この形は、本来つくれないはずでした。ガラス破片と漆が一体化した「包 -TsuTsuMu-」シリーズ初のステム付き作品。ワイングラス「澪 -Mio-」とブランデーグラス「韻 -In-」を発表。

『包 -TsuTsuMu- 』シリーズの新作:ブランデーグラス「韻 -In-」、ワイングラス「澪 -Mio-」360ml 、530ml
愛知県弥富市の漆作家・武藤久由は、ガラスと漆を融合させた『包 -TsuTsuMu-』シリーズより、ワイングラス「澪 -Mio-」およびブランデーグラス「韻 -In-」を2026年10月1日より発売しています。シリーズとして初めて、口がすぼまった形状と、ステム(脚)を備えた形状に取り組んだ作品です。
『包 -TsuTsuMu-』は、器の内側になる部分に型を置き、その周りに漆を重ねて形をつくります。漆が形を保てる厚みになったところで、型を抜く。ところが今回の「澪」「韻」は、この工程では本来成立しないはずの形状になっています。
『包 -TsuTsuMu-』とは ── 漆部分に、芯がない器
『包 -TsuTsuMu-』は、割れたガラス破片と漆が、ひとつの器として一体化したシリーズ。
特徴的なのは、漆の部分に芯材が存在しないことです。
木地の上に漆を塗る、あるいはガラスの表面に漆を塗るのではありません。ガラス破片以外の部分は、漆を25回以上塗り重ねることによって、"漆だけ"で構築されています。
漆を塗膜ではなく構造体として活用しています。
漆だけの部分と、ガラス破片を一体化させた唯一無二の器です。
漆部分の厚みは約1mm。
漆だけを25回以上塗り重ねた厚みは、約1mm。
芯を持たない漆が、器として成立する最小の厚みです。
この1mmは、そのまま唇に触れる厚みになります。
木地の上に漆を重ねる通常の漆器では、飲み口は「芯材+漆」の厚みとなります。
しかし『包 -TsuTsuMu-』は芯材を持たないため、約1mmの薄い飲み口を実現しています。薄さに加え、漆そのものが持つ柔らかさと、芯材を持たないことで生まれる軽さもあり、口当たりはとても繊細です。器の存在を意識することなく、液体が自然に流れ込みます。
この、漆だけで約1mmの構造体をつくり、ガラスなどの異素材と一体化させる技法は、「コア漆」として特許を取得しています(特許第6570131号)。

使用するガラスは破片

『包 -TsuTsuMu- 』 ブランデーグラス「韻 -In-」

漆だけの薄さ約1mmの飲み口
制作工程 ── 漆は、1日に1回しか塗れない
割ったガラス破片を、型の表面に仮止めします。ガラスが置かれていない領域に、漆を塗り重ねていきます。
漆は硬化が遅いので、1日に塗れるのは多くても1回だけです。25回以上の塗り重ねは、それだけの日数を重ねることでもあります。
およそ20回を重ねた段階で、型から外します。外したあとも、さらに漆を塗り重ね、最終的に約1mmの厚みに達したところで完成です。
そして、ひとつの矛盾
口がすぼまっていれば、内側の型は抜けません。
ワイングラスもブランデーグラスも、器のもっとも広い部分は開口部より下にあります。上へ向かって狭まっていく形です。内側から形をつくり、型を抜いて仕上げるこの技法にとって、それは本来、成立しない形でした。
シリーズがこれまでぐい呑み、ショットグラス、タンブラーといった、まっすぐ、もしくは口が広がった形状を中心としてきたのは、そのためです。

『包 -TsuTsuMu- 』 ワイングラス「澪 -Mio-」360ml

『包 -TsuTsuMu- 』 タンブラー「結-Yui-」
それでも、この形でなければならなかった
ワイングラスやブランデーグラスの口がすぼまっているのは、単に見た目のためだけではありません。立ちのぼる香りを器の中に留め、飲み手のもとへ運ぶための構造です。その機能から生まれる「用の美」ともいえる、グラマラスな佇まいも、この形に取り組んだ理由のひとつです。
ただし、制作の難易度は上がります。それでも、難しさを避けてしまえば、『包 -TsuTsuMu-』のワイングラスやブランデーグラスは生まれません。あえての挑戦でした。
幾度かの試作を経て、コア漆の工程にもう一段の工夫を加えることで、この形状に到達しました。
従来の『包 -TsuTsuMu-』タンブラーは、完成までに約3ヶ月を要します。一方、「澪」「韻」は、口がすぼまった形状に加え、器自体も大きく、工程がさらに複雑になり、完成までに約5ヶ月を要しました。

『包 -TsuTsuMu- 』 ワイングラス「澪 -Mio-」530ml
悠久と刹那 ── なぜ、ガラスを割るのか
ガラスは、意図した形にカットするのではなく、あえて割っています。割れる瞬間にしか生まれない、偶然の形を作品に取り込むためです。
ゆっくりと時間をかけて重ねられ、硬化した後は長くその姿を保つ漆と、一瞬の破断によって生まれるガラスの形。その「悠久」と「刹那」を、ひとつの器の中で結ぶことも、『包 -TsuTsuMu-』に込められたテーマのひとつです。
ガラス破片のかたちはすべて異なるため、器の景色は一点ごとに変わります。
佇まい ── 光で、溜色の表情が変わる
漆の色は溜色(ためいろ)。朱漆の上に、琥珀色の透明感をもつ透漆を塗り重ねることで現れる色です。下の朱が透漆を通してほのかに浮かび、奥行きのある優しい表情が生まれます。
『包 -TsuTsuMu-』には「潤(じゅん)」「昂(こう)」「兆(きざし)」「朔(さく)」という4つの意匠があります。「澪」「韻」は、このうち溜色一色で仕上げる「潤」で制作しました。初めてのステム付きにあたり、最も相応しいと考えたからです。
強い光のもとでは赤みが浮かび、光が弱まれば、深く落ち着いた色合いに。置かれた場所と、その時々の光によって表情が変わります。
金箔は、底の方から上へ向かうにつれて細かくなり、まるで底からエネルギーが湧き上がっていくような景色をつくります。
ガラスの部分からは、器の向こう側が透けて見えます。酒を注げば、その色がガラス越しにちらりと覗く。漆器でありながら、中身が見える器です。
漆とガラスの境目は、漆とガラス両者の厚みの差がそのまま残ります。器の上部はガラスが薄く、漆の面とほぼ揃っていますが、中段から下はガラスのほうが厚く、手のひらにも、目にも、起伏として伝わります。
平らに均すことを目指してはいません。この凹凸こそが『包 -TsuTsuMu-』ならではの質感だからです。

『包 -TsuTsuMu- 』 ワイングラス「澪 -Mio-」530ml

「入(にゅう)」の部分
※「入(にゅう)」は、制作中にガラスに生じた割れを繋ぎ、その線に沿って漆を施したものです。制作の中で偶然生まれた変化を隠すのではなく、その器が過ごした時間の軌跡として景色に残しています。
ステム ── 景色を、手で隠さない
「澪」「韻」は、シリーズで初めてステム(脚)を持つ作品でもあります。
タンブラーやぐい呑みは、手に取った瞬間、指が器の景色を覆います。ステム付きの器では、支えるのは細い脚だけです。飲んでいるあいだ、漆とガラスと金箔の景色はずっと見えたままになります。そこに、酒の色が加わります。
透明なガラスの脚は光を通すため、その景色を宿したボウルだけが、宙に浮いているように見えます。持ち上げ、揺らし、香りを立て、口へ運ぶ。その一連の動作のすべてが、そのまま景色を眺める時間になります。

『包 -TsuTsuMu- 』 ワイングラス「澪 -Mio-」530ml
制作過程の公開から
なお「澪 -Mio-」530mlは、完成を待たずに1点が売約となりました。制作途中の様子をSNSで公開したところ、それを見た方から取り置きの申し出があったものです。それぞれの器に使用するガラス破片の形状も公開しており、完成前の段階で景色を選ぶ判断材料となりました。

制作開始当初、オンラインショップには使用するガラス破片の画像を掲載

制作の様子の画像と動画を、SNSに随時アップ

工程を制作者自ら解説する動画より

制作中にしか見ることができない、少しずつの変化を紹介し続けた
作品概要

- 素材:ガラス、漆、金箔
- 技法:コア漆(特許第6570131号)/漆の厚み約1mm
- 意匠:潤(じゅん)
- 制作期間:約5ヶ月
- 寸法: 澪 -Mio- 530ml/高さ22cm・口径6.5cm・最大径9cm
澪 -Mio- 360ml/高さ18cm・口径5.5cm・最大径7cm
韻 -In- /高さ13cm・口径6cm・最大径9cm
- 制作:すべて手作業による一点物。ガラス破片のかたちはすべて異なるため、景色は一点ごとに異なります
- 発売日:2026年10月1日
- 取扱:オンラインショップ(https://urushi610.thebase.in/)
武藤久由について
愛知県弥富市を拠点とする漆作家。経済産業大臣指定 名古屋仏壇伝統工芸士。
仏壇制作で培われた漆技術を土台に、ガラスと漆を融合させた独自の表現を展開。漆だけで構築した構造体と、ガラスなどの異素材を一体化させる「コア漆」技法で特許を取得(特許第6570131号)。銀座 蔦屋書店、京都 蔦屋書店にて常設展示。弥富市のふるさと納税返礼品にも採用されている。
公式サイト:https://urushimuto.com/
オンラインショップ:https://urushi610.thebase.in/
Instagram:@urushi_muto (https://www.instagram.com/urushi_muto/)
本件に関するお問い合わせ
工房 漆 武藤
担当:武藤 久由(むとう ひさよし)
所在地:愛知県弥富市五之三町福島141
TEL:0567-65-2818
Email:urushi.muto@gmail.com
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