岐阜公園のそばで75年以上営業し、旅行客や地元住民に愛された料理旅館「きんか」=岐阜市大宮町
常連客からきんかに贈られた本や手紙=岐阜市大宮町

 岐阜市大宮町の岐阜公園のそばで75年以上続く家族経営の料理旅館「きんか」が、同所での営業に幕を下ろした。鮎料理や真心を込めたおもてなしで愛されたが、市が進める公園の再整備事業に伴い、立ち退く。主人の河村健治さん(52)は公園付近の金華・長良地区での移転再開を目指しており、「愛着ある場所でもう一度営業したい」と前を向く。

 きんかは戦後間もない1946年ごろ、岐阜公園に隣接する場所で創業。河村さんは滋賀県八日市市(現東近江市)の料亭で修業して料理や接客の腕を磨き、経営者の父の急死に伴い30代で跡を継いだ。旬の食材を用いた質の高い料理や、細やかな気遣いある接客に加え、長良川温泉の貸し切り風呂でくつろげるため常連客も多かった。

 料亭としても親しまれ、味や見た目にこだわった料理は地元客からも愛された。営業を終えることは広く知らせていなかったが、耳にした常連客からは「どうしてもまた来たい」と問い合わせる声が後を絶たなかったという。

 心温まる交流もあった。5年ほど前から年5、6回訪れていた名古屋市の家族は最後に宿泊した際、きんかの料理や従業員との写真をまとめた本や、2人の子どもたちがつづった感謝の手紙を贈ってくれた。本の表題は「きんかで、本当に『美味(おい)しいもの』を知りました」。河村さんは「営業を終えることでつらい時期だったが、本や手紙が後押しになってまた頑張ろうという気持ちになった」と振り返る。

 河村さんは、旅館や料亭など業態はまだ未定ながらも、移転に向けた準備を続けている。「今まで営業できたのはお客さまの支えがあったからこそ。場所や業態は変わっても何らかの形で続けたい」と話し、なじみの客と触れ合える日が来ることを願っている。