観客入りでのレースが再開された笠松競馬場。ファンの応援が「笠松再興」への大きな力になる

 不祥事の連鎖で、真っ暗などん底をさまよっていた笠松競馬。今年はスタートから大きな出遅れが響いて、レースが再開されても後方をフラフラ。経営面では、右肩上がりが続く地方競馬のうちで唯一「マイナスからのスタート」になった。それでも、全てのホースマンが一丸となって「日本一クリーンな競馬場」を目指して信頼回復に努めており、明るい光も見えてきた。ファンの応援が「笠松再興」への大きな力になっている。
 
 「本年度はレース自粛による補償費が巨額に膨らんで、経営状況は赤字必至」とみられているが、レース再開後の馬券売り上げは、前開催「1日平均4億円超」とまずまず。この勢いで来年3月までに単年度赤字をどこまで減らせるのか。笠松ファンの温かいサポートで「超V字回復」を果たせれば、大逆転ともいえる「黒字化」の可能性も1%ぐらいは残されている。

 ■自粛中は、毎月2億円規模の赤字

 昨年6月に発覚した騎手、調教師による馬券不正購入をはじめ、年明けに指摘された所得税の申告漏れ、セクハラなど一連の不祥事。地方競馬組合による大ナタが振るわれ、騎手8人、調教師5人が競馬場を去った。

 「よくぞ、再開できた」の声も聞かれたが、それにしてもレースの自粛期間は長かった。競馬組合では、一貫して「不適切事案」という、内容がぼやけた表現で対処していたが、事件発覚当初にリリースしていたように「競馬法違反容疑」事案といった緊張感のあるストレートな表現の方が、問題解決が早まったのでは。不祥事は次々と発覚し「自粛、自粛」の再延長で、8カ月間もレースが休止される異常事態に陥った。

 このため、自粛期間中の馬主・厩舎関係者への出走・騎乗手当(相当額)などの補償費は膨らむばかり。その額は、競馬場の維持費などを含めて1カ月に約2億円とされ、新年度は8月までの5カ月間で10億円規模にもなる巨額の赤字を抱えることになった。レース自粛中も攻め馬は行われており、馬場の管理費、用地の借地料、職員の給料などはカットできず、馬券収入なしでの厳しい対応となった。
 
 本年度は、再出発の際によく言われる「ゼロからのスタート」どころか、大幅なマイナスで前途多難なリスタートになってしまった。スタンドの耐震化や厩舎の集約など施設改修のため、収益黒字分を積み立てた環境整備基金などが約38億円(今年3月時点)もあったから良かったが、毎月の補償費に充てるため、蓄えを少しずつ取り崩し。存続に関わる重大なピンチを何とかしのいできた。

場内で馬券を購入する笠松競馬ファンたち。コロナ禍もあって、ネット投票が9割を占める時代になった

 ■馬券売り上げ、ネット投票が9割で「SPAT4」トップ
 
 一連の不祥事では「笠松の馬券はもう買わない」という声もあったが、以前と同じように応援してくれるファンも多くいた。再開された9月以降の馬券売り上げは、ラブミーチャン記念が行われた10月28日の4億8200万円が最高。1日平均では、第1回開催が3億2900万円、第2回以降が2億4600万円、3億100万円、4億1800万円。10月からは観客入りとなって、ファンへの感謝とおわびを込めた入場無料や、県産品などが当たるプレゼント企画も実施し、好評だった。前開催では笠松本場に、コロナ禍前を上回る1日平均900人のファンが来場した。

 10月後半4日間の売り上げは計16億7400万円。そのうちインターネット投票が90.3%を占め、笠松本場では2.4%、場外発売は7.3%だった。ネット投票のうち「SPAT4」がトップの38% 、「オッズパーク」は27%、「楽天競馬」は19%、JRAネット投票は16%を占めた。

 コロナ禍もあって「おうち競馬」が定着し、ネットでの馬券販売が9割を占める時代になった。土日に行われる中央競馬では3場開催も多く、10分刻みでレースがライブ中継される。地方競馬は平日が多いが、ナイターを含めれば1日3~5場で開催。各場での30分置き(笠松は35分)というレース間隔は、競馬場内をぶらぶらするライブ観戦と違って、ネット上で楽しむファンはより長く感じることだろう。地元だけでなく、他場にも投票したくなるもので、笠松のレースにも参戦していただいているのでは。

 ダーティーなイメージではあるが、それなりの注目を浴びて「笠松」の名は世に知れ渡った。馬券不正購入で信頼を裏切ったが、不祥事は一掃され、公正な競馬が徹底された「クリーン度100%」の競馬場に生まれ変わった。レースが再開されれば「熱い競馬ファンは戻ってくるだろう。何事もなかったかのように馬券は売れるのでは」と楽観視していたが、やはり再開を待っていた笠松ファンが多くいたことは、競馬場にとって本当にありがたいことだ。

シルバが勝った秋風ジュニアのスタート。スタンドなどで熱戦を見守るファンたち

 ■「ネット革命」、スマホ操作で高齢者にも浸透

 ここ10年間、馬券販売の「ネット革命」とともに、地方競馬を取り巻く環境は激変した。

 9年前(2012年度)、笠松競馬の馬券販売は過去最低の106億7000万円まで落ち込んでいた。基金からの繰り入れを除いた実質単年度収支はマイナス6100万円で4年連続の赤字。04年に存廃問題が浮上してから、笠松が生き残る道として、賞金・手当を大幅にカットすることで、競馬場廃止だけは何とか回避してきた。借地問題などもあって、経営状況は毎年、綱渡りだった。

 事態が好転したのは、インターネット投票がファンに定着し、全国の馬券が手軽に買えるようになってから。スマホの登場とともに出走表の閲覧が容易になり、昭和の時代から地方競馬を支えてきた60~70代のオールドファンにも普及し、ネット操作による馬券購入が浸透した。

 12年10月、JRAネット投票で地方競馬の馬券も買えるようになり、大きなターニングポイントになった。中央競馬ファンにも、平日開催が多い地方競馬の楽しさをアピール。17年4月には、SPAT4で笠松競馬への投票も可能になり、馬券販売額はV字回復となった。

 ■最高に売れた1980年の445億円に迫る勢いだった

 20年度(今年1月後半~3月は自粛)、笠松競馬の馬券売り上げは290億6500万円まで右肩上がり。笠松で馬券が最高に売れたのは1980年の445億円だが、その数字にも迫ろうかという勢いだった。13年度から8年連続で黒字を確保。環境整備基金の積立金は、16年9月の時点で8億円余りあったが、その後も好調なネット販売の恩恵で、基金を38億円まで飛躍的に増やすことができた。

 笠松競馬の経営は1年ごとに「黒字を確保し、税金を投入しないこと」が存続のための大前提。「基金を取り崩しての赤字化=即廃止」の構図は変わらず。プロ野球選手の1年契約並みに厳しい縛りがあるが、自粛期間中も厩舎関係者の生活を守り、競走馬の流出を防ぐため「自粛補償費」は支払われ続けた。

 ここ数年、馬券販売額は2桁の伸び。ため込んだ基金がなかったら、笠松競馬は一連の不祥事で押しつぶれていたことだろう。

 ■1日4億円超えで大きな希望の光

 昨年度は23日間もの自粛があったが、開催72日間で1日平均4億300万円の売り上げがあった。一方、前開催ラブミーチャン記念シリーズの1日平均4億1800万円という数字は、昨年度の1日平均を上回り、競馬場刷新に努めてきた組合など関係者にとっては、大きな希望の光になったことだろう。
 
 本年度は残り8開催35日間。冬場は北海道、岩手、金沢が休業入りするため、競合地区が減って、笠松の売り上げが大きく伸びるシーズンでもある。来年3月までに、どこまで赤字幅を減らして、「まさかの黒字化」にまでつなげられるかどうか。来場者へのファンサービスはもちろん、人気を集めたネット上でのプレゼント企画も引き続き充実させ、「ファンファースト」の精神で集客力アップを図っていきたい。

JBCクラシックを制覇した吉原寛人騎手。昨秋、笠松で行われた西日本ダービーでは地方通算・重賞100勝目を飾った

 ■吉原騎手が大仕事、JBCクラシックで地方馬初V

 地方競馬最大の祭典「JBC競走」は3日、金沢競馬場でJBCクラシックなど3競走、門別競馬場で2歳優駿が行われ、大いに盛り上がった。笠松でも場外発売があり、Tシャツなどの記念グッズを求めて、開門時に200人ほどが並んだそうだ。

 JBCクラシックでは、地方馬が史上初めて制覇する快挙。地元・金沢所属の吉原寛人騎手が騎乗した6番人気ミューチャリー(牡5歳、船橋・矢野義幸厩舎)が3番手から最後の直線で抜け出し、追い込んだJRAのオメガパフュームに半馬身差をつけて、堂々の優勝を飾った。

 笠松での重賞Vでもおなじみの吉原騎手が大仕事をやってのけた。「こんな日が来るなんて、信じられません。抜群の手応えで、鳥肌が立つくらいの脚を使って、押し切ってくれた」と、ゴールでは歓喜のガッツポーズ。昨年9月に笠松で行われた西日本ダービーでは、騎乗した佐賀・エアーポケットで激戦を制してV。吉原騎手自身、地方通算・重賞100勝目を飾ってくれた。
 
 ■東海ダービー馬ニュータウンガールは故障

 JBCスプリントでは、川田将雅騎手騎乗の1番人気レッドルゼル(牡5歳栗東」・安田隆行厩舎)が直線で内から突き抜けて圧勝した。元笠松所属で東海ダービーなど重賞7勝に輝いたニュータウンガール(牝4歳、愛知・角田輝也厩舎)は、3コーナーで馬体に故障を発生し、競走中止となった。このまま引退するとみられており、繁殖馬入りできればいいが。

 笠松時代(井上孝彦厩舎)には重賞5連勝。東海ダービー=佐藤友則騎手=では、全国各地のダービー戦線でも「最も勝利に近い馬」として単勝1.3倍の断トツ人気で完勝した。昨夏、レース中の故障で永眠したストーミーワンダーに続いて、元笠松の名牝ニュータウンガールも競馬場から去ることになりそうで、本当に残念だ。

 ■8日のジュニアクラウン、快速馬シルバ登場

 次回の笠松開催は8日、10~12日の霜月シリーズ。11日には2歳戦のジュニアクラウン(1400メートル、笠松所属馬限定)を実施。熱戦が期待できる。

 秋風ジュニアを逃げ切った快速馬シルバをはじめ、ラブミーチャン記念出走組のシャローナ、ベルマリオン、ナンジャモンジャ、前走勝ちのイイネイイネイイネなどが出走を予定。1番人気になりそうなシルバは、800メートル戦を47秒4で駆け抜け、レコードタイムを更新。今年の笠松では最大の期待馬でもあり、藤原幹生騎手とのコンビで、スター街道を突っ走っていきたい。