握力は左右ともに「調子のいい時で10か11キロ」と言う。ラケットは260グラムの超軽量を使い、ガットも柔らかい。「パワーがないので、ボールに回転をかけて相手が嫌がるボールを打つ」。車いすテニスの諸石光照(EY Japan、岐阜西工高=現岐阜総合高=出)は、バックハンドのスライスを武器にする。
まるでボールの下を削るように打ち、逆回転をかける技だ。多くの選手は強打のフォアハンドを得意なショットとしているが、スライスの低い軌道は独特。理想はネットを通過するときに浮き上がり、相手のコートに落ちてからは速く滑ったり、止まったりするボール。相手のミスを誘い、甘いボールを返してきたら「前に行って攻めたい」と勝利の方程式を描く。
30歳の時に突然、四肢に力が入らなくなるギラン・バレー症候群を発症した。3年半の入院生活を経て、体力づくりとして36歳で始めたのが車いすテニスだった。
最初はフォアハンド中心で、順回転の強いスピンボールを追い求めた。だが、握力が弱いため思うように打てず、打ち終わった後にラケットがすっぽ抜けることも。転機は、競技を始めて数年後。四肢まひを抱える「クアード」クラスの選手はラケットと手をテーピングで固定していることを知り、自身も変更。持ち味を開花させた。
試合中にグリップを持ち替えることはできなくなり、強いスピンボールは打ちづらくなったものの、握り方の特性を生かしてバックハンドのスライスを猛練習。スライスは、タイミングや角度など微妙なラケットのコントロールが必要だが、「ラケットの重みを使うので、力で打たない。スイングスピードも速くなく、自分に合っていた」と最大の武器に磨き上げた。海外ではパワフルなストロークの選手が増えているが、「力に対しては、技で対抗したい」と54歳は笑う。
3大会連続の出場が懸かる東京パラリンピックの代表は、6月7日付の世界ランキングで決まる。コロナ禍での開催には賛否両論があり、大会に向けて「複雑な思い」と素直な胸の内を明かす。「自国開催は生きている間にもうないと思うので、出場できたら頑張りたい」と静かに語る。
【極意】
その一、低い打点で打ち、ボールを浮き上がらせて沈めさせる
その二、相手がボールを見えづらくなるよう、ネットのギリギリを狙う
その三、同じフォームで多彩な球を打ち分ける








