柴山雄一騎手(中央)の引退セレモニー。トークショーで共演した田口貫太騎手(右)

 ジョッキーとして最後の一日は、やはり笠松競馬場だった。ハーフタイムを挟んでの「貫太&雄一」トークショー第2ステージ。引退の日(12月31日付)を迎えた柴山雄一騎手をリスペクトしようと、詰め掛けたファンも「雄一さん、ありがとう」と別れを惜しんだ。

 JRAの引退セレモニー(中山競馬場)ではずっと笑顔だったが、デビューの地・笠松競馬場では泣かせることはできたのか。中山でのラスト騎乗(6着)を終え、25年間のジョッキーライフを振り返るとともに、アットホームで心温まる引退セレモニーも行われ、田口貫太騎手が花束を贈った。

 ■柴山騎手、995勝だと思っていたら1010勝

 ステージ前では笠松、JRAでの活躍をたたえてファンたちが横断幕を掲げていた。「すごいね。ありがたいね」と雄一騎手を喜ばせた。司会の長谷川満さんが、騎手から調教助手に転身する雄一さんの思いなどを聞いた。

柴山雄一騎手の活躍をたたえ、横断幕を手に応援するファンら

 ―25年間のジョッキー人生、お疲れさまでした。JRAでも引退セレモニーはありましたが、いかがでしたか。

 雄一「本当にありがたいですよね。みんなから祝福していただいて。(同日に引退セレモニーがあった)田中勝春騎手に呼ばれて、あんなふうに話を振られると思っていなくて(引退あいさつ)。ただ胴上げは最後やるからとは聞いていました。セレモニーが終わって帰ろうとしていましたが、胴上げの前、みんなに引き留められました」

 ―柴山騎手の勝利数はスタッフ調べで1010勝でしたよ。

 雄一「地方とJRAで995勝だと思っていましたが、調べてくれてありがとうございます。1000勝でジョッキーをやめたいというのはありましたから」

 (JRAで602勝。地方競馬では笠松時代に393勝、JRA移籍後に15勝。地方、JRA通算では1010勝となる)

 貫太「1000勝するって、すごい数字だと思いますね」

 ―JRAでは602勝ですが、この勝ち星はどうですか。

 雄一「(最初にJRA競馬学校を受験して)なかなかジョッキーになれなかったが、笠松競馬場での騎乗があって、やっとJRAへ行けたんで。笠松競馬に救われたという感じですね。笠松で騎手デビューさせてもらったおかげですね」

トークショーで笠松競馬を盛り上げた「貫太&雄一」の名コンビ

 ―減量が大変でしたものね。

 雄一「減量はずっとですね。15歳ぐらいからで、今はホッとしていますね。解放されて体重のことを気にしなくてもいいですものね」

 ―アンカツさんみたいにどんどん毎年こう…。(ふくよかに?)

 雄一「(その話は)やめてもらっていいですかね。大尊敬の先輩ですからね。何も言えなくなるんで。騎手はやめても調教助手として(美浦・古賀慎明厩舎)毎回、馬に乗る仕事をするんで」

 (引き続き競走馬に乗る雄一さんは、調教助手としての体重管理は必要となる)

 ■「600勝できて、次のステップを踏めたら」と引退決意

 ―引退を決意されたのはどのタイミングでしたか。

 雄一「一番思ったのはJRAで600勝(昨年7月)できた時ですかね。柴田善臣さんから花束を贈られ、みんなに祝ってもらって。この先、これ以上のことはあるのかなあ、次のステップを踏めたらなあと。本当はGⅠを勝ちたいとずっと思っていたんですが、なかなか乗り鞍にも恵まれなくなって。GⅠ(優勝)なんて果てしないなと思い、次の目標に向かって頑張っていきたいと」

 ―決意する時、引退の寂しさはなかったですか。

 雄一「寂しさというのはないですね。いい思い出だったり、つらいこともありましたが、いろいろな人に支えてもらって、救われたなあと。ファンの方にもそうだしね」

 ―笠松とJRAでの乗り方は違いましたか。

 雄一「芝とダートで全然違うし、スピードも違い、やっぱり戸惑いますね。最初の芝はね」

JRAで35勝を挙げて最多勝利新人騎手賞、ヤングジョッキーズシリーズでは準優勝に輝いた田口貫太騎手

 ―貫太君はJRAでは感覚としてどうですか。

 (後半戦は柴山さんに聞くステージだと油断していた貫太君にも質問が飛んだ)

 貫太「コースの広さとか全然違いますし、仕掛けどころも難しいですね。競馬場によって違いますし。笠松は小回りで(道中も)踏み遅れないようにして乗っています」

 (貫太騎手の騎乗ぶりを注目しているのがアンカツさん。日経新春杯では「貫太は説教したいような騎乗」とも。早仕掛けで失速したが全て勉強。今年は重賞に騎乗するチャンスが増えそうだ)

 ■「減量苦では飯干先生に助けていただいた」

 ―一番の思い出の馬は。

 雄一「やっぱり一番は笠松初勝利のトミシノハラディンですね。調教からずっと乗せていただき、担当厩務員さんの言う通りに騎乗したら勝たせてもらって。馬が良くなってオープンまで行ってすごいなと。勉強させてもらいました」

 「そして飯干秀人先生ですよね。育ててもらってね。減量に苦しんでレースに乗れないこともあって、騎手をやめなければいけないところを助けていただいて、今こうやっていられるので」

 ―アンミツさん(安藤光彰騎手)が兄弟子でしたね。

 雄一「勉強になりましたね本当に。(騎乗の仕方など)身近で覚えられたのはすごい財産ですよね。勝己さんにはJRAへの道を切り開いていただいたし」

笠松時代の柴山雄一騎手。一番の思い出の馬は初勝利を飾らせてくれたトミシノハラディン

 ■JRA試験「アッできた」と一発合格

 ―JRAへは1次試験から受けたんですよね。「行ってやるぞ」と思っていたんですか。

 雄一「試験受けた後『アッできた』と思ったんです。でもみんな信じてくれなかった。『お前みたいなのが受かるわけないやろう』とね」

 ―JRAの騎手になる時は、気持ちの高ぶりはありましたか。

 雄一「それはありましたよ。夢だったからね。(笠松所属になる前)JRAの試験には3年連続で落ちていたし、華やかな舞台で乗れるんだと」

 ―思い出に残るレースは。

 雄一「一番の思い出は菊花賞(2007年)なんですけど(ロックドゥカンブで3着、勝ったのはアサクサキングス)、本当にみんなに迷惑を掛けました」

 ―プレッシャーがあったのか。

 雄一「ないと思いましたが、1番人気であったんでしょうね。つらかったなあ、あの後は…」

 (柴山騎手は騎乗したクロフネサプライズ、ロックドゥカンブ。アルビアーノの3頭をGⅠでも勝てる馬に挙げているが、2、3着であと一歩届かなかった。長谷川アナは「貫ちゃんもそのうち経験するでえ。精神力が大事やで」と今後のGⅠでの騎乗に期待した)

 ■札幌記念「ブエナビスタを負かしたのに」

 雄一「会心の騎乗は札幌記念(2009年)です。ヤマニンキングリーでブエナビスタを負かしたんで。全部思い通りにいきました。でもその時もたたかれました。GⅡの重賞を勝って怒られ、馬主さんもびっくりしていましたね。なんで君は『KY』と呼ばれているんだと。(勝ったんで)うれしくてしょうがないんですが…」

 (ヤマニンキングリーは7番人気で大金星。ブエナビスタの凱旋門賞挑戦の夢を砕き、表彰式ではファンらからまさかのブーイングを浴びた)

調教助手となる柴山騎手(右)。将来的には貫太騎手に騎乗馬を用意することも期待されている

 ■貫太君の頭髪「伸ばすのも、あと1センチぐらいに」

 ―悪役になっちゃうんですね。先輩から貫太ジョッキーにアドバイスを送っていただければ。

 雄一「金髪とかにはならずに。今のその貫ちゃんで、うまく上を目指していったら、もっといいジョッキーになっていると思うんで、応援しています」

 ―金髪は駄目だって。さっきは先輩が(金髪ではじけてほしいねと)言っていたのに」

 雄一「(トークショーの合間に)ちょっと考え直して『金髪はやっぱあかんな』と思ってね。このままで伸ばすのも、あと1センチぐらいにしといてほしいです」

 (貫太騎手の頭髪問題では、アンカツさんが笠松でのトークショーで「どういう髪形になるのか。どういうのが合うのだろうか」と注目しファンは大爆笑。貫太騎手自身は100勝以下の見習騎手の間は丸刈りを続け、その後は伸ばし始めたいとのことだ。プロ野球では「丸刈り」を宣言し、寮にバリカンを持参したルーキーもいるが、貫太君の髪形は今後も注目されそうだ)

 ■柴山助手調教馬に貫太騎手が乗ったら「胸アツ」

 ―ジョッキーとしての25年間はどうでしたか。今後は調教助手になられますが、どう関わっていきたいですか。

 雄一「いま振り返ると短かったですね。アッという間という感じでしたね。ジョッキーという立場だと距離がありますが、調教助手だと馬と身近に接する時間が増えるんで。馬が大好きなんで、勉強することばかりですが、楽しみだなあと。頑張ります」

 ―柴山助手が調教からしっかり稽古をつけた馬に、貫太騎手が乗ることになったら、笠松のファンも沸くよねえ。

 (柴山騎手、女性ファンからの「胸アツ」の声が聞こえたようで)

 雄一「胸アツ? でも騎手とは夢が違うからね。いろんな感情があるやろうなと。『貫ちゃん、頼むぞとか』。いい結果だったいいけど『何ちゅうことしてくれたんや』とか。やっぱり乗ってる人はそういう感情あると思うんで。いい仕上げしたのにレースでは『ああ、はまっている』とかね」

 (貫ちゃんが馬群に包まれて行き場がなくしたり、先輩騎手に遠慮してコース取りに苦労するかも…。ファンはぶっちゃけトークに爆笑の渦に包まれた)

「笠松競馬場で、皆さんに温かく迎えていただいてありがとうございます」と引退のメッセージを述べる柴山騎手

 

 ■「笠松でデビューし、いい思い出ばかり」引退メッセージ

 柴山騎手は引退メッセージとして「雨の中、これだけお集まりいただき、本当にありがとうございます。笠松でデビューして今となってはいい思い出ばかりですね。つらいこともあったんですけど、JRAへ行けることになって、それでもずっとこうやって笠松競馬場に呼んでもらえたりしたんで。皆さんに温かく迎えていただいてありがとうございます。また新年から調教助手として頑張りますのでよろしくお願いします」と爽やかに感謝の気持ちを伝えた。

トークショーは柴山騎手(左)の引退セレモニーになり、貫太騎手が花束を手渡した

 ■大みそかにドラマチックな引退セレモニー

 ―それでは引退セレモニーを行います。

 雄一「ありがとうございます。ジョッキーの免許あるの、本当にきょうまでなんでね」

 ファンから「オーッ」と歓声が上がり、サプライズのセレモニーが待っていた。長谷川アナが急きょ「柴山雄一騎手 引退」のプラカードを取り出して「これを持ったのは初めて」と掲げたのだ。デビューした笠松で大みそかに引退の日を迎え、ドラマチックで温かいお別れのステージとなった。貫太騎手が雄一さんに感謝の花束を手渡した。

騎手として最後の一日。ファンから「雄一コール」が湧き起こり、花束を手に目を潤ませた

 貫太騎手はメッセージとして「柴山さんがちょうど600勝された時のコメントがすごく印象に残っています。『今に至って、一鞍一鞍のありがたみを知る』と言われていたんですが、柴山さんを見習ってもっともっと活躍して、少しでもいい姿を見せられたらと思います。お疲れさまでした」とジョッキー人生完走を祝福した。

 ―笠松競馬のファンの前で最後というのも良かったですかね。

 雄一「そうですね。ありがたいです、来ていただいて。本当にありがとうございました」

 ■柴山コールに「泣いてまうがなあ」

 ―柴山騎手は第二の人生に向かわれるということなんで拍手で送り出していただきましょう。

 特設ステージ前では「シ・バ・ヤマ、シ・バ・ヤマ」とファンらの熱い叫びが湧き起こった。まさかの柴山コールに笑顔から一転、込み上げるものがあって「泣いてまうがなあ」と雄一さん。大きな拍手とともに柴山コールが大きなうねりとなって鳴り響いた。柴山騎手は感極まって涙を流した。

熱烈な柴山雄一ファンらの横断幕。笠松のステージでジョッキー人生に別れを告げた                  

 ■「夢と希望をありがとう」「必殺仕事人」の横断幕とともに

 ―泣かすんじゃないよー。貫ちゃん、良かった。いいセレモニーになったね。調教助手として育てた馬も応援していただければ。

  再び撮影タイムとなり、柴山騎手は目を潤ませて、ファンにジョッキー人生ラストの勇姿を披露した。

 雄一「笠松は素晴らしいところですね」

「必殺仕事人 柴山雄一」の横断幕も登場。大穴馬券も提供した柴山騎手の活躍に感謝した

 セレモニーの最後には「柴山雄一 夢と希望をありがとう」や「必殺仕事人 柴山雄一」の横断幕を掲げていたファンたちもステージに上がって一緒に記念撮影。「ありがたいですね。(横断幕は)競馬場でもよく見ました」と雄一騎手。ファンから「雄一、おめでとう。貫太君も頑張れ」「お疲れさまでした、ありがとう」の声が飛び、大きな拍手で送り出した。

 柴山騎手は4年前にもトークショーに登場。じゃんけん大会も開かれたが、自分も参加して幸運にも柴山騎手のサイン入りゴーグルをゲットすることができた。今回のステージでは、柴山騎手についての記述もある「オグリの里」を来場記念に手渡すことができて良かった。

東海ゴールドカップを制覇した向山牧騎手に花束を手渡す柴山騎手(右)

 ■最後の仕事は牧さんへの花束プレゼンター

 「必殺仕事人・柴山雄一」として、最後の仕事がまだ残されていた。笠松競馬の大一番「東海ゴールドカップ」の優勝騎手への花束贈呈だった。レースは向山牧騎手の手綱さばきに応えたストームドッグが差し返し、馬渕繁治騎手とのベテラン同士のマッチレースをハナ差で制覇した。

 表彰式ではまず貫太騎手が「最後の追い比べはすごく見応えがありました」と花束を贈呈。続いて柴山騎手が「僕の最後の騎手としての仕事が牧さんに花束を渡すことで、幸せで仕方ないです。夢のようです。おめでとうございました」と健闘をたたえた。4年前、ニュータウンガールが勝ったライデンリーダー記念でも牧さんに花束を渡しており、笠松時代からのジョッキー仲間でもあった先輩を再び祝福することができた。

笠松競馬のジョッキーらに胴上げされる柴山騎手

 ■かつての騎手仲間らが胴上げ

 柴山騎手の笠松時代のジョッキー仲間で残っているのは、向山騎手のほか、藤原幹生、大原浩司騎手と少なくなった。装鞍所前では、かつて一緒にレースで戦った3人や若手騎手らも加わり、みんなで柴山騎手を胴上げ。笑顔と拍手に包まれた。アンカツさんを追うようにして、笠松からJRAの舞台を駆け抜けた男の「ゴールイン」を祝った。

 この日の「貫太&雄一」トークショー。笑いあり、涙ありで大いに盛り上がった。GⅠ制覇の夢は果たせなかった雄一さん。今度は、兄弟子だったアンミツさんと同じく調教助手として強い馬を育成することになった。できれば貫太騎手の手綱でGⅠの舞台に挑戦できる馬を用意。ファンとともに「1着ゴール」の夢を追い掛けていただきたい。


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