オグリキャップの特大ぬいぐるみも登場。記念品や写真が多数展示されている笠松町歴史未来館

 日本競馬界最大のヒーローの熱い走りがよみがえってきた。企画展「笠松競馬場~オグリキャップのふるさとを訪ねて~」が笠松町歴史未来館で12月12日まで開かれており、オールドファンをはじめ、聖地巡礼の「ウマ娘」ファン、家族連れらでにぎわっている。入場無料(9~17時、月曜休館)。

 笠松競馬場の変遷や名馬たちの歴史、競馬場で働く人たちの仕事などを、多数の記念品や写真を通して紹介している。来場者プレゼントとして、競馬場のオリジナルグッズなどが当たる「ガラガラ抽選会」も空くじなしで楽しめる。今回のような企画展は初開催で、名馬を生んだ笠松競馬場の復活を願う当欄「オグリの里」としても待望の展示会となった。

 ■特大ぬいぐるみがお出迎え、「最後のレースは感激して泣けてきた」

 オグリキャップの特大ぬいぐるみがドーンとお出迎え。このサイズは数年前、競馬場内の愛馬会売店にもあったが、当時10万円(プラス消費税8000円)の値段が付いていて、遠来の女性が買い求めていったとか。「芦毛の怪物」とも呼ばれたが、引退後は真っ白になった。北海道の優駿施設でのんびりと暮らす写真などが並び、最初の撮影ポイントだ。オグリの日本酒、サイダーなども飾られている。

 訪れた地元のオールドファンたちは「一頭だけ突然変異のように走ったね。子どもたちはあまり走ってないのに」とか「最後のレース(有馬記念V)は、ものすごく感動して泣けてきた」と回顧。笠松でも里帰りセレモニーが開かれ、「写真を撮りに行った。あの頃は夢中になってレースを見ていた」と当時を懐かしく思い出しながら、笠松競馬が生んだ名馬の活躍を誇らしそうに振り返っていた。
 
 昨春デビューした深沢杏花騎手(19)のほぼ等身大のパネルは、ゴールへまっしぐらで迫力満点。「一緒に記念写真を撮ろう」とフォトスポットとして特設。企画展初日には本人も来館してパネルにサイン。レース再開後は毎開催、勝利を飾っており、騎乗技術もメキメキ向上。新しい厩舎に移籍し、ファンの応援を背に大きく羽ばたこうとしている。笠松所属騎手の紹介や勝負服も展示されており、騎手数は9人に減ったが、少数精鋭で頑張っていきたい。

武豊騎手(右側)と安藤勝己騎手(左側)のサイン入り優勝ゼッケン

■武豊騎手のサイン入り優勝ゼッケンも
 
 お宝グッズとして注目を浴びているのは、オグリキャップのラストラン・1990年有馬記念の「優勝ゼッケン」である。騎乗した武豊騎手と笠松時代の主戦だった安藤勝己騎手のサイン入りだ。ゼッケンは、競馬組合が長年所持・管理していたもので、企画展に合わせて、額装されたまま借りることができた。レースから30年以上が経過しており、本物かどうかの確証はないが、武豊騎手のサインがある方=写真右側=のゼッケンには、よれや擦れた跡が残っており、レースで実際に使われた可能性もあるそうだ。アンカツさんのサインがある方=写真左側=は、見た目にもきれいでレプリカとみられる。
 
 当時、17万7000人超が来場した中山競馬場。日本の競馬史上でも最高のシーンとして語り継がれているあの「オグリコール」。馬券は買っていなくても「オグリ、お前すごいぞ」と感動の嵐で沸騰。拍手、歓声と人波で揺れたスタンド。ウイニングラン後の口取りなど優勝セレモニーの写真展示も盛りだくさん。笠松ファンも大勢、ライブ観戦で声援を送っており、クリスマスシーズン到来とともに伝説のオグリコールの響きが今年もよみがえってきた。

 オグリのほか、笠松三大記念レースに名を残すラブミーチャン。全日本2歳優駿(川崎・交流GⅠ)などの優勝レースやセレモニー、「ミーチャンと浜ちゃんの奇跡の一枚」など貴重な写真も展示。ライデンリーダーが使った蹄鉄や、笠松グランプリなどの優勝レイもあり、ここでしか見られない逸品ばかりだ。

 ■「笠松競馬場⇔歴史未来館」聖地巡礼コース

 国民的アイドルホースとして、時を超えて愛され続けるオグリキャップ。笠松町歴史未来館は、競馬場からも歩いて15分ほどで行ける距離にあり、レース開催日やJRAの馬券も買える土日などに訪れてみてはどうか。

 聖地巡礼で来館していたとみられる男女とは競馬場でも再会。ウマ娘の人気漫画「シンデレラグレイ」にも登場する特設ステージの近くで、笠松グルメの串物などをおいしそうに味わっていた。「笠松競馬場⇔歴史未来館」は聖地巡礼コースにもなっており、大阪、福井、静岡など県外からも多くのファンが訪れている。

パート女性の姿が目立つ馬券売り場内。昭和時代の笠松競馬場の貴重な写真がずらりと並んでいる

 笠松競馬場の歴史では、昭和時代の写真がずらり。馬券売り場、木造東観覧席、場立ち予想屋など興味深いものばかり。戦後になって、表彰式の様子、昭和25年頃の場内風景、馬券売り場内(昭和37年)など、3万人のファンが押し寄せたこともある古き良き時代にタイムスリップしたみたいだ。「笠松けいば探検隊」による厩務員、調教師、装蹄師、獣医の仕事も詳しく紹介。笠松競馬に関わり「生活の糧」にしている人を全て含めれば、笠松・岐南両町で3000人ほどいるそうで、レース再開に胸をなで下ろしているとのこと。競馬場は地域雇用面でも貢献度が非常に高く、なくしてはいけない存在である。

 ■「オグリキャップが大好きで」20~30代のファンもいっぱい

 レース再開に合わせてスタートした企画展は好評で、ウマ娘のキャラクター化もあって、20~30代の若いファンの来館が目立つという。笠松競馬場を舞台にした漫画「シンデレラグレイ」の影響なのか、「年配のファンが多いかと思っていたら、若い方が多くて意外でした」と同館学芸員。

 「聖地巡礼のような感じで『競馬というよりは、オグリキャップが大好きで見に来た』という人が多いですね。展示もギャンブル性のものはあまり打ち出さず、仕事の紹介などを通して、場内の施設をもっと知ってもらおう」と企画したそうだ。

マーチトウショウとの死闘など、安藤勝己騎手が騎乗した笠松時代のオグリキャップのレース映像

 ■宿敵マーチトウショウと死闘、アンカツで7連勝のレース映像公開

 笠松時代のオグリキャップのレース映像も貴重だ。主戦がアンカツさんになった1987年・秋風ジュニアから年明けのゴールドジュニアまで7連勝のレースを放映。2度クビ差負けしていた宿敵マーチトウショウとの一騎打ちでのハナ差勝ち(ジュニアクラウン)。先行した2歳上のハクリュウボーイ(後の誘導馬・パクじぃ)との唯一の戦い(師走特別)などだ。中央時代の映像はテレビでもよく紹介されるが、笠松時代のレースは、ファンも必見の秘蔵映像だ。ウマ娘ファンを意識して、漫画「シンデレラグレイ」のページも展示。登場する笠松みなと公園、岐阜工業高校について紹介している。

 コロナ禍前、笠松競馬場の2階休憩所では「みんなでつくるオグリキャップ写真展」が開かれていた。現在は休止中で、展示されていた作品を、今回の企画展で披露した。映像は競馬組合から借りたもので、7レース分を常時放映しているが、笠松時代のオグリのレースが記憶にある人は少ないだろう。古馬にはフェートノーザンやワカオライデンなど強い馬がいっぱいいたから、デビュー1年目のオグリはそれほど目立っていなかった。中央入りしてからは重賞6連勝にGⅠ4勝。全国のファンから「すごい、地方出身の怪物だ」と注目され、笠松には「逆輸入」のような形で脚光を浴びた。企画展はゼッケンなど貴重な品々であふれており、管理が大変だが、防犯カメラで24時間監視しているそうだ。

 競馬場につながる「トンネル」でもある笠松駅地下道「馬壁画プロジェクト」も紹介。美術作家の森部英司さんが発案し、笠松中や岐阜工業高の生徒らが制作した。「笠松競馬は厩舎が場外にあり、町なかで馬の歩く姿が見られる全国でもまれな場所。住民が馬を地域資源として見直す機会にもなる」と馬の町をアピール。今回、作品も寄せている。

空くじなしで賞品がプレゼントされるガラガラ抽選会

 ■お楽しみの「ガラガラ抽選会」、売店休止中の愛馬会も協力
 
 帰りには「ガラガラ抽選会」があり、子どもたちも楽しんでいた。入場無料で空くじなしは、ちょっとうれしい。景品は、競馬組合(ぬいぐるみ)や愛馬会(タオルやキーホルダー)も提供。このほか愛馬会が手作りしているクリスマス用リースが並べられており、年末に向けては、蹄鉄を再利用したしめ縄飾りも販売される。さらに応募者プレゼントとして、ラブミーチャン特大ぬいぐるみ、所属騎手のヘルメットカバー、オグリキャップサイダーが抽選で当たる。

 愛馬会は調教師の妻らが中心になって、競馬場の存続を長年支え、グッズ売店は「笠松ファンのオアシス」とし人気を集めてきた。東門近くにあったが、レース再開後も休止中。不祥事の余波を受け、厩舎関係者の家族も競馬場内での活動が制限されたようだが、ウマ娘人気もあって、売店の再開を待ち望むファンは多い。グッズ販売やオークション(売上金の一部で協賛レース支援)を通して「クリーンになった笠松」を全国にアピールする場でもある。場内が難しいなら、正門前の空きスペースなどに売店を設けて、盛り上げていけるといい。リースや蹄鉄グッズなどは名鉄笠松駅構内の「ふらっと笠松」でも販売されている。

 今回の展示会は「不祥事でレース自粛が続いたが、笠松町としても協力して笠松競馬を盛り上げたい」と企画された。競馬場副管理者でもある古田聖人笠松町長が「笠松競馬の魅力を堪能してもらい、信頼回復に取り組む関係者の思いをくみ取っていただければ。熱い応援をお願いします」と、メッセージを寄せている。笠松競馬場の愛称は2004年に公募で決まった「名馬、名手の里 ドリームスタジアム」であり、夢と感動を与える競馬場として再生を図っていく。

 ■場内に「オグリキャップ記念館」を

 笠松競馬にとって、ウマ娘ブームは若いファンを増やすチャンスでもある。「馬のテーマパーク」的な発想で、将来的には「オグリキャップ記念館」のような、ファンに楽しんでもらえる夢の施設が、オグリ像近くに常設できれば素晴らしいことだ。ライブ観戦のファンはもっと増えるし、飲食店も活気づくことだろう。

 オグリが余生を過ごした北海道・新冠町にある「優駿記念館」でも、中央時代の活躍をたたえる数多くの記念品や感謝のメッセージなどを展示していた(コロナ禍で休止中)。レース映像、グッズ販売、飲食コーナーなどもあったが、笠松にもそんな記念館があってもいいのでは。漫画「シンデレラグレイ」で盛り上がっているように、笠松時代の活躍をもっと知ってほしい。オグリ像近くの空き施設をリニューアルするなどして再生をアピール。「50年、100年に1頭」とも言われるファンの記憶に残るアイドルホースであり、これからでも遅いことはない。新生・笠松が軌道に乗ってからでいいので、競馬場内で「名馬、名手の里」の常設展示を期待したい。