長く続いた新型コロナウイルス禍でのマスク生活。国の呼びかけが「個人の判断」となり、脱マスクが進みそうだ。だが、これからもマスクを着け続けると決めている人もいる。岐阜県養老郡養老町の沢田勇さん(60)もその一人。難病を患い、顔の表情が思った通りに作れない。マスク生活になって「人目を気にしなくてよく、少し気持ちが楽になった」といい「マスクを外したくない人たちの事情も分かってほしい」と願う。
意思に反して体が動く
沢田さんは、ジストニアという神経系の難病を患っている。脳から筋肉への指令が正常に働かず、自らの意思に反して体が勝手に動いてしまう。原因不明の病で治療法は確立されておらず、完治しないという。現在、体内にパルス発信器を埋め込んで体の動きを制御、定期的に筋肉を緩めるボトックス注射を打っている。
症状が見られ始めたのは30代後半。子どもの頃からサッカーに熱中し、U―21日本代表のトレーニングに参加したほど。社会人になってからも出身地の岐阜市選抜の一員として第一線で活躍し、コーチのC級ライセンスも取った。だが、だんだんと体が思うように動かなくなっていった。
「ゴール前でクロスボールを受けて、あとは押し込むだけ。でも、思った通りに足が出ない。チームメートは『おい、触れば入ったぞ』と怒る。自分でも分かっているし、みんなも分かってよと思いながらも『ごめんごめん』と謝るしかない自分がつらかった」と振り返る。
人目を気にしなくなった
舌足らずで、ゆったりとした口調。マスクで鼻や口を覆っての会話に違和感はないが「口元は、くちゃくちゃ動いていますよ。無意識に」と沢田さん。喜怒哀楽が思ったように表情にできず、マスクを着けていなかったコロナ禍前は何事もない会話で眉間にしわを寄せてしまい、相手の気分を害してしまうことも。「口元を手で覆ったり、鼻をかくようなふりをしたりして隠そうとした」が、誰もがマスクをする生活が定着して「人目を気にしなくてよく、少し気持ちが楽になった」。精神的な負担の軽減が良い効果をもたらすのか、主治医からも「マスクをすると(正常でない動きが)ちょっと収まるね」と言われたという。
ジストニアを患っていることは、隠さずオープンにしている。だが、難病ゆえに、その原因や症状を理解している人は少ない。顔を見せていたコロナ禍前、相手に打ち明けると「言われてみて初めて分かった」と言ってくれる人が多かったが、「本人の思いはもっと深刻。難病の人って、そうだと思う。自分の見た目を気にして人と会えず、家に引きこもってしまう人もいる」と話す。
顔を見せたくない人もいる
ようやく脱マスクへと向かう社会。沢田さんは「マスクを外したい人たちの気持ちも分かる。だけど、外したくない人たちの事情も分かってほしい」と願いつつ、「まだあいつ、コロナを怖がっとるぞと思われるだろうけれど、僕は違うんやよってそこら中に説明して歩けない。僕みたいな状況で顔を見せたくない人もいる、それを分かってもらえたら」。そう理解を求める。






