光のピンセットによる非接触操作や、光と磁気を融合した次世代情報技術に道

2026年9月16日
早稲田大学

光のスキルミオンで磁気スキルミオンを操る 光のピンセットによる非接触操作や、光と磁気を融合した次世代情報技術に道

【ポイント】

・光と物質に存在する2種類のスキルミオン※1、「光のスキルミオン※2」と「磁気スキルミオン※3」の相互作用を理論的に解明しました。

・光のスキルミオンを磁気スキルミオンに照射すると、回転・スキップ・トロコイド旋回※4という3種類の特徴的な運動が現れることを発見しました。

・光のスキルミオンが持つ「ヘリシティ」※5を変えるだけで、磁気スキルミオンがスキップする位置や運動軌道を選択的に制御できることを明らかにしました。

・光で磁気スキルミオンを捕捉・移動・制御する「光のピンセット」の実現や、情報担体としての磁気スキルミオンを光スキルミオンで自在に操作・制御するような光技術と磁気デバイスを融合した次世代情報技術への応用が期待されます。

光と磁気という異なる世界には、どちらにも「スキルミオン」と呼ばれるトポロジカルな構造※6が存在します。この二つが出会うと、どのような現象が起こるのでしょうか。
 早稲田大学理工学術院の望月維人(もちづきまさひと)教授とLan Bo(ラン・ボー)日本学術振興会外国人特別研究員、早稲田大学理工学術院理工学総合研究所のXichao Zhang(張溪超)研究院准教授(研究当時)らの研究グループは、コンピューターシミュレーションにより、光のスキルミオンを磁気スキルミオンに照射すると、回転・スキップ・トロコイド旋回という3種類の特徴的な運動が生じることを明らかにしました。さらに、光のスキルミオンの「ヘリシティ」と呼ばれる状態を変えることで、磁気スキルミオンの運動軌道を選択的に制御できることも発見しました。
 本成果は、光をピンセットのように用いて磁気スキルミオンを捕捉・移動・制御する技術や、光技術と磁気技術を融合した次世代情報技術への応用につながることが期待されます。

本研究成果は、2026年9月14日に国際学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

磁性体薄膜中の磁気スキルミオンに光のスキルミオンを照射した時に生じる「回転」、「スキップ」、「トロコイド旋回」と呼ばれる特徴的な運動の概念図。回転運動では、磁気スキルミオンが光の中心の周囲を回る。スキップ運動では、円軌道を運動していた磁気スキルミオンが特定の場所で急に軌道を変える。さらに、条件によっては小さなループを繰り返しながら進むトロコイド旋回運動が現れる。

 

(1)これまでの研究で分かっていたこと 

「スキルミオン」は、もともと素粒子を記述するために1960年代に提唱されたトポロジカルな構造です。その後、同じ数学的特徴を持つ構造が、磁性体をはじめ、液晶や光など、さまざまな物理系に現れることが分かってきました。なかでも、「磁気スキルミオン」は、磁性体中の磁化が渦状に配列してできるナノメートルサイズの磁気構造です。2009年にその存在が実験的に確認されて以降、世界中で活発に研究されてきました。小さく、安定で、粒子のように移動させることができるため、次世代のメモリや論理素子、コンピューティング技術などにおける新しい情報担体として期待されています。

一方、近年、光の偏光などが空間的にスキルミオンと同じ構造を形成する「光のスキルミオン」が発見され、トポロジカルフォトニクス※7の分野で注目されています。光のスキルミオンは、光の位相や偏光、角運動量などを利用できることから、精密計測、光操作、情報処理などへの応用が研究されています。

このように、磁気スキルミオンと光のスキルミオンは、ともに「スキルミオン」という共通のトポロジー※6を持っています。しかし、一方は物質中の磁気構造、もう一方は光がつくる構造として、それぞれ異なる研究分野でほぼ独立に研究されてきました。そのため、光のスキルミオンと磁気スキルミオンを実際に相互作用させると何が起こるのかは、これまで十分に明らかになっていませんでした。


(2)今回の研究で明らかになったこと

 本研究では、光のスキルミオンを磁気スキルミオンに照射すると何が起こるのかを、コンピューターシミュレーションによって理論的に調べました。光のスキルミオンは、異なる軌道角運動量※8を持つ2つの光を重ね合わせることで作りました。この構造化光※9を磁性体薄膜中の磁気スキルミオンに照射し、その運動を詳細に解析しました。

その結果、磁気スキルミオンには、「回転」、「スキップ」、「トロコイド旋回」という3種類の特徴的な運動が現れることを発見しました。回転運動では、磁気スキルミオンが光の中心の周囲を回ります。スキップ運動では、円軌道を運動していた磁気スキルミオンが特定の場所で急に軌道を変えます。さらに、条件によっては小さなループを繰り返しながら進むトロコイド旋回と呼ばれる運動が現れます。

研究グループは、これらの運動が生じる仕組みも明らかにしました。光のスキルミオンを構成する光には、磁気スキルミオンを一定の範囲に閉じ込める力、円周方向に動かす力、運動に振動を加える力があり、それらが組み合わさることで多彩な運動が生じます。つまり、単に「光の強いところに磁気スキルミオンが引き寄せられる」のではなく、光が持つ空間構造や角運動量そのものが磁気スキルミオンの運動を生み出していることが分かりました。

特に重要なのが、スキップ運動です。光のスキルミオンのヘリシティ(光のスキルミオンの内部構造を特徴づける角度)※5を変えると、磁気スキルミオンがスキップする位置もそれに応じて移動しました。さらに、その位置は磁気スキルミオン自身のカイラリティ(磁化の巻き方)※5によっても変化しました。これにより、光の状態を変えるだけで、磁気スキルミオンの運動軌道を選択的に制御できることを明らかにしました。

さらに、光のスキルミオンが空間を伝わる場合についても解析しました。その結果、光が進むにつれて変化する位相によって、磁気スキルミオンがスキップする位置も変化することが分かりました。これは、光の進行方向も含めた3次元的な磁気スキルミオンの光制御へ発展する可能性を示しています。

 

図1:磁性体薄膜中の磁気スキルミオンに光のスキルミオンを照射した場合に誘起される磁気スキルミオンの運動のシミュレーション結果。(a) 散逸が小さい場合の磁気スキルミオンの軌跡。「回転」、「スキップ」に加え、明確な「トロコイド旋回」が見られる。 (b) 回転運動、スキップ運動、トロコイド旋回運動の概念図。 (c) 散逸が大きい場合の磁気スキルミオンの軌跡。明確な「トロコイド旋回」は見られない。 (d) スキップ運動が起こる位置は、磁気スキルミオンのタイプと光のスキルミオンのヘリシティに依存して異なる。 (e) 進行する光の断面に現れる光スキルミオン。そのヘリシティは進行方向の位置によって異なる。そのため、進行する光のどの位置に磁性体薄膜を置くか、あるいは光源位置を変えることで、スキップ運動が起こる位置を制御することができる。

 

(3)研究の波及効果や社会的影響

今回の研究は、これまで別々の分野で研究されてきた「光のトポロジー」と「磁気のトポロジー」を結びつけた点に大きな学術的意義があります。光のスキルミオンが持つ位相や偏光、角運動量などの情報を利用して磁気スキルミオンの運動を制御できることを示したことで、トポロジカルフォトニクスとスピントロニクス※10を融合する新しい研究領域へ発展することが期待されます。

また、磁気スキルミオンは、ナノメートルサイズで安定して存在し、粒子のように移動できることから、次世代のメモリや論理素子、コンピューティング技術などの情報担体として研究されています。今回示した方法では、電極などを介して直接操作するのではなく、光を用いて非接触で磁気スキルミオンを制御できる可能性があります。

例えば、光によって誘起される回転運動を利用すれば、磁気スキルミオンを光のピンセットでつまむように捕捉し、移動させる技術につながる可能性があります。また、光の状態によってスキップ運動の軌道を選択できる性質は、光が持つ情報を磁気スキルミオンの運動へ変換する仕組みとして利用できる可能性があります。さらに、トロコイド旋回運動は、光によって特性を調節できる微小な発振器への応用も考えられます。

このような技術が実現すれば、光による高速な情報伝送と、磁気による情報の保持・処理を結びつける新しい光・磁気融合型情報技術の実現につながる可能性があります。ただし、本研究は理論・シミュレーションによって新しい原理を示した段階であり、実際のデバイスへの応用には、今後、実験による検証や光と磁性体を効率よく相互作用させる技術の開発が必要です。

 

(4)課題、今後の展望

本研究は、光のスキルミオンと磁気スキルミオンの相互作用によって新しい運動を生み出し、その軌道を光で制御できることを理論とシミュレーションによって示した段階です。したがって、今後の最も重要な課題は、今回予測した現象を実際の磁性体と光を用いた実験で検証することです。

そのためには、ナノメートルサイズの磁気スキルミオンに対して、光のスキルミオンの複雑な空間構造を保ったまま光を照射し、両者を十分な強さで相互作用させる必要があります。通常の光では照射できる領域の大きさに限界があるため、光を微小な領域に閉じ込める技術などを利用することが重要になると考えられます。

また、今回の研究では理想化した条件のもとで基本的な相互作用を明らかにしました。実際の物質では、温度による揺らぎや試料中の欠陥、材料ごとの性質なども磁気スキルミオンの運動に影響します。今後は、こうした現実的な条件のもとでも、今回見いだした特徴的な運動や光による制御が安定して現れるかを調べる必要があります。

将来的には、実験による検証を進めるとともに、磁気スキルミオンの捕捉・輸送、光の状態による軌道制御、光信号から磁気信号への変換などへ研究を発展させたいと考えています。さらに、光の空間構造を自在に設計する技術と組み合わせることで、光によって磁気スキルミオンを非接触かつプログラム可能な形で操作する技術へと発展することが期待されます。

 

(5)研究者のコメント

「光と磁気というまったく異なる世界に存在する二つのスキルミオンが出会ったら何が起こるのだろう」という素朴な好奇心がこの研究の出発点でした。実際に調べてみると、光によって磁気スキルミオンに多彩な運動を生み出し、その軌道まで制御できることが分かりました。基礎科学としての面白さに加え、将来、光で磁気を自在に操る新しい技術へ発展することを期待しています。

 

(6)用語解説

※1 スキルミオン

もともとは素粒子を記述する理論の中で提唱された、トポロジーによって特徴づけられる構造です。その後、磁性体や液晶、光など、さまざまな物理系に同様の構造が現れることが分かっています。本研究では、磁気と光に現れる二つのスキルミオンを扱っています。

 

※2 光のスキルミオン

光の偏光などが空間的にスキルミオンと同じトポロジカルな構造を形成したものです。本研究では、異なる軌道角運動量を持つ二つの光を重ね合わせることで光学スキルミオンを構成し、磁気スキルミオンとの相互作用を調べました。

 

※3 磁気スキルミオン

磁性体の中で、原子が持つ微小な磁石(磁化)の向きが渦状に配列してできるナノメートルサイズの磁気構造です。小さく安定で、粒子のように移動させることができるため、次世代のメモリや情報処理技術への応用が期待されています。

 

※4 トロコイド旋回

円運動と並進運動が組み合わさって生じる、ループを伴う特徴的な運動です。本研究では、光学スキルミオンを照射した磁気スキルミオンに、回転運動やスキップ運動と並んで、このトロコイド旋回運動が現れることを発見しました。

 

※5 ヘリシティとカイラリティ

ヘリシティは、本研究では光学スキルミオンの内部構造の向きを特徴づける量です。一方、カイラリティは磁気スキルミオンにおける磁化の巻き方を特徴づけます。本研究では、光のスキルミオンのヘリシティと磁気スキルミオンのカイラリティの組み合わせによって、磁気スキルミオンがスキップする位置が変化することを明らかにしました。

 

※6 トポロジーとトポロジカルな構造

「トポロジー」とは、物体やベクトル場の形が持つ連続的に変形しても変わらない性質、あるいはそれに着目して分類する数学的な考え方です。物理学では、磁化ベクトルや光の偏光などが空間の中でどのように分布・配列しているかを特徴付けるためにも用いられます。特徴的なトポロジーを持つ構造のことを「トポロジカルな構造」と呼びます。磁気スキルミオンと光のスキルミオンは、異なる物理系に存在しながら共通するトポロジーを持っています。

 

※7 トポロジカルフォトニクス

トポロジーの考え方を光に応用し、新しい光の状態や伝搬・制御方法を研究する分野です。本研究は、光のスキルミオンを扱うトポロジカルフォトニクスと、磁気スキルミオンを扱うスピントロニクスを結びつける研究と位置づけられます。

 

※8 (光の)軌道角運動量

光が空間的にねじれた波面を持つことによって生じる角運動量です。本研究では、異なる軌道角運動量を持つ二つの光を重ねることで光のスキルミオンを作り出しています。また、その軌道角運動量が磁気スキルミオンを円周方向に動かす働きをすることが示されました。

 

※9 構造化光

光の強さだけでなく、位相、偏光、角運動量などが空間的に意図して設計された光です。通常の単純な光にはない複雑な空間構造を持たせることで、物体の操作や計測、情報処理などへの利用が研究されています。本研究で用いた光のスキルミオンも構造化光の一種です。

 

※10 スピントロニクス

電子が持つ電気的な性質である「電荷」に加えて、磁気的な性質である「スピン」を利用して情報を記録・処理する技術や、その基礎となる学問分野です。磁気スキルミオンは、将来のスピントロニクスデバイスにおける情報担体の候補として研究されています。


(7)論文情報

雑誌名: Physical Review Letters

論文名: Magnetic Skyrmion Interacting with Optical Skyrmion

執筆者名(所属機関名):

Lan Bo (早稲田大学理工総研・研究院講師,日本学術振興会外国人特別研究員)

望月維人/Masahito Mochizuki (早稲田大学理工学術院・教授)

張 溪超/Xichao Zhang (研究当時:早稲田大学理工総研・研究院准教授,現:香港科技大学・中国)

Jian Chen(上海理工大学・中国)

Yan Zhou(香港中文大学・中国)

Chengwei Qiu(国立シンガポール大学・シンガポール)

掲載⽇時(⽇本時間): 2026年9月14日

掲載URL: https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/hylp-trxp

DOI: https://doi.org/10.1103/hylp-trxp

 

(8)キーワード

磁気スキルミオン、光のスキルミオン、トポロジー、構造化光、スピントロニクス、トポロジカルフォトニクス

 

(9)研究助成(外部資金による助成を受けた研究実施の場合)

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 基盤研究(A)

研究課題名:スキルミオンが持つ新しい物質機能・物性現象の開拓とスキルミオニクスの創出

課題番号:JP25H00611

研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

 

研究費名:学術変革領域研究(A) 『キメラ準粒子が切り拓く新物性科学』

研究課題名:キメラ準粒子の理論

課題番号:JP24H02231

研究代表者名(所属機関名):村上修一(東京大学)

 

研究費名:国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進授業CREST

研究課題名:Beyond Skyrmionを目指す新しいトポロジカル磁性科学の創出

課題番号:JPMJCR20T1

研究代表者名(所属機関名):于秀珍(理化学研究所)

 

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 特別研究員奨励費(外国人特別研究員)

研究課題名:トポロジカルスピンテクスチャの多面的操作の理論的研究

課題番号:25KF0118

研究代表者名(所属機関名):望月維人(早稲田大学)

 

研究費名:日本学術振興会 科学研究費助成事業 若手研究

研究課題名:ナノ機能界面のトポロジカル磁気テクスチャのデバイス機能の創出

課題番号:JP25K17939

研究代表者名(所属機関名):ZHANG XICHAO(早稲田大学)