選挙取材のたびにひそかに気になっていたものがある。選挙事務所の壁にびっしりと貼られた「祈 必勝」と書かれた紙。「ため書き」というもので、字体や色使いもさまざま。いったい誰がどんな風に書いているのだろうか。(坂井萌香)

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 長年ため書きを書いているという岐阜県関ケ原町の河合翠山(すいざん)さん(74)を訪ねた。「ため書きは、候補者の当選を願って書かれる応援用のポスターです」と河合さん。檄文(げきぶん)、檄(げき)ビラなどと呼ばれ、首長や議員などから候補者に対して贈られている。

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 河合さんは書道を始めて約30年。岐阜市役所に勤めていた40歳の時に興味を持った。選挙があればため書きの依頼が来るといい、多いときは一回の選挙で10人分書いたこともある。

ため書きについて解説する書家の河合翠山さん=関ケ原町野上

 

「ため書き」に挑戦

 「一度書いてみませんか」。河合さんが紙や墨を用意してくれていたので、チャレンジしてみることに。紙の大きさはたて約110センチ、よこ約80センチ。筆は3種類を使う。正直、自信はあった。記者は中学から大学まで書道を習い、大きな紙や筆にも抵抗はない。高校生の時には書道パフォーマンスも経験した。そんな書道が大好きな記者の作戦は「とにかく勢いよく書く」。選挙事務所に貼られたポスターを思い出し、書き始めた。

初めてのため書きに挑戦する本紙記者(手前)=関ケ原町野上

 小ぶりな筆でまずは紙の右上から「為 候補者の名前殿」と書いていく。よし、これはうまくいった。しかし、次の「祈 必勝」が難しい。筆を変え、大きく書いているつもりだったが、思ったよりも小さい。しまった、と思い「勝」は大きく書いてみたが、最終画のはらいが先に書いた「殿」に阻まれ縮こまってしまった。

 

 はらいが「殿」に阻まれ縮こまった=関ケ原町野上

 「書道作品とは違い、見やすく、目立つように書くことを心がけています」と河合さん。最近では手書きのため書きは少ない。何カ所にも貼られるため、印刷したものが増えてきたからだ。しかし手書きのものはその中でも目立つと河合さんは話す。「点画がはっきり見えるし、文字の配置も自由。印刷より目立った表現ができるんです」。

 

線や点画に思いを乗せ

 河合さんは一枚のため書きを作るのに何度も試作するという。一画一画、「うっ」「ぐっ」と声を出しながら、体全体を使い力を込めて書く。文字のバランスはもちろん、線や点画に思いを乗せて書いている。「勝の最終画のはらいは候補者を支えるように大きく」、「候補者の名前は主役だからしっかり太く」などこだわりを持つ。「見やすさを求める部分では、書道とは違うと言いましたが、思いや願いを込めて書く部分は一緒ですね」と話した。

 

坂井萌香(さかい・もえか)2020年に関西の新聞社に入社後、警察担当と写真部を経験し、今年3月に岐阜新聞社に入社。長野県出身。中学生のときから大好きだった書道を学ぶため、大学時代を岐阜で過ごす。たくさん歩いてたくさん記事を書いて、岐阜の魅力を届けることが目標。