはり距離短縮での好走を期待した。

永島まなみ騎手はスウィープフィートに騎乗し、7着だった

 ■永島まなみ騎手7着「技術不足、精進したい」

 デビュー3年目の永島まなみ騎手は、スウィープフィートでGⅠ初騎乗。スタートで出遅れ、最後の直線では大外から追い上げたが7着どまり。まなみ騎手も「すごくいい舞台を味わわせてもらいました。きょうは私の技術不足。すごくいい馬なので、この馬に見合う技術を身につけられるよう精進したいです」と飛躍を誓った。

 10日の7Rでは5番人気のマーブルロックで今年48勝目を挙げた永島騎手。今村聖奈騎手が昨年更新した女性騎手年間最多Vの51勝まで「あと3勝」に迫った。

YJS笠松ラウンドで勝利を挙げ、ファイナル切符を奪取した田口騎手。川崎1戦目でも圧勝した(笠松競馬提供)

 ■YJSファイナル川崎、貫太騎手1着と6着で総合2位

 田口貫太騎手は10月、ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)笠松ラウンドで1着、2着。ポイント争いで逆転を決め、ファイナルラウンド(川崎、中山)進出を決めた。JRAでは西日本地区4位の成績で、新人ではただ一人ファイナル切符を獲得した。

 14日・川崎の第1戦6R、貫太騎手は単勝1.1倍と断トツ人気のウルトラヨウコ(牝5歳)に騎乗。好スタートから3番手をキープ。4コーナーで永野猛蔵騎手(美浦)騎乗のデイドリーミンをかわすと、後続を一気に突き放して「貫勝」。2着に5馬身差という強い勝ち方で30ポイントを稼いだ。

 第3戦10Rは6番人気のエレウテリア(牡4歳)に騎乗。後方から追い上げたが6着に押し上げるのが精いっぱいだった。

 ■「中山でもいつも通りの騎乗で頑張りたい」

 優勝インタビューで貫太騎手は、パドックでオッズを見て「圧倒的人気でしたので、勝てて良かったです。中山でもいつも通りの騎乗ができるよう頑張りたいです」と力強い言葉。歓喜に浸って、38ポイントで総合2位につけた。

 トップは第2戦を勝った永野猛蔵騎手で総合42ポイント。昨年は総合3位で「まだ2戦残っているので、中山で頑張って優勝を目指します」と意欲を示した。第3戦を勝った秋山稔樹騎手(美浦)が31ポイントで総合3位。JRA勢が上位を独占した。地方勢は大木天翔騎手(大井)が30ポイントでの4位が最高だった。

 愛知から参戦のルーキー大畑慧悟騎手は1戦目8着、2戦目4着と健闘。16ポイントで総合11位。女性でただ一人参戦の浜尚美騎手(高知)は8着、7着で13位だった。16日の中山では芝レースも行われ、総合優勝を目指して熱戦を繰り広げる。貫太騎手、まずは表彰台を狙いたい。

攻め馬に励む笠松のジョッキーたち

 ■松本親子、渡辺騎手の3人が負傷欠場

 笠松競馬12月のジュニアキングシリーズでは、2日目に松本剛志騎手がゴール後の落馬で騎乗変更。笠松所属騎手11人のうち3人が負傷療養中で欠場となった。リーディングを快走していた渡辺竜也騎手、ルーキーの松本一心騎手も戦線を離脱しており、ファンを嘆かせている。

 3人はいずれもレースや調教での落馬事故によるもの。笠松では馬群が密集するコーナーでのアクシデントが目立っており、コースの安全確保には目視も含めて万全を尽くしていただきたい。阪神競馬場では横一列に並んだスタッフによる人海戦術で、くぼみなどを補修。馬場の安全確保が徹底され、脚を取られた馬が故障するリスクを一掃していた。地方競馬場との格差も感じられ、見習うべき点は多い。

 ■攻め馬は超ハード、過労で事故にも

 けが人続出で、攻め馬では地元騎手の負担が増すばかり。名古屋の騎手のサポートは少なく、1人で30頭前後もこなさなければならず、他場に比べて超ハード。乗り役の過労は事故にもつながる。馬場コンディションの確保とともに、調教時の負担を減らして、これ以上けが人を出さないようにしたい。

 松本一心騎手は12日から調教で乗り始めており、年末特別シリーズ(27日、29~31日)での復帰を目指している。渡辺騎手と松本剛志騎手はまだ時間がかかりそうだ。

 ■佐賀から吉本騎手、笠松で期間限定騎乗

 慢性的な騎手不足の笠松競馬では、冬場に期間限定騎乗のジョッキーが多く来場していたが、今冬は少なくなりそうだ。今春、馬渕繁治騎手が北海道から笠松に完全移籍。新たな助っ人は、佐賀から吉本隆記騎手(46)が14日から来年2月末までの日程で笠松入り。笹野博司厩舎に所属し、年末特別シリーズから騎乗する。

 愛知県出身で2007年まで名古屋競馬に所属していた。笠松でも騎乗経験があり、2004年には10勝を挙げるなど計18勝。地方競馬通算454勝で連対率は12.5%。「新生・笠松を盛り上げていきたい」と16年ぶりの笠松騎乗でベテラン騎手やファンとの再会を楽しみにしている。このほか期間限定騎乗では、年明け以降に金沢の騎手の来場がありそうだ。

笠松競馬場での実習に励んだ明星晴大騎手候補生

 ■5カ月間の笠松実習終え、来春デビューへ

 来春、笠松デビュー予定の騎手候補生は13日、笠松競馬場での5カ月間の実習を終えた。後藤佑耶厩舎でお世話になった明星晴大候補生(16)は「攻め馬は午前0時~8時までで、騎乗馬は25頭ほどに増えました。レース開催中はより大変でした(馬具の手入れなどサポート)。笠松での生活は厳しかったですし、いっぱい怒られたりもしたんですが、この5カ月間で成長できたと思います」と懸命に励んだ日々を振り返っていた。

 地方競馬教養センター(栃木県)に戻り、けがなどなく騎手課程を無事修了し、地方競馬の騎手免許を取得したい。明星候補生は4月から笠松で騎乗することになりそうだ。もう一人の角田有輝候補生(16)は休学しているそうだが、ジョッキーになる夢を諦めずに、また実習に励んでほしい。

 ■名古屋の騎手6勝、笠松勢を上回る

 笠松競馬は前開催4日間で計45レースが行われたが、 白星を量産してきた渡辺騎手欠場の影響が微妙に出ている。有力馬への騎乗依頼が岡部誠騎手や丸野勝虎騎手ら名古屋の名手に集中する傾向もあるからだ。初日と最終日には笠松の騎手5勝に対して、名古屋の騎手が6勝と上回った。 

 期間限定騎乗の騎手は少なく、けが人続出の地元・笠松勢。年末特別シリーズには30日にライデンリーダー記念、大みそかには恒例の東海ゴールドカップも開催される。今年は1年の感謝の気持ちを込めて久々に騎手あいさつやファンへの餅まきも行われる。けがなく気分良く年越しするためにも、レースでは少数精鋭で踏ん張りどころとなる。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。