全国でも有数の〝バーベキュー先進県〟の岐阜県には、国民食といっていいくらいバーベキューを好むブラジル国籍の人が多く住む地域がある。休日にはこうしたブラジル国籍の人たちが集まってバーベキューを楽しむ姿が見られるが、言葉が違うこともあってどんなバーベキューをやっているのかはよく分からない。そこでブラジル流バーベキュー「シュハスコ」がどういったものなのかをブラジル人家庭にお邪魔させてもらい、日本との違いを調査した。するとブラジルの人たちにとって、バーベキューは欠かせないコミュニケーションの場だということが分かってきた。

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 ブラジル国籍の人たちが多く住むのは、工場が集積する岐阜県中南部に位置する可児加茂地域。県内には約1万2千人のブラジル人が住むが、うち5割を可児加茂地域が占める。調査させてもらったのは、加茂郡八百津町和知に住むウィリアム・ブランダオさん(48)一家のシュハスコだ。ブランダオさんは妻のサンドラ・キヌコ(51)さんと長男、長女の4人家族。サンパウロ州出身で2000年に来日し、仕事はカフェのキッチンカーでコーヒーを販売している。ブランダオさん一家が20年来の友人のサガエ・ヴァンデルレイ(43)さん=可児市=一家4人を招いて20日に自宅で行った。ブランダオさんは日本語が得意ではないので、ヴァンデルレイさんに主に通訳をしてもらった。

協力してくれたブランダオさん夫婦

バーベキューへの愛

 正午に自宅に到着。庭にはすでにテントが張ってあり、バーベキューコンロなども用意されている。ブランダオさんの家は持ち家で、5年前に建てたそう。休日にシュハスコをする前提のため、土地選びからこだわり、庭を広くとってある。この時点でバーベキューへの愛がすでに感じられる。

 まずは準備してある食材を見せてもらう。プラスチックの食品保存容器に灰色がかったソースと一緒に牛肉が漬け込んである。ソースはタマネギやニンニク、イタリアンパセリ、黒ビールなどで作ったもので、「家庭によって味付けが違う」そうだ。牛肉を10時間漬け込んであり、これを竹串に刺して焼く。「シュラスキーニョ」と言うらしい。

 また骨付きのスペアリブ「コステラ」を使った「大晦日やクリスマスくらいしか作らない」特別な料理も準備してくれていた。6時間かけて蒸し焼きにした料理で、岩塩だけで味付け。しかも常時180~200度で管理しなくてはいけないため、温度計を常に気にしなくてはいけない手間暇がかかった料理だ。ヴァンデルレイさんによると「ブランダオさんは岐阜県で一番コステラを使った料理がうまい」そうだ。この日ブランダオさんは朝6時から準備して調理しておいてくれた。

特別な時にだけ料理するコステラ

 ほかにランプ肉も用意。これはオーストラリア産にこだわるという。というのもオーストラリアはブラジルと同じカットの仕方で、「ピカンニャ」と呼ばれる日本ではイチボという名称の部位が取り除かれていないからだとか。イチボをおいしいと思うのはやはり日本と同じらしい。

 ブラジル人向けの生肉をハーブやスパイスと一緒に腸詰めにしたソーセージも焼く。肉は皆牛肉で、合わせて6種類。こうした食材を購入するのは近くのブラジル人向けのスーパーで、ヴァンデルレイさんによると「10年前くらいからブラジル人向けの食材は買いやすくなった」という。さすが在日ブラジル人が集まる地域。一般の日本人向けスーパーでもブラジル料理の調味料などは購入できるという。

この日用意された牛肉とソーセージ

ホストが焼き続ける

 さて本格的にシュハスコスタートだ。まずはコステラ。包んであるアルミホイルとラップを切って取り出す。肉の表面についていた岩塩を取り除き、皿に乗せて机の上へ。特別な料理だけに皆うれしそうに肉を自分の皿に取っていく。

肉を焼き続けるブランダオさん

 ここでブランダオさんが一人でずっと焼き続けていることに気づく。ほかの皆は思い思いに食べたりしゃべったりしている。騒ぐでもなく、ゆったりとした曲をかけて好きなものを好きなように食べるという感じだ。ブランダオさんは時々自分で焼いた肉をつまみながら、会話を楽しんでいる様子。ヴァンデルレイさんによると「ブラジルではこんな感じ。ホストの男性がずっと焼いていて、周りで思い思いに食べて話している」という。会話の内容も家族のことやら他愛もないことが多いらしい。ブラジルでも日本でもコミュニケーションの場としてシュハスコが欠かせないことが感じられる。
 

 日本との大きな違いは、野菜を焼かないこと。焼くのは肉やソーセージばかりだ。また肉の食べ方はそのまま食べたり、タピオカの原料としても有名なキャッサバ芋を粉にしたものをつけたりする。「ビナグレッチ」というみじん切りにしたトマトやタマネギなどで作った定番のソースもかける。フランスパンにはさむことも多い。
 

 肉以外では、マヨネーズサラダというポテトサラダによく似たものを食べる。この日は記者が取材で行くことを伝えていたことから、わざわざマヨネーズサラダの上にニンジンをアルファベットにカットし、「GIFUSHINBUN」とデコレーションしてくれていた。ブラジルではシュハスコが好きな人は専用のナイフや肉を取り分ける器具を持つらしく、ブランダオさんも保有。しかもナイフには名前まで入れてある本格的なものだった。
 

 一通り肉を食べ終えると、今度はパイナップルを串に刺しだした。それにシナモンパウダーをかけ、シュラスキーニョのように焼く。焼くことで甘みが増す、シュハスコ定番のデザートらしい。ブランダオさんは「シュハスコは肉ばかりになりがち。パイナップルを食べることで、すっきりする」とおなかをさすりながら教えてくれた。パイナップルには肉の分解を助ける酵素が入っていることから、よく考えられたデザートだ。さすが肉好きのブラジル。

キッチンカーでアフォガードを作って出すブランダオさん。最後にコーヒーは欠かせない

最後はコーヒー

 これで終わりかと思ったら、まだ終わらない。今度はコーヒーをいれてくれた。ブランダオさんが仕事でコーヒーを売っているからかと初め思ったが、「シュハスコの最後にコーヒーは欠かせない」のだという。コーヒー大国ブラジルらしく、コーヒーを飲みながらずっと会話を楽しむのがブラジルのやり方だ。

 この日は午後4時までご一緒させてもらったが、ブラジルでシュハスコをする時には朝10時から夜10時まで丸一日やっているという。といっても常に肉を焼いて食べているわけではなく、皆が集まるきっかけにして、会話を楽しんでコミュニケーションをする場としての意味合いが大きい。ブランダオさんは「サッカーのワールドカップの時には必ずシュハスコをやる。前回大きなシュハスコをやったのはブラジルの大統領選の時で、何かイベントがある時には皆で集まってシュハスコをやる」という。

 

会話を楽しみコミュニケーションの場となっているシュハスコ

近所の人が気軽に参加

 ヴァンデルレイさんによると「ブラジルではシュハスコをやっていると、近所の人が気軽に食材を持ってやってきて、参加する」という。それだけ生活に根ざしている。「ブラジル人が日本に来て一番悲しいのは、バーベキューをやる広い場所が少ないこと」だとヴァンデルレイさんは断言する。異国の日本で暮らしていると、余計に仲間とシュハスコをやってコミュニケーションを取りたいと感じるのだろう。

 日本でも、もし近所にブラジル人家庭があり、自宅の庭でシュハスコを楽しんでいたら、彼らにとって欠かせない時間を過ごしていると理解してもらえればと思う。難しいかもしれないが、できればブラジルの近所づきあいのように食材を持って参加するくらい仲良くなれたら素敵だ。

 
鈴木隆宏(すずき・たかひろ) 出版社、経済専門紙を経て2011年に岐阜新聞社入社。経済担当記者をメーンに、本社遊軍や可児支局、西濃支社にも勤務。6月からデジタル報道部。インドア派だが、今シーズンは仕事で3回バーベキューをした。