2026年5月12日
東京都健康長寿医療センター
早稲田大学
日本の成人における座りすぎに伴う慢性疾患による 経済的負担は年間約2,825億円と推計
| 発表のポイント ●公的な全国統計情報等 ※1をもとに、人口寄与割合(PAF)※2を用いた費用推計により、座りすぎ(1日8時間以上の座位行動)に関連する慢性疾患の経済的負担(直接医療費※3と間接費※4)を推計した ●座りすぎに関連する慢性疾患による経済的負担は年間約2,825億円(95%信頼区間:2,589億~3,060億円)と推計された ●内訳は、直接医療費が約2,384億円(95%信頼区間:2,153億~2,615億円)、間接費が約441億円(95%信頼区間:243億~610億円)であった ●外来医療費では糖尿病による経済的負担が最も大きく、入院医療費では認知症による経済的負担が最も大きかった |
東京都健康長寿医療センター研究所の光武 誠吾(みつたけ せいご)研究員(早稲田大学スポーツ科学研究センター・招聘研究員)と早稲田大学スポーツ科学学術院の岡 浩一朗(おか こういちろう)教授らの研究グループは、日本の成人における座りすぎ『1日8時間以上の座位行動』が、慢性疾患を通じてどの程度の経済的負担をもたらしているかということを、公的な全国統計情報等に基づいて推計しました。その結果、2021年度の経済的負担は約2,825億円にのぼることが示されました。
本研究成果は、Oxford University Press発行の国際学術誌『Journal of Public Health』に、論文「The Economic Costs of Excessive Sedentary Behaviour in Japan」(DOI: 10.1093/pubmed/fdag029)として2026年4月24日に掲載されました。
(1) これまでの研究で分かっていたこと(科学史的・歴史的な背景など)
高齢化の進行に伴い、慢性疾患の予防と医療費の適正化は、各国に共通する重要な公衆衛生上の課題となっています。こうした中、座位行動(起きている時間に座位や半臥位、臥位などで過ごすこと)は、身体活動とは独立して、循環器疾患、糖尿病、がん、認知症、うつ病など複数の慢性疾患と関連することが報告され、注目を集めています。世界保健機関(WHO)も、身体活動だけでなく座位行動に着目した指針を公表しており、「座りすぎ」を減らすことの重要性は国際的に共有されてきました。欧米では、国レベルのデータを用いて、座りすぎが慢性疾患を通じて大きな経済的負担をもたらすことが示されてきました。一方、アジアでは、日本を含め、座りすぎによる国全体の経済的負担を推計した研究や、国際的にもその負担を外来医療費と入院医療費に分けて詳細に検討した研究は限られています。
(2) 今回の研究で新たに実現しようとしたこと、明らかになったこと
本研究では、公的な全国統計情報等を用いて、座りすぎ(1日8時間以上の座位行動)に関連する慢性疾患に伴う経済的負担を、人口寄与割合(PAF)を用いた費用推計により、直接医療費と間接費の両面から推計することを目指しました。さらに、これまで明らかでなかった、座りすぎによる直接医療費を外来医療費と入院医療費に分けて示すことを試みました。
解析の結果、2021年度における座りすぎに関連する慢性疾患の経済的負担は約2,825億円と推計され、うち直接医療費は約2,384億円、間接費は約441億円でした。疾患別にみると、総費用では座りすぎに関連する循環器疾患の負担が大きく、外来医療費では糖尿病、入院医療費では認知症の負担が最も大きいことが明らかになりました。
(3) 研究の波及効果や社会的影響
本研究により、座りすぎは健康への影響にとどまらず、日本においても一定の経済的負担を生じさせていることが示されました。また、座りすぎに関連する慢性疾患による経済的負担は、入院と外来では異なることが示唆されました。外来では糖尿病、入院では認知症による経済的負担が大きかったことから、座りすぎへの対策は、疾患や医療の場面に応じて検討していく必要があると考えられます。
座りすぎを減らすための健康づくり施策や啓発活動を進めることは、慢性疾患の予防だけでなく、将来的な経済的負担の軽減につながる可能性があります。特に高齢化が進む日本では、慢性疾患による医療費の増大が今後も見込まれるため、座位行動の改善を含む予防的な取組の重要性は今後さらに高まると考えられます。
(4) 今後の課題
本研究の課題として、以下の点が挙げられます。本研究で示した経済的負担は、直接医療費には処方薬費や介護サービス費、保険診療外の費用など、間接費には家族介護や欠勤などの社会的負担を十分に含んでいないため、控えめな推計となっており、本来は更なる経済的負担が生じる可能性があります。また、医療費は主病名ベースで集計されているため、高齢者に多い併存疾患の影響も十分には反映できていません。今後は、より妥当性の高い方法で座りすぎを評価し、より包括的な費用推計を行うとともに、座りすぎを減らす介入が慢性疾患の予防だけでなく、医療費の抑制にどの程度つながるのかを検証することが重要です。
(5) 研究者のコメント
■東京都健康長寿医療センター研究所 光武 誠吾 研究員
本研究の結果から、座りすぎは本人の健康を害するだけでなく、日本社会全体においても一定の経済的負担を生じさせていることが示されました。個人が座りすぎない生活を心がけることは重要ですが、それだけでなく、職場や地域で長時間座り続けにくい環境を整えることや健診や保健指導の中に座位行動対策を組み込むなど、社会全体で座りすぎの少ない生活を送れる仕組みを作ることが重要であると考えます。
■早稲田大学スポーツ科学学術院 岡 浩一朗 教授
本研究は、座りすぎに伴う慢性疾患により生じる経済的負担を推計したアジアで初の研究になります。これまでもイギリス、フランス、フィンランド、カナダ、オーストラリア等の諸外国において同様の研究が行われてきましたが、日本においても座りすぎの経済的負担は無視できない水準であることが分かりました。今回の推計では計上できていない直接医療費・間接費も多く、更に大きな経済的負担が生じるのは明白です。厚生労働省が示した指針「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」においても、座位行動の悪影響が注目されており、わが国における公衆衛生上の大目標である健康寿命の延伸に関わって、座りすぎ対策に関係した取り組みや制度・政策を立案していく際に有益な情報になることは間違いありません。
(6) 用語解説
※1 公的な全国統計情報等
国が公表している全国規模の統計行政データなどを指します。今回の研究では、座りすぎの割合を把握するために国民健康・栄養調査、医療費を把握するために国民医療費、死亡数を把握するために人口動態統計、さらに賃金や就業率を把握するために賃金構造基本統計調査および労働力調査を組み合わせて、日本全体における座りすぎに関連した慢性疾患による経済的負担を推計しました。
※2 人口寄与割合(PAF: Population Attributable Fraction)
ある要因がなかったと仮定した場合に、その要因に関連して生じている病気が、集団全体でどの程度減少すると考えられるかを示す指標です。本研究では、国民健康・栄養調査から得た座りすぎの有病率と、先行研究で報告された座りすぎに関連する慢性疾患の相対リスクを用いて算出しました。
※3 直接医療費
医療機関での診療などにかかる費用のことです。本研究では、国民医療費のうち、医科診療医療費(保健診療の対象となる診療行為にかかる費用)から外来医療費と入院医療費を推計しました。なお、処方薬や入院時の食事・生活費、訪問看護にかかる費用などは含まれていません。
※4 間接費
病気の治療費そのものではなく、病気によって生じる社会的な経済的損失を費用に換算したものです。今回の研究では、座りすぎに関連する慢性疾患による早期死亡に伴って失われる就労や生産活動の損失を、間接費として推計しました。
(7) 論文情報
雑誌名:Journal of Public Health (Oxford University Press)
論文名:The Economic Costs of Excessive Sedentary Behaviour in Japan
執筆者名(所属機関名):
光武 誠吾(東京都健康長寿医療センター研究所)
柴田 愛(筑波大学体育系)
石井 香織(早稲田大学スポーツ科学学術院)
Neville Owen(Swinburne University of Technology, Australia)
岡 浩一朗(早稲田大学スポーツ科学学術院)
掲載日時(現地時間):2026年4月24日
掲載日時(日本時間):2026年4月24日(オンライン掲載)
掲載URL:https://academic.oup.com/jpubhealth/advance-article/doi/10.1093/pubmed/fdag029/8661690
(8) 研究助成
研究費名:厚生労働科学研究費補助金 (循環器疾患・糖尿病等生活習慣対策総合研究事業)(22FA1004)
研究課題名:健康づくりのための身体活動・運動の実践に影響を及ぼす原因の解明と科学的根拠に基づく対策の推進のためのエビデンス創出
研究代表者名(所属機関名):澤田 亨(早稲田大学)
研究分担者名(所属機関名):岡 浩一朗(早稲田大学)









