2着以下を大きく引き離して、東海ダービーを圧勝したエムエスクイーン

 クイーンは強かった。今年の東海ダービー(11日・名古屋)は、1番人気のエムエスクイーン(竹下直人厩舎)が、華麗に逃げ切って圧勝。デビュー以来破竹の11連勝を飾り、1986年のミナミマドンナ以来33年ぶりに無敗の東海ダービー馬となった。牝馬の優勝は史上7頭目。竹下調教師はうれしい初制覇で、今井貴大騎手は3度目のダービージョッキーに輝いた。

ゴール後の渡辺竜也騎手(マイネルゾンターク=手前)と佐藤友則騎手(フォアフロント)

 笠松勢は、ぎふ清流カップを制したフォアフロント(井上孝彦厩舎)1頭のみ参戦。佐藤友則騎手が騎乗し、3着に粘り込んだ。渡辺竜也騎手は、名古屋の馬で4着に追い上げた。ライデンリーダー記念で、エムエスクイーンを慌てさせたボルドープラージュ(クビ差の2着)は、笠松から岩手を経て金沢に移籍。駿蹄賞2着のサウスグラストップは骨折のため戦線離脱。期待していた2頭が抜けたのは残念だった。

 レースは1900メートル戦。先手を奪ったエムエスクイーンが、2周目3コーナー手前から加速し、後続を引き離す一方。フォアフロントは、佐藤騎手の懸命の手綱さばきで3番手から追撃したが最後は息切れ。今井騎手は何度も後ろを振り返りながら、勝利を確信。女王は牡馬たちを遠くに従えて、ゴールまでのビクトリーロードを疾走。2着・マコトネネキリマル(角田輝也厩舎)に8馬身差、フォアフロントにはさらに9馬身差をつける圧巻の走りを見せた。

3度目の東海ダービー制覇となった今井貴大騎手(右)と、初制覇の竹下直人調教師(左)

 ロングスパートを決めた今井騎手は、ここ8年で3度目の栄冠に余裕の表情。「デビュー時から乗ってきた自厩舎の馬で勝てたのは最高。状態もアップし、自分の競馬ができた。先頭で駆け上がるのは気持ちいいです。この馬の良いところは、素直でおとなしいこと。連勝を伸ばせるように強い馬に育てていきたいです」と喜びを語り、優勝カップを手にした。

 初制覇となった竹下調教師は「3コーナーからは、後続を待たないで行くように指示した。恵まれた展開になり、うまくいった。ダービーを初めて勝てて、ジョッキーに『ありがとう』という気持ち。(厩舎の生え抜き馬で)暴れずに落ち着いていて、デビュー時から無事に育ってくれた」と語りながら、悲願達成に熱いものがこみ上げたのか目を潤ませていた。29歳で調教師となり40年近く。68歳でつかんだ「ダービー調教師」の称号は、競馬人生でも最高の喜びとなったことだろう。

笠松生え抜きのフォアフロントで3着の佐藤友則騎手

 昨年はビップレイジング(笹野博司厩舎)が、笠松勢としてはエレーヌ以来8年ぶりに制覇。今年は女傑エムエスクイーンの壁が高く、笠松勢の連覇はならなかった。日本ダービーと同じで、騎乗することも大変な東海ダービー。笠松現役騎手では、筒井勇介騎手(2010年、エレーヌ)と藤原幹生騎手(18年、ビップレイジング)の2人が制覇しているが、佐藤騎手らのダービー優勝は来年以降に持ち越された。
 
 レース後の笠松勢。 

 フォアフロントで3着の佐藤騎手。
 「完敗でしたね。打倒・エムエスクイーンで、先手を奪おうかと思いましたが、勝負どころで離された。勝ちにいっての3着でしたが、慣れない競馬場と距離で、これだけ頑張れた。笠松の生え抜き馬なんで、これからも楽しみ」。ジョッキーとしてまだ勝っていない東海ダービーには「特別な思いがあり、ぜひ勝ちたいレース。(来年に向けても)笠松では、また2歳馬に力を入れていきたいです」と意欲を示していた。

マイネルゾンタークで4着だった渡辺竜也騎手

 渡辺騎手と藤原幹生騎手は、名古屋の馬に騎乗して挑んだ。 

 渡辺騎手はマイネルゾンターク(藤ケ崎一人厩舎)で4着。単勝万馬券、8番人気馬での好走。勝ち馬には離されたが、佐藤騎手のフォアフロントにアタマ差まで迫った。初めてのダービー挑戦になったが、「いつものレースと一緒で、特に緊張はしなかった。(ゴール前では)いい脚を使ってくれてましたが、佐藤さんの馬には届かなかったです」と。笠松の馬ではなかっただけに、来年は笹野厩舎の愛馬で挑戦できるといい。

藤原幹生騎手はアップショウで8着

 藤原騎手はアップショウ(倉知学厩舎)で8着。昨年はビップレイジングで大金星。10連勝中で単勝1.0倍だったサムライドライブをゴール前で豪快に差し切り、「ダービージョッキー」の座を射止めた。今年はその手腕も評価されてのダービー参戦となった。「弥富にも調教に行っているし、騎乗依頼を受けて参加させてもらいました。前走の駿蹄賞(4着)でもいい競馬をしていましたが、きょうは最後に止まってしまった」と振り返っていた。

 名古屋競馬開設70周年を記念、この日は第40代エレーヌ賞や第48代ビップレイジング賞など歴代の東海ダービー馬の記念レースも行われ、盛り上がった。勝ったエムエスクイーンはしばらく夏休み。名古屋、笠松で重賞5勝を飾っているが、今後の課題は「内弁慶にならずに、他地区への遠征競馬でどう結果を残していくか」になるだろう。

ゴールするエムエスクイーン。33年ぶりに無敗で東海ダービー馬になった

 ところで、東海ダービー最多勝ジョッキーは、トミシノポルンガやシンプウライデンらで4勝を挙げている安藤勝己さん。昨年末のライデンリーダー記念で笠松に来場。2着馬に計60馬身以上の大差をつけて7連勝中だったエムエスクイーンについて、「そんなに強いなら、JRAのレースにも挑戦するべき」と話していたという。かつて騎乗したライデンリーダーやレジェンドハンターは、笠松から中央に乗り込んで重賞Vを挙げ、GⅠでも1番人気になった。オグリキャップは「東海公営の王者で終わらせるより、日本一を目指したらどうか」と、馬主たちの熱い思いがJRA移籍につながり、「伝説の名馬」へと駆け上がった。中央馬に比べデビューが早く、レース経験豊富な地方の若馬は十分に勝負になった。当時は全国的にも東海勢のレベルが高く、トップホースは中央勢と互角に戦えたのだ。

 3歳馬では東海無敵のエムエスクイーンだが、秋以降の戦いでは、他地区への遠征やJRAとの交流戦に挑んでもらいたい。デビュー10連勝後は苦戦気味のサムライドライブのように早熟タイプかもしれないし、3歳のうちから全国の強豪と戦うべきだ。ラブミーチャン以来、久々に東海地区から誕生した大物感漂う牝馬。JRA勢との頂上決戦は、地方競馬ファンの夢でもある。まずは、岐阜金賞で東海3冠を目指してほしいし、ダービーグランプリ(盛岡)やダートグレード競走にチャレンジできるといい。