2月3日は「節分」。豆をまいて鬼(邪気)を追い払うのが古くからの風習だが、鬼退治の〝ツール〟は豆だけではない。酒も、その一つだ。岐阜県高山市清見町の老田酒造店が造る日本酒の代表銘柄は「飛驒自慢 鬼ころし」。〝鬼ころし〟自体は広く普及している名称で、改めて考えるとなかなか過激なネーミングだが、酒の銘柄として正式に採用したのは全国で同店が初めてという。蔵元は「鬼もびっくりするぐらいの辛口。飲んで、体の中に宿っている鬼を追い払って」と酒客を誘う。
スマホ見せてグルメ・買い物お得に 岐阜新聞デジタルクーポン 節分を前に、雪深い高山市の酒蔵を訪れた。蔵元の老田英夫さん(58)によると、創業は江戸時代、1720年代の享保年間。元々は、古い町並みで知られる高山の中心部で酒蔵を構えていたが、2007年に郊外の現在地に移転した。中心部には売店を残すのみだ。
仕込み水は、飛騨山地に染み込んだ雪解けの伏流水。酒米は、岐阜県産「ひだほまれ」を中心に使っている。高山の寒冷な気候や水がそうさせるのか、不思議と辛口になるといい、古くから辛口の酒を造り続けてきた。
「昔は、甘口の酒が上等とされ、辛口の酒は地元の人が普段に飲む酒でした。今と違い、辛口は異端で〝鬼も殺す〟ような口当たりという意味で、鬼ころしと呼ばれていたそうです。全国的に。その呼び名を昭和30年代初め、うちが最初に銘柄として採用したと聞いています」
老田さんは、そう経緯を話す。実際に「鬼ころし」は、国語辞典にも載る普通名詞で「辛口の強い酒」(大辞林)などとある。鬼ころしのままでは商標登録ができないため、同店は「飛驒自慢」を冠に。銘柄化すると「爆発的に売れた」(老田さん)といい、全国の酒蔵も後に続いた。多い時は200を超える銘柄があったようで、これには〝鬼の労働組合〟も戦々恐々としていたに違いない。
さて、老田酒造店の鬼ころし。酒瓶のラベルに、2匹の鬼を懲らしめる鍾馗(しょうき)様の姿が描かれている。古代中国由来の魔よけの鬼神(荒々しく恐ろしい神)で、新型コロナウイルス禍の中でも「疫病退散」を願う酒として紹介し、求められてきたという。
そうした思いを込めて丹念に仕込み、今でも瓶詰めで販売している同店。高山を中心に岐阜県、そして東は東京、西は九州まで流通。オーストラリアやニュージーランド、中国などにも輸出しているといい「英語圏では〝デビルキラー〟と直訳して紹介することもあります」と、老田さん。直訳のインパクトは強烈で、いっそうパワーアップするような印象だ。
同店の鬼ころしの中で、最辛なのが「純米原酒 鬼ころし 怒髪衝天辛口」という。老田さんは、その一升瓶を掲げて「飛騨の酒は淡麗辛口が特徴ですが、これはそれと相反する、ずっしりと重くてヘビーな味わい。味の濃い料理に合うと思います」とイチオシする。
今年の節分、恵方巻とイワシ、豆をつまみに鬼ころしをちびちびと―。酒客にはそんな節分の過ごし方も、乙かもしれない。











