YJSファイナルラウンドで総合2位に入った田口貫太騎手

 優勝には届かなかったが、堂々の「表彰台」で貫太スマイルがはじけた。2023ヤングジョッキーズシリーズ(YJS)のファイナルラウンド中山が16日行われ、JRAルーキーの田口貫太騎手(栗東、大橋勇樹厩舎)が7着と4着にまとめ、シリーズ4戦で総合2位をゲットした。

 デビュー1年目での2位はJRA、地方騎手を含めて過去最高の成績。これまでは名古屋の細川智史騎手の3位が最高だった。両親は笠松競馬元騎手で、受け継いだ「良血の遺伝子」で才能を開花させつつある貫太騎手。来年はもう一段高い「最高峰」を目指して日々精進を続ける。総合Ⅴ争いは一戦ごとにトップが入れ替わり大混戦。最終戦の9Rをアスクビックスターで圧勝した横山琉人騎手(美浦、相沢郁厩舎)が逆転で第7代チャンピオンに輝いた

 12月なのに最高気温は22度を超え、汗ばむほどの陽気となった中山競馬場。地方・中央若手騎手のファイナリスト16人が、磨いてきた騎乗技術を競い合った。レーシングプログラムにはYJSのポスターにもなった「センター・長江慶悟騎手」の画像も掲載され「笠松勢、特に佐々木朗希投手そっくりの長江騎手がファイナルに進出していたらなあ」と改めて感じた。

川崎での第1~3戦を勝った(左から)田口貫太騎手、永野猛蔵騎手、秋山稔樹騎手(NAR提供)

 ■川崎第1戦を圧勝、貫太スマイル全開

 JRA新人ではただ一人ファイナル切符を獲得した貫太騎手。14日の川崎では初戦を圧勝し、2戦目6着で総合2位につけた。いきなりの勝利に「馬が強かったのひと言です。3番手からスムーズに前の馬を早めに捕まえて、最後までしっかりと走り切ってくれた。残りのレースでポイントを加算したい」と手応え十分。愛されキャラでデビュー以来、ファンらを和ませてきたスマイル全開で勝利の味をかみしめた。

中山競馬場での最終決戦に挑んだ若手騎手

 初騎乗となる中山競馬場で逆転Ⅴを狙っていた。この日も騎乗依頼は多く、2Rから計7頭に騎乗。ゴール前には父親の田口輝彦調教師らも応援に駆け付けて、温かく見守った。騎手紹介式がウイナーズサークルであり「優勝を目指して頑張ります」などと16人がそれぞれ力強いひと言。全員にそのチャンスがあり、熱戦を繰り広げた。

中山第1戦の7R、田口騎手は13番人気のナミブで7着

 ■中山で逆転V狙ったが届かず

 暫定2位で迎えた中山第1戦の7R、貫太騎手は13番人気のナミブ(セン馬7歳)に騎乗。後方からの競馬で4コーナーでもまだ13番手だったが、最後の直線ではよく伸びて7着まで押し上げた。

 第1戦を勝った野畑凌騎手(川崎)がトップに躍り出た。永野猛蔵騎手(美浦)が9着で3戦合計44ポイント。田口貫太騎手も44ポイントで並んだが、上位着順数で永野騎手が2位、貫太騎手が3位で追撃する形となった。

中山第2戦の9R、フリーフローに騎乗しパドックを周回する田口騎手

 第2戦の9R、貫太騎手は3番人気のフリーフロー(牡6歳)に騎乗。これまでの後方待機策から一転、先行集団の一角で3番手をキープ。4コーナーからは苦しくなり、坂上で息切れしたが4着に踏ん張った。

 ファイナルラウンドを終え、9Rをぶっちぎった横山琉人騎手が69ポイントで頭一つ抜けて総合Ⅴ。2位争いは際どくなったが、56ポイントの貫太騎手が食い込みJRA勢のワンツー。1ポイント差で新原周馬騎手(川崎)が3位、さらに1ポイント差で永野猛蔵騎手(美浦)が4位。トップに立っていた野畑騎手は15着で総合5位に終わった。

9R、フリーフロー(右)で4着だった田口騎手

 ■13番人気7着で6ポイントが「でかかった」

 9R終了後「手元の集計では2位だよ。良かったね、おめでとう」と声を掛けると、貫太騎手は「いやあ、ハイッ。ありがとうございます。3番手から行って、いい脚を使って詰めてくれましたが、最後は差されたんで」と優勝を逃して悔しさもにじませた。

フリーフローを4着に導き、厩舎スタッフらに迎えられた

 表彰台につながったのは13番人気だった1戦目。苦戦覚悟だったが、後方から7着に追い上げた。「しまいは頑張って脚を使ってくれました」。思ったよりもポイントを稼いで(6ポイント)「でかかったですかね。良かったです」と喜んだ。ここでもし8着以下なら、表彰台には上がれなかったのだ。2位と3位はわずか1ポイント差、3位と4位も1ポイント差で大接戦だった。貫太騎手は勝負強さを発揮し、総合2位に突っ込んだ。

 ジョッキー戦では、くじ運もある。まず上位人気馬を引き当てて高ポイントを獲得。あとは人気薄の馬をいかに5着前後に持ってくるかが、総合V争いの分かれ目となる。  

YJSで表彰台に立つ(左から)2位・田口貫太騎手、1位・横山琉人騎手、3位・新原周馬騎手

 ■「貫太、おめでとう」大きな拍手

 最終12レース後にはウイナーズサークルで表彰式が行われた。イクイノックスの引退式前に、表彰台の一番高い所に上がった横山琉人騎手。次いで田口貫太騎手、新原周馬騎手と続いた。大勢のファンからは「貫太、おめでとう」などと声が飛び、大きな拍手に包まれた。3人には花束が手渡された後、メダルや副賞、記念品(牛肉)が贈呈された。

 総合Vの横山琉人騎手は「トライアルラウンドでも1着は取ったことがなかったのに、最後に勝つことができて良かった。重賞でも勝ち切るジョッキーになりたい。これからも全力で頑張ります」と喜びを語った。地方騎手最上位の3位だった新原騎手は「3位という爪跡を残せて良かったです。初めての芝コースでも乗せていただき、他の競馬場でもいい結果を残せるよう頑張っていきたい」と意欲を示した。

若手が競い合う夢舞台で活躍した田口騎手

 ■「ファンの皆さまの声援も温かくて」

 ルーキーでは過去最高位に輝いた田口貫太騎手は「狙っていた1位を取りたかったですけど、2位でも良かったと思います。初めて中山競馬場に来て騎乗させてもらい、ファンの皆さまの声援も温かくて、とても乗りやすい競馬場でした。まだ2週(年内)競馬は続くのでぜひ応援よろしくお願いします」と詰め掛けたファンらに呼び掛けた。

 表彰台の3人はメダルを胸に、花束を高々と掲げて報道陣やファンの記念撮影に応じていた。表彰式から3人が帰る途中、ウイナーズサークルから離れた柵沿いにも大勢のファンが並んでおり、改めて「3人での写真を撮らせてください」との声も飛んでいたが、既に周囲は暗くなっていて立ち止まることはなく、それぞれ花束を投げ入れて戻っていった。

 JRAの競馬場でも春以降、ウイナーズサークル外側の柵が撤去され、コロナ対策の規制は緩和された。ファンが求めるサインに応じるジョッキーの姿も目立ってきたが、パドックでは応援幕の掲示ができない(申請時の接触回避のため)。コロナ禍でのファンサービスの在り方は、中央・地方ともに曲がり角にある。

2018YJSファイナルに参戦した渡辺竜也騎手。レース後、サインを求める大勢のファンと交流していた

 ■2年連続ファイナリストだった渡辺竜也騎手

 ここで思い出したのが5年前のこと。同じ中山競馬場でのYJSファイナルに笠松競馬の渡辺竜也騎手が参戦。地元・船橋市出身でもあり、レース後には色紙などにサインを求める大勢のファンたちの激励に応えて、最後の一人まで丁寧に対応。競馬場に足を運んでくれたファンを大切にする姿が晴らしかった。

 渡辺騎手はYJSファイナルに2年連続出場し、今や笠松競馬のエースに成長した。他地区の若手ジョッキーの騎乗ぶりを学んだり、中山では芝コース(2着)も経験。YJSで培った技術を地元での騎乗にも生かし、大きな飛躍につなげた。

全力で戦い、メダルを手にした田口騎手

 ■「若手同士で競い、すごい刺激になった」

 そのYJSをトライアルから完走した貫太騎手は「若手同士で競い合って、自分にとってすごい刺激になりました。まだまだ自分に足りないところも他のジョッキーを見て感じているので、負けないように今後も努力し、生かせたらいいですね」と意欲を見せた。

 目標にしてきた1年目の「30勝」を突破したことは「これだけ(自厩舎の)大橋先生らが馬を用意してくださって、目標を達成できましたが、競馬は続きますし、達成したからといって、どうこうという気持ちはないです」と30勝を通過点とし、34勝まで積み上げた。12月は調子が良く、阪神ジュベナイルフィリーズでGⅠレースにも初騎乗。結果は残念だったが、これからもGⅠで乗るチャンスはいっぱいあり「結果を出せるように頑張ります」と前を見据えた。

 応援のため来場したお父さんの存在については「来てましたね」と声を弾ませた。家族の応援も背中で感じながら、全力で駆け抜け、成長した騎乗ぶりを披露。表彰台にも立って晴れ姿を見せることができた。

 優勝はできなかったが「ルーキーでの表彰台はすごいこと」と活躍をたたえると「ありがとうございます。まだまだなんでもっと頑張ります」と戦いを終えてホッとした表情。胸のメダルの感触については「2位なんで悔しいですが」と満足はしていなかった。YJSへの出場資格はデビュー5年以内の見習騎手で、貫太騎手には来年またチャンスが巡ってくる。地方・中央の交流重賞やGⅠでも勝てるようなジョッキーへと腕を磨いていく。

地方競馬のルーキーではただ一人、ファイナルに挑んだ名古屋の大畑慧悟騎手

 ■大畑慧悟騎手、浜尚美騎手も夢のステージで躍動

 地方競馬からは唯一のルーキーとして最年少の18歳で参戦した名古屋の大畑慧悟騎手(倉地学厩舎)も懸命にゴールを目指した。川崎で8着、4着。中山ではともに12着で総合13位に終わったが、夢のステージで躍動。「デビュー1年目でこの舞台に立ててうれしいです。いい経験になりました。来年は優勝できるよう頑張ります」と意欲。愛知県出身で叔父は大畑雅章騎手。デビューして8カ月。名古屋で38勝、笠松でも2勝を挙げており、笠松の若手も負けていられない。

地方競馬の女性ジョッキーでは初めてファイナルに進出した高知の浜尚美騎手

 女性ジョッキーとして地方競馬から初めて出場した高知の浜尚美騎手は8、7、15、8着で総合15位だった。「広い競馬場での返し馬は興奮しうれしかったですが、ゲート裏では緊張しました。もっと楽しめば良かったです。YJSラストイヤーのファイナルで結果を残せなかったですが、大きな舞台での経験をジョッキー人生の中でいい糧とし、次につなげていきたい」とファイナリストとしての充実感を味わい、笑顔を見せていた。

 ■兵庫ゴールドトロフィー、貫太騎手4着

 貫太騎手は20日には園田で1着賞金3000万円の「兵庫ゴールドトロフィー」(JpnⅢ)にも参戦。中央オープンのギャラクシーSを勝った愛馬マルモリスペシャル(牡4歳、大橋勇樹厩舎)に騎乗。「地方でも重賞に乗せてもらえる機会は少ないので、しっかりとチャンスをものにしたい」と挑んだ。

 マルモリスペシャルは中団につけて、最後の直線で末脚を伸ばしたが差し届かず。3着馬とはハナ差の4着で馬券圏内に絡めなかった。ミルコ・デムーロ騎手騎乗のサンライズホークが佐賀サマーチャンピオンに続いてダートグレードを連覇した。

笠松競馬年末特別シリーズでは、柴山雄一騎手と田口貫太騎手のトークショーも開かれる

 ■大みそかには柴山雄一騎手とトークショーも

 笠松競馬は毎年にぎわう年末特別シリーズ(27日、29~31日)を迎える。貫太騎手は「騎乗予定はないですが、岐阜へは大みそかに帰ります」とのことで、ジョッキーとしてではなく、特設ステージでアイドル並みの出番が待っている。

 東海ゴールドカップが開催される31日の笠松競馬場。貫太騎手は、JRAの先輩で笠松競馬出身の柴山雄一騎手と一緒にトークショーに出演する。地元でどんな楽しい話が飛び出すか。ライデンリーダー記念が行われる30日には、キャスターで競馬通でもある草野仁さんのトークショー&予想会も開かれる。

 4年ぶりに復活する大みそかの「騎手あいさつ&餅まき」。所属全騎手が参加するのなら、療養中の騎手も登場するかも。深沢杏花騎手や長江慶悟騎手は初参加だし、使用済みゼッケンのプレゼント企画も人気を集めそうだ。

 渡辺竜也騎手はレース中の落馬で負傷療養中だが、既に183勝と白星を量産。笠松年間最多勝の自己記録を更新するとともに、2年連続となる笠松リーディングを手中にした。レース復帰に向けてリハビリに励んでおり、順調に回復しているもよう。同じく負傷療養中の松本剛志騎手、松本一心騎手の親子も早期復帰を目指しており、元気な姿をファンの前で見せてほしい。


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。