一連の不祥事を乗り越えて「笠松競馬・復興2年目」となった2023年。若大将の渡辺竜也騎手が年間最多勝記録を更新し、2年連続リーディングを獲得。両親が笠松競馬元ジョッキーである田口貫太騎手がJRAデビューを果たし、初勝利を笠松で飾った。ルーキー松本一心騎手はデビュー戦で初騎乗勝利の快挙。人気馬オマタセシマシタも初Vは笠松で、ファンを動員し盛り上げてくれた。

 ウマ娘シンデレラグレイ賞の開催もあって、聖地巡礼の若いファンが増加。馬券販売では伸び率が全国トップを続けるなど好調で、明るいニュースが多かった。一方で、笠松所属馬が1年半も地元での交流重賞を勝てない異常事態が続いた。放馬事故対策の厩舎集約は進まず。再生への新たな光を追い求めたこの1年。「オグリの里2023十大ニュース」として振り返った。

 

 ①渡辺竜也騎手、年間最多183勝で2年連続リーディング(12月)

 「ぶっちぎりVロード」 笠松の新エースとして成長を続け、勝利を量産する渡辺竜也騎手。勝負服のデザイン通りの活躍ぶりで1日に4~5勝、1開催2桁Vも目立った。ジョッキーズチャンピオンシップ(盛岡、園田)で全国総合5位。名古屋記念をメルト(名古屋)で、ネクストスター笠松(地元馬限定)はワラシベチョウジャとのコンビで重賞制覇。自身が前年達成した笠松歴代最多勝の164勝をあっさりと更新し、183勝まで到達。200勝突破ペースだったが、11月9日3Rで落馬し、年内は負傷療養となった。

 デビューして7年。8月には地方通算700勝を達成。名古屋でも8勝を挙げ、全国リーディングは8位に躍進。まだ23歳だが、ベテラン勢と後輩の若手たちをつなぐ中堅的な立場で笠松競馬をけん引。騎手不足のため調教から騎乗馬が多く、ハードな日々。フルシーズン無事に乗っていければ毎年200勝以上も可能。新春シリーズからの復帰を目指しており「馬券圏内に絡めるジョッキー」として頼りになる存在だ。

 師匠の笹野博司調教師は今年も170勝ラインに到達し、8年連続の笠松リーディングトレーナーに。自身の笠松歴代最多勝記録(170勝)を更新する173勝も達成した。全国リーディングは4位。

 

 ②JRAデビューの田口貫太騎手、初勝利は笠松(3月8日)

 「貫ちゃんすごい、おめでとう」 岐阜県岐南町出身で、両親が笠松競馬元ジョッキーという「良血」を受け継いだ田口貫太騎手(栗東、大橋勇樹厩舎)がJRAデビュー。小さい頃から笠松競馬場が身近な存在で、初勝利も里帰り騎乗の笠松で飾った。JRA交流戦、1番人気サンマルパトロールで差し切り勝ち。「おめでとう」と祝福の嵐に初々しい貫太スマイルがはじけた。

 3月26日にはレッツゴーローズでJRA初勝利もゲット(デビュー38戦目)。岐阜県出身では第1号のJRA競馬学校卒業生が「歴史的1勝」を決めた。12月には30勝を突破し「最多勝利新人騎手賞」を手中にした。ヤングジョッキーズシリーズのファイナルラウンド(川崎、中山)では初戦に勝利。ルーキーでは過去最高の総合2位。阪神ジュベナイルFではGⅠレースに初騎乗した。愛されキャラで騎乗馬も多い。夢はでっかく日本ダービー、そして凱旋門賞でのウイニングラン。

 

 ③人気馬オマタセシマシタも初勝利は笠松(1月26日)

 「初Ⅴお待たせしました」 人気お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんが馬主を務めるオマタセシマシタ(牝3歳、笹野博司厩舎)が笠松移籍初戦、待望の初勝利を挙げた。1番人気に応えてVゴールを決めた渡辺竜也騎手のガッツポーズも飛び出し、応援に詰め掛けたファンは熱狂。笠松競馬場に大きな拍手と歓声が響いた。斉藤オーナーは自らのユーチューブ配信で絶叫。「涙が止まらない。勝っちゃったよ」と愛馬の初Vに大興奮だった。

 3戦目には斉藤オーナーが笠松競馬場で生観戦の応援。大勢のファンが手を振り、サイン攻め。記念写真などで交流を深めた。笠松9戦目、宮下瞳騎手とのコンビで鮮やかに逃げ切って2勝目。オマタセちゃんフィーバーで若いファンが増え、馬券販売にも効果があった。斉藤オーナーの地元・船橋へ移籍し、3勝目を飾った。

 

 ④ウマ娘シンデレラグレイ賞、ファン熱狂(4月28日)

 「女神ついに聖地降臨」 2年目のウマ娘コラボイベントがパワーアップして開催され、聖地巡礼の若者たちが熱狂した。芦毛馬だらけの「ウマ娘シンデレラグレイ賞」に続いて、オグリキャップ役声優の高柳知葉さんがトークショーで「聖地降臨」を果たした。10~20代の若いエネルギーがあふれ、ライブ会場となった笠松競馬場。迫力満点の人馬の熱戦とともに、ファン一人一人が追い求めた、それぞれの「ドリーム」も熱く駆け抜けた。

 シンデレラグレイ賞は大原浩司騎手騎乗のエイシンウパシが押し切り、ゴールイン。全11頭の無事完走をたたえるかのように大きな拍手が長く響き渡った。イナリワン役の声優・井上遥乃さんとのトークショーで高柳さんは「シンデレラグレイの中で見ていた景色だという感動がありますね。お馬さんとの距離が近い感じがします」と感激していた。

 

 1月には笠松町主催で、ウマ娘のコスプレイベントも開かれた。オグリキャップの聖地にウマ娘の女神たちが降臨。50メートル走でダートコースの深い砂と格闘しながら、ゴールを目指して完走。撮影会も開かれ、ウマ娘の「トレーナー」たちが決めポーズを激写。ウマ娘シンデレラグレイにも登場した笠松コースに熱気が充満し、歓声が上がった。
  

 

 ⑤松本一心騎手鮮烈デビュー、初騎乗V(4月5日)

 「父の大きな背中を追って」 17歳の若者がはじけた。新年度初日1R、笠松競馬待望の生え抜きルーキー・松本一心騎手が鮮烈デビューを飾った。1番人気チュウワシルバーで差し切り勝ち。アタマ差だったが、ゴールの瞬間「勝ったと分かった」。写真撮影で「祝・初騎乗初勝利」のプラカードを掲げたのは父・松本剛志騎手で「良かったなあ」と祝福。一心騎手は「一鞍一鞍大切に乗り、信頼されるジョッキーになりたいです」とアピールした。

 勝負服は父と同じ「山形」のデザイン(色違い)。親子対決では「父1着、一心2着」のワンツーも実現した。10月までに18勝と順調に勝利を積み重ねた。2着30回、3着は34回と馬券には絡むが、勝ち切れないレースも多かった。調教中のけがで3開催を休んだ後、年末特別シリーズで復帰した。父もけがで療養中だが、今度は一心騎手先着でのワンツーも目指している。

 

 ⑥馬券販売好調、伸び率全国トップ(4~11月)

 「谷底からV字回復」 一連の不祥事で8カ月間もレースが中止され、巨額の赤字転落もあった笠松競馬だが、谷底からはい上がった。馬券販売はV字回復を果たし、4~11月の総売得金は279億4500万円で、前年比7.4%の増加。全国の地方競馬(13主催者)でトップの伸び率をキープした。

 1日平均4億5800万円と、競馬組合が目標にしてきた4億円を上回り、全国的にも笠松の健闘が光った。競馬組合など運営サイド、馬主さんや厩舎関係者の地道な努力が大きい。「クリーン度100%」でエキサイティングなレース増えたこと、ウマ娘コラボレースでの聖地巡礼、渡辺竜也騎手や宮下瞳騎手で勝ったオマタセシマシタが人気を集めたことも収益増につながった。

 

 ⑦藤原幹生騎手、笠松グランプリ制覇(11月21日)

 「さすが豪腕ミッキー、うれし泣き」 秋のビッグレース「笠松グランプリ」を制覇したのは藤原幹生騎手。川崎のルーチェドーロで1着ゴールし、スタンドやゴール前のファンらは熱狂。初登場した「藤原幹生」の横断幕も勝利を後押しした。向正面からインをロングスパート。「行っちゃえ」という好判断が光った。地元ファンらの大きな拍手で迎えられた藤原騎手は、全国交流重賞での会心の勝利に感極まってうれし泣き。アンカツさんから花束が贈られた。

 オグリキャップ記念は吉原寛人騎手騎乗の大井・セイカメテオポリスが差し切りV。1着賞金は1200万円から2000万円に大幅アップされ、ダートグレード競走復帰が期待されている。

 

 ⑧笠松所属馬、地元交流重賞を勝てず24連敗

 「馬場を貸しているだけ」 笠松競馬場で行われる交流重賞で、笠松所属馬は笠松グランプリでも完敗し、ついに「24連敗」。前年6月のクイーンカップで生え抜きのドミニク(向山牧騎手)が勝って以来1年半。名古屋、兵庫勢や関東馬に優勝をさらわれ続け、「馬場を貸しているだけ」と笠松ファンを嘆かせている。地の利を生かせるホームの重賞を勝てない異常事態が止まらない。

 馬券は売れるようになったが、不祥事の余波で騎手は減り、競馬場運営の生命線である競走馬はレベルダウン。オグリキャップやラブミーチャンら多くの名馬を生んで「名馬、名手の里」として地方競馬の先頭を走っていたかつての栄光はどこへ。全国の競馬ファンの間でも「笠松の馬のレベルは最後方」とささやかれており、連敗ストッパー待ちとなっている。大みそかの東海ゴールドカップで向山牧騎手騎乗のストームドッグ(森山英雄厩舎)が勝ち、交流重賞での連敗をストップした。

 

 ⑨放馬事故対策で馬運車送迎、厩舎集約は進まず(4月、12月)

 「重大事故がまた起きてからでは遅い」 4月8日早朝、岐南町の専用馬道内で、円城寺厩舎から笠松競馬場へ向かっていた馬1頭が暴れて放馬。専用道から一般道へと逃走、約100メートル先で確保されたが、厩務員1人が左腕を打撲する軽傷を負った。競馬組合はレース開催時に競走馬を馬運車で送迎するとしていた対策を、前倒しして開始した。

 放馬事故防止は競馬場存続の最優先課題だが、動きはスロー。円城寺厩舎を競馬場近くの薬師寺厩舎へ集約する計画では、23年度は厩舎5棟建設予定だったが、工事費8億3500万円を減額。組合は「地権者や地域住民への対応を丁寧に進めているため時間を要している」として、集約完了時期は25年度末から遅れる見通しを示した。放馬死亡事故から10年が経過したが、厩舎集約計画は前に進まず停滞。放馬による重大事故の発生が懸念されている。

 

 ⑩オグリの里・聖地編出版、協賛レースにオマタセシマシタ(2月23日)

 「ウマ娘ファンも笠松競馬場の魅力知って」 日本競馬界最大のヒーロー・オグリキャップを生んだ笠松競馬場から愛を込めて。岐阜新聞Web「オグリの里」を書籍化し「オグリの里・聖地編」として出版。場内で新刊が発売された。

 出版記念の冠協賛レースも行われ、オマタセシマシタが出走。7着に終わったが、人気馬の登場で盛り上がった。笠松競馬の存続運動などの歴史やオグリキャップ、アンカツさんら「名馬、名手の里」の魅力をアピール。笠松ファンはもちろん、聖地巡礼で遠くから来場する若者にも新刊を買い求めていただいた。

 

 【次点】笠松競馬秋まつり盛況、大谷・佐々木そっくり対決(10月14日)

 「スーパースターに似ている?」 笠松競馬秋まつりは、パドックがプロレス会場になるなど場内を開放。家族連れや若者グループらで大にぎわい。プロ野球選手そっくりショーやチャリティーオークションなどで熱気がみなぎった。

 メインステージでは佐々木朗希投手そっくりの長江慶悟騎手と、大谷翔平選手そっくりのマチョ谷翔平さんが登場。「マウンド上は佐々木朗希です。第1球投げました」と生実況され、2人はピッチングフォームも披露しながら「そっくりさん」ぶりをスタンドのファンにアピール。熱血トークやサイン会でも盛り上げた。

 

【番外】
鷲見昌勇元調教師、オグリキャップを語る

ラブミーチャン記念展にぎわう

期間限定騎乗(冬~春)の助っ人が11人来場

ツミキヒトツ、東海ダービー2着

深沢騎手が金沢の準重賞「敬馬賞」V

通勤前のファン集った「早朝前売発売所」廃止

笠松競馬元騎手2人処分「違法」、県競馬組合の敗訴確定 

 

【達成された節目の記録】

☆向山牧騎手 3700勝 
☆藤原幹生騎手1200勝 
☆馬渕繁治騎手1000勝 
☆渡辺竜也騎手700勝 
☆松本剛志騎手500勝
☆大原浩司騎手500勝
☆深沢杏花騎手100勝 

☆伊藤強一調教師2100勝 
☆柴田髙志調教師1500勝 
☆笹野博司調教師1300勝 
☆加藤幸保調教師1200勝 
☆森山英雄調教師1000勝 
☆後藤正義調教師900勝 
☆田口輝彦調教師800勝 
☆後藤佑耶調教師400勝 
☆栗本陽一調教師300勝 

【笠松で達成、名古屋・金沢関係の記録】

☆岡部誠騎手 4700勝 
☆今井貴大騎手1500勝 
☆木之前葵騎手500勝 

☆今津勝之調教師1300勝 

☆平瀬城久騎手1400勝 
☆青柳正義騎手1200勝 
 


 ※「オグリの里 聖地編」好評発売中、ふるさと納税・返礼品に

 「オグリの里 笠松競馬場から愛を込めて 1 聖地編」が好評発売中。ウマ娘シンデレラグレイ賞でのファンの熱狂ぶりやオグリキャップ、ラブミーチャンが生まれた牧場も登場。笠松競馬の光と影にスポットを当て、オグリキャップがデビューした聖地の歴史と魅了が詰まった1冊。林秀行著、A5判カラー、200ページ、1300円。岐阜新聞社発行。岐阜新聞情報センター出版室をはじめ岐阜市などの書店、笠松競馬場内・丸金食堂、名鉄笠松駅構内・ふらっと笠松、ホース・ファクトリーやアマゾンなどネットショップで発売。岐阜県笠松町のふるさと納税・返礼品にも加わった。