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ほお葉みそに必須「高山コンロ」素材は能登産 周りの文字は謡曲「高砂」



  • 文字がびっしりと書かれた高山コンロ=高山市上二之町、折庄 
  • こんろの原料の珪藻土=石川県珠洲市、能登燃焼器工業 

 文字がびっしりと書かれたこんろ。岐阜県高山市などの飲食店で、ほお葉みそや牛肉とのセットで見掛けたことのある人も多いはず。土のような表面に、文字が書かれている。飛騨地方の民芸品にも見えるが、「高山コンロ」と呼ばれるこの一品は、雰囲気だけでなく機能も優れている。考案した飛騨人の思い、能登半島産の素材、そして高山の町とフィットしたことで、すっかり定着した。

 ほお葉みそを焼くのに使う飲食店「寿々や」(高山市)の店員白川哲平さん(40)は、詳しいことを知らなかった。ただ、創業した50年以上前から使っており「耐熱性があり、雰囲気もいい。なくてはならない道具だ」と話す。飛騨の歴史に詳しい学芸員田中彰さん(70)は50年近く前、市の商工関係の部署に配属され、全国で開く物産展に携わった。春慶塗や酒と並んでよく売れたという。当時は「大臣コンロ」と呼んだそうで「字は読めないし、不思議な商品だと思っていた」と振り返る。

 「飛騨人物事典」には旧吉城郡神岡町生まれの金子円平さんが「大臣コンロ考案者」とある。「1949年、珪藻土(けいそうど)による家庭用コンロ『大臣コンロ』を考案して実用新案を得た」と記されている。

 高山コンロを卸売りする折庄(同市)社長の高藤朋子さん(55)によれば、金子さんは卓上で気軽に、家族で囲んで料理を焼ける物をと開発したそうだ。陶器の販売を営んだ義父は材料を仕入れ、金子さんと共に製造、後に高山市らしさを出すため「高山コンロ」と名付けた。周りに書かれた文字の部分は和紙だ。土の粉が手に付かないようにするためで、縁起を担ぎ、おめでたい内容の謡曲「高砂」の文句を記した。折庄は数年前、義父の店からこんろの卸売りを引き継いだ。製造を手掛けるのは石川県珠洲市の業者で、和紙を送り貼ってもらっている。

 能登半島の最北端に位置する珠洲市には珪藻土が豊富にあり、江戸時代には輪島塗の下地やかまどに使われた。昭和20、30年代にはこんろ、七輪、れんがの製造など関連の産業が最盛期だった。

 折庄が依頼する能登燃焼器工業社長の舟場和夫さん(69)から、作り方を教わった。土を適当な大きさに切り、機械で穴を開けたり、のみで彫ったりして形を整える。約900度で40時間ほど焼き、和紙を貼って仕上げるのが大まかな流れだ。「断熱効果が高い商品だ」と、珪藻土のこんろの特長を明かす。

 40、50年前には高藤さんの義父が営む店へ素の状態のこんろを送り、店が紙を貼って販売。20年ほど前に、貼らない物と貼った物を送るようになり、貼らない物については、貼る作業が高山市の農家の農閑期の仕事だったそう。そうした農家も減り、能登燃焼器が全てを任されるようになった。舟場さんは「高山市へ年に万単位で送ったこともあるが、今では需要が減った」と振り返る。

 インターネットで調べてみると、高山コンロと同じような物が「飛騨こんろ」として流通するが、製造業者は廃業したという。

 珠洲市で作られていることは、ほとんど知られていないだろう。舟場さんは作って送るだけで、その後の展開までは知らなかったと明かす。「高山市の人は価値を付けるのがうまい。町の雰囲気にも合っているから人気だったのかな」

 飛騨の料理に欠かせない高山コンロ。奥能登の風情を思い描いて味わえば一層趣深いかも。

カテゴリ: くらし・文化